【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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帰る場所

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 竜神様の小さな体が虹色に輝き、蝶が羽化するように鮮やかに劇的に、幼児体型から成熟した大人の女性へ劇的に変化していく。 
 身長が私の、頭2つ分まで大きくなった。短い手足は長くすらりと伸びて。 
 まん丸ほっぺに、丸い顔は鋭角な小顔に変わった。短く太かった首は細く美しく。 
  
 少し垂れ目の零れ落ちそうな大きな瞳。金色の蜂蜜を溢したような瞳の色は変わらない。美しい瞳を際立たせるように長いクルンとした睫毛が彩りを添える。
 タンポポの綿毛のようなフワフワの金色の長髪は、深みを帯びた艶のある色合いに。 
 小さい形の良い鼻は高く。サクランボのような唇は、薔薇色に染まる。 
 ペッタンコだった胸は、豊満に実る。括れて掴めそうな柳腰に、上向きで張りのあるまろやかな臀部。 
 女の私から見ても羨ましいほどのメリハリのある体付きに、思わず息を飲んだ。

 この世の者とは思えない、絶世の美女が姿を表した。 


「ほ、本当に……竜神様なの?」 
 目の前で変化されたのに信じられない。 
 
「そうです……わたくしは竜神。 
 このアーガストを統べる神です。聖女マナツ、お力添え深く感謝致します。貴女の献身と皆のお陰で、わたくしは今、戦う力を取り戻すことが出来ました」 
 凛と深く澄んだ声で竜神様は流暢に喋った。当たり前だけど、舌足らずな幼児言葉の片鱗なんかない。 
 もう竜神様は、子供ではないんだわ。その事が、嬉しくて……でも、少し寂しくて。 

 竜神様は、寒い日の温かい太陽のような穏やかな、真のある瞳で真っ直ぐ私を見つめた。
  
  
「ごめんなさいベンダル!わたくしは……我慢出来ません!!」  

「え?!!竜神様!!」 
 
「竜神様!」 
  
 ぎゅうううううっと竜神様に抱き込まれた。豊満な胸に押しつけられる。息も出来ないほどの熱い抱擁。ぷにゃんと顔が胸に沈んだ。 
  
 や、柔らかい!なんて、素晴らしいの!

「マナツ!マナツ!!ベンダルにはしたないと威厳がないと言われても構いませんわ。 
 わたくしはずーーーと、貴女を抱き締めたかったんですもの!」 
 竜神様が自分の頬を私の頭に擦りつけ、スリスリしている。腕の力を全く緩めてくれない、寧ろ力が入ってきてる……。  

「マナツの腕に抱かれると、わたくしとても安心しました。 
 貴女はいつの時でもわたくしを宝物のように、大切に思ってくれていましたから」
 
「ちょっと、く、苦し…いっ」 
 竜神様の胸で苦しくてもがくと、やっと気づいて拘束を緩めてくれた。上を向くと潤んだ瞳の竜神様と視線が合う。

「マナツ、わたくしは貴女が大好きですわ」 
 
「………私も、竜神様が大好きよ」 
 竜神様が大きく成長したから私の頭はちょうど竜神様の胸元だった。今度は私からその胸に抱き付いた。  
  
「無事に帰ってきてね……ご馳走作って待っているから」 
 
「はい!わたくしの帰る場所はここですから」 
 竜神様は、額に飾って置きたいほど美しい笑顔で私に言った。 


 竜神様は、渋い顔でレインさんと話すベンダルさんに駆け寄るとその手を繋いだ。 
  
「レイン、グレン!神殿を怪我人を頼むぞ」 

「二人ともマナツを守ってくださいね」  
 
「お任せ下さい!どうかご無事で」
 レインさんとグレンさんが深々と首を下げた。
 
「竜神様、ベンダル様!暗黒竜をボコボコにのして、ギャフンと言わせてきて!」 
 綾乃さんも激励を飛ばす。
  

 竜神様は、人型の体をスルリと竜化させた。 
 全身が金色の鱗に覆われたベンダルさんより小型の光り輝く美しい竜だった。 
  
 二匹の竜はコツンと額と額をぶつけた。長いしっぽを絡め、寄り添いあい大空を飛んで行く。 


 
 ぐらりと地面がまた大きく揺れた。レインさんがふらつく私を支えてくれる。 
  
 目を少し離しただけで、空を駆ける竜はもうあんなに遠い。

 暗く稲光る西の空に、二人がどんどん小さくなっていく。 
 あの暗闇に暗黒竜がいるんだわ。不安な気持ちで蠢く暗闇を見つめた。 

 
「大丈夫だ………竜神様とベンダル様は絶対に帰ってくる」  
 
「そうです、二人は帰って来ます」  
 
 私の肩に、そっとグレンさんとレインさんが手を置いた。私を安心させようとする二人の温もりが嬉しから。 

「ご馳走……頑張って作るわ」  
 にっこりと二人に腕捲りをして見せた。
   



 
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