【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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蠢くモノ②

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「迂闊でした……有事の際、神殿内の決定権は神官長より始まりの竜に移行します。 
 ベンダル様とブランド様が解放軍迎撃のため不在。竜神様はいまだ幼性体です。 
 決定権の順位は幼体より成体のアンローザ様が高位と成ります。 
 アンローザ様は、罪人の処罰は自分が行う。西の領地で聖女として働いてもらうと強引に連れて帰ってしまいました」  
 レインさんは額を抑え、大きく溜め息をついた。
 
「俺とレインで阻止したんだか、相手は始まりの竜、力では敵わない。決定に背くなら代わりにマナツを連れていくと脅されて、仕方なく諦めたんだ」

「それで、私をここ隠し部屋に連れてきたのね。守ってくれてありがとう」  

「あーり!」 
 竜神様もグレンさんにお礼をしてる。
  
「それで、小春さん嫌がったり抵抗したりは?」 
 怪我をしていないといいけど。 

「はっ!あいつ、やっと自分を理解してくれる男が    助けに来たと、泣いて喜んでたぜ」 
  
 小春さんには、アンローザさんが白馬に乗った王子様にでも見えたのかもしれない。 

「本当は、マナツ様かアヤノ様を連れて帰りたかったようです。アヤノ様に黒花病の研究をするなら東に来ないかとお誘いしてセナに断られていますし、マナツ様は、竜神様のお手当てが有りますから」 

「セナさんが断ったの?故郷の国土病ならその土地で研究した方が効率が良さそうだけど」  
 
「……セナは、アンローザ様を信用していませんから」 
 
「信用していない?」 

「ええ……セナは、アンローザ様が近寄ると黒花病が疼くそうです。それに、本気で治療法を探しているようには見えないと」  
 レインさんの瞳がスッと細められた。 

「見えない?……おかしいな。自分も病に犯されているのに」 

「アヤノ様も怒っていましたよ。黒花病の進行を遅らせる治療薬をアンローザ様は飲もうともしなかったと」 

 
「もしかして………犯されていないのかもしれない」 
 ポツリと私は、呟いた。 

「え?」  
「な?」
 レインさんとグレンさんが同時に私を見つめた。

「誰かアンローザさんの隠れた服の下の皮膚を見たことがある? 
 黒花病の蔦模様を確認した人は居るの?」 

「……私は、見たことがありません」 
 
「俺もないが、アンローザ様がわざわざ病気を偽る意味はあるのか?」 

「………病気と偽って……もっと別のモノを服の下に隠しているのかもしれません」 
 レインさんは珍しく眉間に皺を寄せた。 

「はあ?別のモノってなんだよ」  
 イライラしているのかグレンさんの口調は荒い。
 
「………それは解りません。 
 始まりの竜の力で抑えているとはいえ、アンローザ様だけが発病して100年以上生きています。何故かと初めから怪しむべきでした。 
 それに黒花病が西の領民にしか発病しない。他の領地の領民からは一切見られない。国土病にしては限定的すぎで、原因不明。的確な治療法もなく、情報量も少ない……余りに不自然でした」 
 レインさんは言い澱んだ。 
  
「レイン、お前……黒花病はアンローザ様が原因だとでも言いたいのか?」 

「原因とまでは確証がなくて言い切れませんが……ただ、彼は何らかを知っていると思うのです。不信感を持つセナにも話を聞いた方が良いでしょう」

「くそ、不可解なことが多すぎる」

「確かに多いわ……でも、媚薬事件の首謀者はアンローザさんだと思うの」 
 確証を持って私が告げるとレインさんも同意した。 

「レインも同じ意見か? 
 アンローザ様なら始まりの竜で牙から領地印を作れるが、それだけじゃ首謀者にする理由としては弱いぜ。ベンダル様も竜神様も作れるからな」
 
「グレンさん!思い出して……あの日の夜を、深夜なのに明らかに場違いな人が一人居たわ」 

「場違い?」 
 グレンさんは腕組みをして考えた。 

「グレン、貴方は寝るとき何を着用しますか?」 
 謎解きをするようにレインさんはグレンさんに尋ねた。

「俺の寝衣か? 
 白の寝間着……あっ!!そうか!あの日アンローザ様は、派手な極楽鳥の服のままだった」  

「それに、化粧もしたままだったの。
 美意識高いアンローザ様なら寝る前はしっかり化粧を落とすはずだもの」 

「そうです。 
 まるで、事件が起きることを前もって、知っているような完璧な装いでした」 

「くそっ!コハル様が媚薬を盛るのを知っていて、  何食わぬ顔で合流していたのか? 
………でもな、アンローザ様は、マナツに浄化をしろと的確にアドバイスしている、おかしくないか?」 
 
「アンローザ様は媚薬事件を失敗させたかったんですよ」 

「失敗………なんのために?」 

「失敗すれば、コハル様は罪人になる。 
 罪人におとすため、媚薬の効果をコハル様に強調したり、自分の荷物に紛れさせた薬草をシャインに盗ませた。 
 罪人なら有事の際、ベンダル様、ブランド様が留守の間に始まりの竜の決定権で自分のモノに出来ますから」  

「自分のモノ」 
 
「ええ、そう考えるとブランド様に全ての罪を被せ、ベンダル様に監視、幽閉させた。そうして……解放軍を扇動し出兵させ、無理やり有事を作り出した」 

「有事を作り出す……そんなことしてまで」
 
「それほどまでして、アンローザ様は聖女が欲しかったのでしょう」  

「……黒花病の治療ではないなら、なんのために小春さんを連れて行ったのかしら?」 
 アンローザさんの目的が全く解らない。小春さんを気に入って、花嫁にするような甘さを感じない。
  
「それも不明ですが…… 
 もしかすると、何か得体のしれないモノが背後に蠢いているのかもしれません」 
  
 外からドオンと落雷の音が響き、狭い隠し部屋を震わせた。直ぐに急くような豪雨の音がバラバラと降り落ちる。小さな隠し窓から覗く空は墨のような黒。 
 吸い込まれそうな闇に蠢く何かの気配、得体のしれない不安を感じて、竜神様が私を見上げた。 

 その、小さなお手々をギュウと握りしめた。もう二度とこの手を離さないから。  
 
 私は、蠢く暗闇を睨み付けた。
 
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