【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

文字の大きさ
上 下
55 / 87

沈静化①

しおりを挟む
  
 二人とも余程、慌ててき来たのだろう、白い寝間着のまま。 
 ブランドさんに至っては、呪いの影響で髪先が黒く焦げていた。 

「グレン!状況の説明を!」  
 レインさんはブランドさんと結界を展開したままグレンさんに問う。 
  
 グレンさんから状況を聞いたレインさんはその美しい顔を歪ませた。 
 
「私の落ち度です………シャインが、手紙で他人の名を語りアヤノ様に媚薬を依頼していたのをセナ経由で把握していたのに、泳がせ過ぎた。 
 まさか……竜神様の身代わりにマナツ様が飲むなんて考えもしませんでした」 

「レイン知っていて黙っていたのか!」 
  
「……すいません、グレン。貴方は直ぐに顔に出ますから。それにシャイン単独犯が協力者が存在するか調べている最中でして」 

「お前……マナツ様が巻き込まれる、危険を考慮しなかったのか!」 

「二人とも……言い争っている時間は有りませんよ。聖女マナツの回復と竜神様を鎮めるのが先です!」 
 責めるグレンさんをブランドさんが諫めた。 

「そうだな!ブランド様結界を頼む!」  
「私は、繊細な力を使う結界は苦手です。お早くお願いします」
 グレンさんは背後でぐったり倒れる、私を抱きしめると、唇を合わせた。 

「マナツ様!俺の力で、回復を」 
 噛みつくように早急に口づけされ、舌と唾液と共に聖なる力が体に浸透する。 
  
 薬の効果が薄れ、体の痛みが気持ち悪さが引いていく。 

「んっ、…グレンさん……あ、ありがとう。竜神様は大丈夫?」 
 首を動かし竜神様の方を向くと、空間に黒い巨大な渦がもうもうと巻いているのが見えた。 
 禍々しい闇。竜神様は大丈夫かな?
 
「クソ!自分の心配をしろよ!まだ喋るな」 
 グレンさんは泣きそうな顔でまた、私に口づけした。 
  
 
「ちょっとちょっと!兵士も侍女も呪いで倒れてるじゃないの!何があったの~!竜神ちゃんは大丈夫なのー?」 
 テンション高く、アンローザさんが寝室に文字通り転がり込んできた。 
 さすがと言うべきか、美意識高いアンローザさんは、真夜中なのに極楽鳥のような衣類を纏い、化粧もしっかり施している。
 
「きゃーー!!竜神ちゃん呪いまみれじゃないのーー!!」 
 竜神様を見てカン高い悲鳴をあげた。 
 
「アンローザ様!早く結界の中心に、呪いで黒花病が進行してしまいますよ」  
 レインさんに促されアンローザさんはレインさんの後ろに移動すると、彼の背中越しに常世の闇を睨んだ。

「ダメよ!このまま呪いを吐き続けたら、竜神ちゃんの体が持たないわ!また、カサカサの醜い芋虫に逆戻りよー!!」 

「アンローザ!これ以上結界が持たない。何か策はないのですか?」 
 苦しそうにブランドさんが呻いた。
 
「聖女の聖なる力なら呪いを沈静化出来るはずよ!でも………今のマナツちゃんの体は耐えられるかしら?」
   
  
 はっとグレンさんが息を飲み、肩を抱く腕に力が籠る。 
「駄目だ!今のマナツ様には到底させられない!」 
  
「グレン……他に方法が有りません」  

「レインまで言うなよ!マナツ様を死なせたいのか!」 

「グレン落ち着いてください……竜神様はマナツ様が害されてお怒りになった。だから、マナツ様の無事がおわかりになれば、落ち着かれると思います」 

「私は大丈夫よ……竜神様を鎮めるわ」
 
「駄目だ!」 
 きつくグレンさんに抱き込まれる。 

「グレン。貴方がマナツ様がとても大切なのは解ります。ですが……神官の勤めを放棄してはいけませんよ……周りをよく見て下さい。呪いは神殿から町に広がります」静かにレインさんはグレンさんを諭す。
 
「心配しないでグレンさん……竜神様とお話するだけよ、直ぐに終わるから」 
 力の入らない手で、優しくグレンさんの頬を撫でた。 

「…………………わかった。援護は……任せろ」 
 赤い瞳が不安に揺れて、今にも泣き出しそう。 
  
 それでも彼は私の意思を尊重してくれた。 


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

処理中です...