【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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媚薬①

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 竜神様にどつかれて、私は二人を受け入れると決めた。 
 
 竜神様のお手当てが第一だから、当面は婚約者としてーー竜神様が成長したら番として婚姻を結ぶことをレインさんに提案された。 

 すぐにでも婚姻を結びたいとグレンさんは不満そうだったけど、「余裕のない男は嫌われますよ」と諭されしぶしぶ承諾した。
  
 正直、まだ戸惑いと迷いあるから。一定の猶予期間を与えられ安心する。 
 心が落ち着く時間をくれたレインさんには感謝しかない。  
 
 
 その後、レインさんは神官室に戻り。ブレンダさんの書類を確認して東の領地に配送するそう。 
  
 アンローズさんは小春さんと町に買い物の後に、綾乃さんに会いに行くと言っていた。黒花病の治療のことを話すみたい。  
  
 粗相をして落ち込む竜神様のお尻を綺麗に洗い、一緒に午後のおやつを作る。 
 グレンさんはいつものよう思い荷物を運び、卵の白身の泡立てを手伝ってくれた。 
  
 ボウルを手渡す時、ヘラを渡す時、さりげなく手を握ったり頬を撫でていく。 
  
 私と目が合うと深く刻まれた眉間の皺を緩め甘く微笑む。 
 今までグレンさんがしなかったこと。 
 私が受け入れると言ったから変わったこと。
  
 気恥ずかしいけど……じんわりと喜びが広がる。
  
 まだ同じ気持ちを返せないから、にこっと笑顔だけ向けた。 
 
 優秀な侍女のノコアちゃんは微笑み見守ってくれる。 
 竜神様は私とグレンさんが仲良だと嬉しいのか、長いしっぽをご機嫌に揺らした。
  

 
 
  
 ◇◇◇  


 
 深夜、竜神様を挟んでグレンさんと添い寝をしていた。 
 喉元の冷たい感触と誰かに声をかけられうっすらと眠い目を開けた。 

「え?」 
 喉元の冷たい感触は鋭いナイフだった。目の前に暗い顔のシャインさんと微笑みを浮かべた小春さんが居た。 
 いつの間にか部屋に入って来たのだろう? 
 
「マナツ様、大きな声を出さないで下さい」 
 低く澱んだ声でシャインさんがナイフに力を入れた。冷たい感触に身がすくむ。 
 
 ぎしっと増えた人数分だけベッドが傾いだ。 
 
「真夏さん、大人しく言うことを聞いてくれたら怪我しませんからね。早く竜神様を起こして下さい」  

 こんな深夜に起こすなんて何を考えてるの? 
 嫌だと首を振ると、ぷつりと喉元のナイフが皮膚に食い込んだ。 

「ーーん!」  

 痛い…少し切れたんだわ。 

 グレンさん、起きて!  
 助けを求めてグレンさんに視線を向けると、規則正しい寝息が聞こえるだけ。 

 
「無駄ですよ!神官グレン様と見張りには、睡眠薬入りポーションを差し入れましたから、少し騒いだぐらいでは起きませんよ」 

 
「んん!!」 
 グレンさんたちに薬を盛るなんてなんてこと!ギロリと睨む私を小春さんが嘲笑う。 

「悔しいですか、真夏さん?でも本当に悔しい思いをするのはこれからです。 
 竜神様には、綾乃さんを騙して作らせた媚薬入りポーションを飲んでもらうの……うふふ、これを飲んだら竜神様も私のこと大大大好きになって、私を満たして私の為に生きてくれるわ。 
 私の逆ハーレムも許してくれる。寧ろ喜んで、一員になってくれるの。 
 私が竜神様に認められたらグレンさんとレインさんだって私のこと好きになるわ。 
 だって私はこんなに可愛いもの!みんなに愛されるの!真の聖女になるのは真夏さんじゃない!私です!」 

「小春さん……なんて自分勝手な考え方なの? 
自分本意で相手の気持ちを蔑ろにし過ぎよ!それに幼ない竜神様に媚薬なんか飲ませて副作用で体調を崩したらどうするの?」 
 ただでさえお腹を壊し易く、私作成の腹巻きを手放せないのに、変な薬を飲んでほしくない。 
 幼い体に媚薬がどのように作用するかわからない。薬と毒は紙一重だから。 
 
 
「あはは、焦ってますね真夏さん……私がみんなに寵愛されるのがそんなに悔しいですか? 
 せっかくグレンさんとレインさんを騙して婚約にこぎ着けたのに残念でしたね?」  
  
 媚薬を使って得られる寵愛が本当に嬉しいの? 
 人の気持ちをねじ曲げて手に入れたモノになんの価値があるのだろう? 
  
 心底嬉しそうに仄暗く小春さんは笑った。その笑顔と狂気にぞっとする。

「ギュロン?」 
 ただならない雰囲気と小春さんの高笑いに竜神様が目を覚ました。 
  
 瞼を擦ると不思議そうに黒目をぱちくりし、私を見つめた。シャインさんは竜神様と視線が合うと一瞬だけ怯む。
 
「竜神様、マナツ様を傷つけられたくないなら、小春様の渡す媚薬入りポーションを飲んで下さい!」 
 私の髪を後ろに掴み、首筋がよく見えるようにナイフを持ち変えた。 
 
 ツーと皮膚から血が滴る。 

 怖い……命の危機に苦しくて声が出ない。体が震える。 

 飲まないで、竜神様!お腹を壊すならまだいい!体に毒かもしれない。お願い飲まないで!逃げて!! 
  
 出ない声の代わりに、視線で必死に訴える。
 
「ギュロロロロ!!」 
 竜神様は不機嫌でしっぽを床に叩きつけた。牙を剥き出し小春さんとシャインさんを威嚇する。 
 
「竜神様、大丈夫ですよ!ただの媚薬です。怖くありませんよ。これを飲めば本来の竜神様の姿に戻るだけです。私のことが大好きな本来のあるべき姿です」 
 小春さんは優しく諭しながら竜神様に媚薬入りポーションの瓶を持たせた。 

「飲まないと……マナツ様が死にますよ」
「ーーっん」  
 シャインさんのナイフに力が籠る。 

「ギュ!ギュ!」 
 私が害されると焦った竜神様が瓶に口をつけた。
 
 だめーーーー!!!
 私は怖くて目をぎゅっと瞑った。
 
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