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媚薬②
しおりを挟む「竜神様飲むな!!」
突然グレンさんの大声が響いた。
「な、ぐわっ!!い、痛い!!」
私の喉元のナイフの圧迫が消失し、カランと金属落ちる無機質な音する。
目を開くとグレンさんがシャインさんの両腕を後ろ手にし、背中に乗り取り押さえていた。
シャインさんは床に顔を擦り付け情けなくうめき声を上げる。
「くっ、ううっ。な、なぜです?睡眠薬を飲んだはず……こ、こんなに、早く起きる…なんて」
「レインがな……安全を考慮してポーションは半分しか飲むなと警告してくれてたからな!」
グレンさんはニヤリと笑うとシャインさんを抑えつける腕をねじり上げた。シャインさんが痛みに悲鳴をあげる。
グレンさんは護衛用のロープでシャインさんを動けないように縛り付けた。
「竜神様大丈夫?こんな毒みたいなの、飲んだらだめよ!」
私は震える足を叱咤し、竜神様に走り寄ると手に持った媚薬入りポーションを奪った。ほっとして腰が抜け、床に座り込む。
「シャインよくも、マナツ様を傷つけたな?
それに小春様!竜神様に媚薬を盛り意思を曲げて自分のものにするなど到底許されない!!」
「ひっ…」
グレンさんに怒鳴られ、小春さんは小さく悲鳴を上げ後退る。
「ち、違うんです!こ、これはシャインさんが勝手にしたことで、わ、私は悪くないんです」
床に突っ伏し憐れみを誘うようにワンワン泣いた。
「そんな嘘が通用すると思うなよ!俺は途中から起きていた。コハル様の話を聞いていたんだからな!」
「あ、あれは、シャインさんに言うように脅されたんです!私は被害者なんです。……信じて下さいグレン様!」
「コハルさま!」
シャインさんが悲痛な声を上げた。この期に及んで言い訳をし、全ての罪をシャインさんに擦り付けようとするなんて。
「小春さん酷いわ。シャインさんはいつでもあなたの味方だったのに……」
「うるさい!うるさい!うるさい!!私は悪くないのよ!!第一、真夏さんがお手当てし過ぎるから悪いんじゃないの!」
般若のような顔で小春さんは私を睨んだ。
「え?」
「真夏さんが竜神様に尽くし過ぎるから、お手当てのハードルがあがって、私の聖なる力を受け付けなくなったのよ。私が愛されたくて媚薬を使う嵌めになったのは全部、真夏さんのせいよ!!」
狂ったように髪を振り乱し小春さんは叫んだ。
そして、渾身の力で私に体当たりすると、床に落ちたナイフを拾いあげた。
「ギュ、ギュロ!!」
「いたた、小春さん……なんてこと!」
「お、お前!!」
小春さんはあろうことか、竜神様の体を羽交い締めにして胸にナイフの切っ先を当てた。
「真夏さん!竜神様に媚薬入りポーションを飲ませて!」
「小春さん、馬鹿なことは止めて!」
「竜神様に刃物を向けて、ただですむと思うなよ!」
ギリリとグレンさんが歯軋りをした。怒りのためこめかみに血管が浮き出た。
竜神様は小春さんから逃げようと短い手足ばたつかせ、悲しそうに泣いた。
「私には、もうこれしか道が残っていない。竜神様に媚薬を飲ませて好きになってもらうしかないのよ。ーーだから、早く!早く!飲ませなさいよ!!」
小春さんはヒステリックにわめき散らした。
「……わかったわ」
竜神様に危険がある以上、小春さんを刺激するのは得策でない。
殊更ゆっくり動き媚薬入りポーションの瓶を掴んだ。考える時間を稼ぐ。
「早く!なんで、ゆっくりしているのよ」
一瞬でいい……ナイフを竜神様から離す隙が出来ればグレンさんがどうにかしてくれる。
グレンさんは身動き一つせず機会を伺う。
人の気持ちを動かすのに、こんな媚薬いらないのに。
そう、要らないわ。竜神様に飲ますなんて酷いことも出来ない!
それならーー。
私は、硬い瓶の蓋をキュポンと取ると一気に媚薬入りポーションを煽った。
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