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沈静化①
しおりを挟む二人とも余程、慌ててき来たのだろう、白い寝間着のまま。
ブランドさんに至っては、呪いの影響で髪先が黒く焦げていた。
「グレン!状況の説明を!」
レインさんはブランドさんと結界を展開したままグレンさんに問う。
グレンさんから状況を聞いたレインさんはその美しい顔を歪ませた。
「私の落ち度です………シャインが、手紙で他人の名を語りアヤノ様に媚薬を依頼していたのをセナ経由で把握していたのに、泳がせ過ぎた。
まさか……竜神様の身代わりにマナツ様が飲むなんて考えもしませんでした」
「レイン知っていて黙っていたのか!」
「……すいません、グレン。貴方は直ぐに顔に出ますから。それにシャイン単独犯が協力者が存在するか調べている最中でして」
「お前……マナツ様が巻き込まれる、危険を考慮しなかったのか!」
「二人とも……言い争っている時間は有りませんよ。聖女マナツの回復と竜神様を鎮めるのが先です!」
責めるグレンさんをブランドさんが諫めた。
「そうだな!ブランド様結界を頼む!」
「私は、繊細な力を使う結界は苦手です。お早くお願いします」
グレンさんは背後でぐったり倒れる、私を抱きしめると、唇を合わせた。
「マナツ様!俺の力で、回復を」
噛みつくように早急に口づけされ、舌と唾液と共に聖なる力が体に浸透する。
薬の効果が薄れ、体の痛みが気持ち悪さが引いていく。
「んっ、…グレンさん……あ、ありがとう。竜神様は大丈夫?」
首を動かし竜神様の方を向くと、空間に黒い巨大な渦がもうもうと巻いているのが見えた。
禍々しい闇。竜神様は大丈夫かな?
「クソ!自分の心配をしろよ!まだ喋るな」
グレンさんは泣きそうな顔でまた、私に口づけした。
「ちょっとちょっと!兵士も侍女も呪いで倒れてるじゃないの!何があったの~!竜神ちゃんは大丈夫なのー?」
テンション高く、アンローザさんが寝室に文字通り転がり込んできた。
さすがと言うべきか、美意識高いアンローザさんは、真夜中なのに極楽鳥のような衣類を纏い、化粧もしっかり施している。
「きゃーー!!竜神ちゃん呪いまみれじゃないのーー!!」
竜神様を見てカン高い悲鳴をあげた。
「アンローザ様!早く結界の中心に、呪いで黒花病が進行してしまいますよ」
レインさんに促されアンローザさんはレインさんの後ろに移動すると、彼の背中越しに常世の闇を睨んだ。
「ダメよ!このまま呪いを吐き続けたら、竜神ちゃんの体が持たないわ!また、カサカサの醜い芋虫に逆戻りよー!!」
「アンローザ!これ以上結界が持たない。何か策はないのですか?」
苦しそうにブランドさんが呻いた。
「聖女の聖なる力なら呪いを沈静化出来るはずよ!でも………今のマナツちゃんの体は耐えられるかしら?」
はっとグレンさんが息を飲み、肩を抱く腕に力が籠る。
「駄目だ!今のマナツ様には到底させられない!」
「グレン……他に方法が有りません」
「レインまで言うなよ!マナツ様を死なせたいのか!」
「グレン落ち着いてください……竜神様はマナツ様が害されてお怒りになった。だから、マナツ様の無事がおわかりになれば、落ち着かれると思います」
「私は大丈夫よ……竜神様を鎮めるわ」
「駄目だ!」
きつくグレンさんに抱き込まれる。
「グレン。貴方がマナツ様がとても大切なのは解ります。ですが……神官の勤めを放棄してはいけませんよ……周りをよく見て下さい。呪いは神殿から町に広がります」静かにレインさんはグレンさんを諭す。
「心配しないでグレンさん……竜神様とお話するだけよ、直ぐに終わるから」
力の入らない手で、優しくグレンさんの頬を撫でた。
「…………………わかった。援護は……任せろ」
赤い瞳が不安に揺れて、今にも泣き出しそう。
それでも彼は私の意思を尊重してくれた。
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