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怒り
しおりを挟む「な、な!なんであんたが飲むのよーー!!」
私の意外な行動に小春さんは絶叫し、私に掴みかかろうと竜神様から離れた。
その一瞬の好機をグレンさんが見逃すはずもない。
「あっ!い、痛い!!」
あっという間に刃物を持った小春さんの腕をねじ曲げた。床に体を押し付け、シャインさんの同じようにロープで縛りつけた。
「ひ、酷いわ!早く離してよ!!わ、私は悪くないわ!媚薬を飲んだ真夏さんが悪いんじゃないのー!」
往生際悪く手足をばたつかせ、唾を飛ばし罵声する小春さん。
竜神様はパタパタと顔の近くに飛んでいき、五月蝿いとばかりに小春さんの鼻に噛みついた。
がぶりーー。
「ひいい!!!いたいー!!」
小春さんは悶絶し床を転がる。形の綺麗な鼻に穴が増えた。床にポタポタと模様が出来る。
流れる血は痛々しいけど、自業自得というもの。
ふんっと鼻息一つ飛ばし、竜神様は誇らしそうに胸を張った。
「マナツ様大丈夫か?無茶をする」
「ギュロ?」
グレンさんが私に駆け寄り背中を擦る。焦った竜神様は私の周りをぐるぐる飛んだ。
「ーーんっ」
どくんどくんと心臓が早鐘を打つ、胸が熱くて苦しい。顔が火照り瞳が潤む。
「……はっ。嫌だわ……私、小春さんのこと大好きになっちゃうのかしら?……グレンさんが……レインさんが……竜神様が……大好きなのに……自分の気持ちをねじ曲げられたくないわ」
もしそうなったとしても、竜神様のお手当てだけはしようと固く誓う。
気持ち悪い……苦しい。
はあっ、と吐息を吐くと、お腹に激痛が走り胃液がせりあがってきた。
「がはっ」
体をくの字に曲げて私は、吐血した。赤いペンキを撒き散らしたように床が汚れる。
「お、おい!!大丈夫か?」
「ギュロロロロー!!」
口を押さえふらつく私をグレンさんが抱き止める。
うっ、気持ち悪い。
痛い、苦しい。手足が痺れて、目が回る。
「ふん!大袈裟ね。たかが媚薬を飲んだぐらいで吐くなんて!そんなにみんなに心配されたいんですか?」
床に転がったまま小春さんは、忌々しげに悪態をついた。
「………ち、違うんです」
首だけを私に向けて泣きそうな顔でシャインさんは告げた。
「え?」
一斉にみんなの視線がシャインさんに集中する。
「竜神様には、ただの媚薬でも。人間には、毒薬になるんです。
ああ………でも、マナツ様が死んだら、もう真の聖女は必然的にコハルさまに決まりですね!結果的にはこれで良かったのかもしれません」
シャインさんは、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。
「そうです!マナツさんが居ないなら、もう聖女は私しか居ません。
竜神様だって、私にお手当てされるしかないですもんね!私、みんなに愛される真の聖女になれるんですね」
縛られたまま、うっとりと頬を染めた。
「お前ら!いい加減にしろよ!
マナツ様を死なせるわけがないだろう!俺の聖なる力を分け与える……絶対に死なせない」
グレンさんは口が血で汚れるのを厭わず、私に口づけをした。
唾液を還してグレンさんの聖なる力が流し込まれる。温かい力で、痛みが軽減される。これで助かるわ。
そう思ったのに、グレンさんは体をびくつかせくぐった声を出すと、唇を離した。
「お前ら、邪魔するな!!」
グレンさんの足元には、芋虫のように這ってきたシャインさんが居た。
シャインさんは鬼のような形相でグレンさんの足に噛みついていた。
「シャインさん!頑張って下さい!真夏さんもう少しで死にますから」
場違いに明るい小春さんの声援が寝室に響く。
ギュ。
ギュ。
ギュロロロロロロロロロロローーー!!!
竜神様が、吼えた。
激しい怒りに黄金色の瞳は墨のような黒に。口から鋭い牙を剥き出して。
シャインさんとグレンさんの間に降り立つ。黒い陽炎のようにその姿がゆらりと揺れてーーーそして、ぐにゃりと輪郭を失う。
竜神様から噴出した黒い霧……呪い。視界が常世の闇に包まれる。呪いが土石流のように溢れた。濁流とかしたそれは衝撃とともに、神殿全てを呪いで襲い、蝕んでいく。
ドオンっと神殿が揺れた。
「マナツ様!俺の後ろに!」
グレンさんは私を背中に庇うと、聖なる力を結界のように展開し、私を守った。
「ひっ!呪いが、た、助けて」
呪いが直撃したシャインさんは全身を黒く爛れ痛みに転げまわる。
小春さんは聖女チートで呪いは受けなかったけど、衝撃をまともに受け気絶した。
「グレン!遅れてすみません!大丈夫ですか?」
「竜神様!心をお静めください!」
騒ぎを聞きつけ…レインさんが、ブレンダさんが駆けつけてくれた。
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