【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

文字の大きさ
上 下
72 / 87

完成した治療薬

しおりを挟む
 
 魔女みたいな鍋に綾乃さんが準備した薬草を加えて一緒に混ぜた。 
 聖なる力と思いを沢山込めて。 

 出来上がった治療薬は金色に輝き、綾乃さんの明るい表情から、成功したのがわかった。  

 夕食作りと治療薬作りで聖なる力を使い果たした私は、既にヘロヘロ。 
 後でグレンさんかレインさんに魔力譲渡をお願いしないだけと………自分から言うのは口づけをねだるようで恥ずかしい。 

 広場にひた走る綾乃さんからは疲労を感じない。綾乃さんだって、料理に治療薬と聖なる力をたくさん使ったのに……悲しいかな……若さの違いだろうか? 

 綾乃さんに遅れて広場に着いた。抱き締めていた竜神様を床に下ろし、肩で息をする私をグレンさんが支えてくれた。 
 
「ベン!グレ!」 
 広場には解放軍追撃から帰還したベンダルさんとブランドさんがいた。 
 嬉しそうに竜神様が駆け寄る。ベンダルさんは破顔し、逞しい腕で竜神様を抱っこした。その様子を羨ましそうに見たブランドさんが、竜神様の頬っぺに触れようと手を伸ばしベンダルさんに、払われた。睨む合う二人に怪我は見られないようで、一安心する。 
 
  
 聖なる力を使い疲労困憊の私を見かねた、グレンさんに別室に連れて行かれた。カサカサする唇を押し付けられた。噛みつくような口づけをされて、舌を絡められ唾液を流し込まれる。 
「んっ」 
 魔力譲渡の熱が快楽を呼び起こそうと体に浸透する。グレンさんの両手は、私の胸に添えられて。 
 
「く、残念だが……戻らないとだな」  
 グレンさんは名残惜しそうにちゅっとリップ音をたてて唇を離した。 
 
「あの、グレンさん……手も…その、離してほしいんだけど」  
 グレンさんの大きな手は私の胸をわしつかんだままだった。 
「すまない!つい……」 
 ぱっと、胸から手を離すと申し訳なさそうに、私の腕を引いた。
 
 
 
 広間に戻ると綾乃さんとベンダルさんの言い争う声が聞こえた。驚いたことにセナさんを含む西出身の兵士たちが後ろ手に拘束され、毛布の上にころがされていた。 
 竜神様はブランドさんと手を繋いでいたけど、私を見ると手を離し抱っことせがむので抱き上げた。 
  
「ベンダル様!レイン何があったんだ?」  

「どうしたの?綾乃さん!」  
   
「どうしたも、こうしたもないわ!ベンダル様いきなり帰って来て、広場で養生するセナたち西の人たちを渋い顔して見てると思ったら、レインさんに拘束して隔離しろって命令したのよ!!痛みがおちついてきたのに!動かすなんて人でなしよ!」  
 食ってかかろうとする綾乃さんを手で抑えて、ベンダルさんの前に立った。 
 
「ベンダルさん……理由を説明してください」 
 意味もなく虐げる人じゃないことは知っている。  

「……黒花病の患者が死ぬと暗黒竜の手下の兵士になるからだ」 
 苦虫を噛み潰したような顔でベンダルさんは言った。
  
「え??」 
「はああ?なに言ってるの??」 
  
「信じられないと思いますが、私とベンダルは見たんです。死んだ解放軍の黒花病患者の体に黒い蔦模様が巻き付つき、木乃伊のような暗黒兵士に変化するのを………今まで、何処から暗黒竜の残党兵が来るのかわかりませんでした。 
 北の領地を脅かしていた残党兵は西の領地で死んだ黒花病の患者だったようです」ブランドさんが補足して説明してくれた。


「暗黒……兵士が……黒花病の患者……嘘だろう?」 
 グレンさんは信じられないと首を降る。 

 
「ブランド様は、死体と言いました。 
 今、セナたちは生きています。彼らを拘束する意図を教えて下さい……私たちはいくらベンダル様の命令でも、不当に仲間を虐げたくはないです」  
 レインさんも命令に従うのが不服そう。笑みはそのままにベンダルさまに詰め寄った。 

「セナ………今、黒花病は疼いているか?」 
 ベンダルさんは、レインさんの質問には答えずセナさんに問うた。  


「……アヤノの治療薬である程度の進行は抑えられていますが……ずくずく疼きます。それに、頭から声が聞こえます」 
 拘束された体を丸め怯えた様子のセナさん。
 
「セナ!声ってなんのよ!!」 
 不安に駈られ綾乃さんが叫んだ。 

「こ、声が聞こえるんだ……殺せ……憎め……食らえと……竜神様を……仲間を……くっ!!があっ!!」 
 悲鳴をあげて、セナさんがのたうち回った。 
 治まったはずの蔦模様が体を見る間に黒く染める。 

「レイン……これが、俺がお前に仲間を拘束させた理由だ!!
 レインとグレンの結界は強力だ。正面突破は時間が掛かる。 
 奴は神殿の中から竜神様を害し結界を破壊する目的で、セナたちを利用するつもりだ。 
 復活した邪悪な力で黒花病を活性化させて、宿主を殺し無理やり死体を作ろうとしているんだ!自分の手足となる暗黒兵をな!!」 

 
「そんな……酷い」 
「な、なにそれ……」  
 私と、綾乃さんは呆然と立ち尽くした。

 セナさんの悲鳴に呼応するように、症状が治まっていたはずの兵士が、一人、また一人とのたうち悲鳴をあげる。

 
「仲間として…人であるうちに、逝かせてやろう」 
 ベンダルさんがすらりと剣を抜いた。

「くっ!!……ベンダル……私も、手伝います!」 
 苦々しいモノを呑み込んだブランドさんは、顔を歪ませながらもベンダルさんの横に立つ。
 
 
「待って!ベンダルさん!!」 
「だめだぉ」
「マナツ様、竜神様下がってください」 
 レインさんが私と竜神様を庇い後ろに下がらせた。 

「おい!アヤノ!お前も下がれ」 
 綾乃さんはグレンさんが掴んだ肩の手を豪快に振り払うと、ベンダルさんとブランドさんの前に立ち塞がった。 

「待って!!真夏さんと協力してたった今、治療薬が完成したの!!」 
 
「ほ、本当ですか!」 
 ブランドさんは剣を収めて引いてくれた。彼だって同胞をその手にかけたくないのだ。
 
「……治療薬か? 
 今更だな……残念だがここまで黒花病が進行し、半暗黒兵化した患者に効果が在るとは思えん……ただ闇雲に苦しみを長引かせるだけかもしれんぞ」 
 
「……苦しみを…」 
 苦しむセナさんを振り返り、綾乃さんの顔が歪む。 

「確かに誰も治験もしていないし、本当に効果が在るのかはわからない……でも、助かる可能性もあるわ」堪らず助け船を出した。 
 
「たすかう~」 
 竜神様が可愛く言っても、ベンダルさんは眉間の皺を深めるだけ。
 
「戦場ではな……中途半端な希望ほど残酷なモノはないんだ」 
 戦いに身を置き苦しんできた経験者の目は酷く濁っていて、一筋の甘さを許さないかのよう。
 

「あー!!もう!!私は、戦場なんて知らないわ!うだうだ言ってないで、試させなさいよ!!やるだけやって、ダメなら諦めるわ!!」  
 綾乃さんは大声で啖呵をきると、怒鳴られて驚くベンダルさんを無視した。 
 
「お、おい!」  
「ベンダル様、アヤノ様は変わりました。信じてあげてください」
 ベンダルさんはレインさんに諌められ、剣を抜いたまま、後ろに下がった。
 
 綾乃さんはグレンさんを呼び、暴れるセナさんを抑えつけさせた。私も、足を抑えた。 

「セナ!口を開けて飲みなさいよ!」 
 
 苦しくて歯を食い縛り中々、口を開けてくれない。業を煮やした綾乃さんは、最終手段に出た。
 
「綾乃さん!?」 
「んっ」
 自ら薬を煽ると、セナさんの引き結んだ唇に唇を合わせた。苦しいながらも、意図に気付いたセナさんが僅かに開けた隙間から薬を流し入れた。 

  
 こくり、こくりと、セナさんの喉が上下する。 
 金色の治療薬がセナさんの体に浸透する。 

 それは、初めは僅かな変化だった。 

 ぽっとセナさんのお腹が淡く発光した。蛍のように点滅しては繰り返す、小さな弱々しい光。 
 光は点滅を繰り返しながら、徐々に大きく力強く光の帯となり体を駆け巡る。 
 
「おおっ!」
 
「これは……凄い」 
 
「聖なる力が……満ち満ちている」 

「綺麗……」

 全身を内側から照らす神々しい光の渦は、禍々しい黒い蔦模様を根こそぎ浄化した。
  
 長きに渡り体に巣食い、彼を蝕んでいた黒花病が完治した瞬間だった。
 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

処理中です...