【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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祈り

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 竜神様にご馳走を作ると息巻いていた私だったけど、北の領地に避難しきれなかった老人、病人、小さい子供連れの家族たちが神殿に避難してきた。
 その為グレンさん、レインさんを手伝い対応に追われた。 
 閉じられていた離宮を解放した。急ぎノコアちゃん率いる侍女部隊と掃除をし、家族連れを案内した。 
 病人には清潔なベッドを用意し、綾乃さんとポーションを飲ませる。神殿に残ったセナさんも綾乃さんをサポートとし献身的に動いた。
  
 続く地震で崩れた瓦礫で怪我をした人、暗黒竜討伐で負傷した兵士たちが次々に担ぎ込まれ、広場はさながら野戦病院と化した。 
 
 緊急性の高い怪我は、グレンさんとレインさんが治癒の力を施す。死に至らない怪我は綾乃さんのポーションを飲ませる。 
 竜珠に貯めた聖なる力を竜神様の成長に使い果たして、空っぽの状態だから。グレンさんとレインさんの力を無駄に出来ない。 
  
 暗黒竜との戦いが何時まで続くかわからないのだから……。  


 外は変わらず、真っ暗で時折不気味に稲光が走り、轟音が鳴り響く。 
 小さい子供が怖がり泣きながら、母親に抱き付いた。皆も不安そうに空を見上る。誰も彼も疲労の色を隠せない。 


竜神様………。 

大丈夫かしら? 

 隠し部屋で不安に駆られ竜神様をギュウと抱き締めた私を『へーき』と、抱き締め返してくれた。幼く優しい竜神様を思い出した。 

 ずっと、あの暗闇のなかで巨大な暗黒竜と戦っているんだわ。 

 不安はない?痛くはない? 
  
 胸が痛い……切なく、歯がゆい。 
 私は竜神様の力になりたい。 
  
 竜神様の成体変化に、綾乃さんの聖なる力のお陰で私は生命維持ギリギリまで聖なる力を使わずに済んだ。 

 ここに生きて立っている。私が今、竜神様にしてあげられることはなんだろう? 
 
 兵士の腕に包帯を巻き終えると、胸の前で指を合わせ、空に向かいそっと祈りを捧げた。 

どうか、ご無事で。 
生きて帰って。
  
「マナツどうしたんだ?」  

「マナツ様?その、お姿は?」 
  
 グレンさんとレインさんの戸惑う声が聞こえた。

 胸の奥にぽっと蝋燭が灯る、ゆっくりと私の中から、沸き上がる広大な温かい力。淡く体が発光した。淡い光りが、徐々に強く、光を放ち広場を包みこんでいく。  

「祈って下さい……竜神様のために」 
 自分の声とは思えない凛とした自信のある声。 

「マナツさん!何で光っちゃってるのよ!」 
 綾乃さんが瞠目した。 

「アヤノ様……マナツ様は、真の聖女に成られたのですよ」レインさんが粛々と跪いた。

「ああ、真の聖女と共に竜神様の勝利を祈ろう!」   
 グレンさんが力強く頷くと、膝を付き祈りを捧げた。
 
「……聖女様、なんと神々しい光」 

「我らも……竜神様に祈ろう」 

 老人も子供も怪我人さえも、その場で膝をつき祈りを捧げた。 

 みんなの祈り……純粋な聖なる力が私の中に蓄積していく。熱い思いがあふれて、こぼれそうなほど。 
  
 私は、両手を高く掲げるとその力を解放した。 

 神殿に光の柱が立ち上る。圧倒的な光は暗闇を突き破り、稲光を蹴散らした。 
  
 そして、光の矢となり真っ直ぐ竜神様目指して、西の空に飛んでいく。
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