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ドアを隔てた向こう側
しおりを挟む――――ああ、気持いい。
あっけなく絶頂して戦慄く体がレインさんの指を喰い締める。
酷く甘美な淫波に、あがらえず淫靡な吐息を吐いた。呼吸が整わず、視界が涙で歪む。この余韻から抜け出せない。
「マナツ様、上手にイケましたね。偉いですよ」
震える体をレインさんが抱きしめた。頭を良い子、良い子と撫でられる。
こんな風に誰かに頭を撫でられたのはいつぶりだろう?
両親を病気で早く亡くし、病院で働きながら、奨学金を借りて看護学校に通った。
学校、実習に課題、寝る間を惜しんで吐くほど辛い思いを経験し看護師となった。
人を助けたいより、ただ誰かに必要とされたかった居場所が欲しかった。
私を必要と言ってくれた旦那は、私を利用し罵倒するだけ。
誰かに甘えられる幸福に酔いしれ、レインさんに体を預けた。
レインさんの手はどこまでも甘く優しい。私を労り癒すように動く。
「マナツ様には感謝しているんですよ。竜神様がここまで成長したのは全て貴女のおかげです」
「あっ」
心が急速に冷めていく。
そうだった……これは竜神様のお手当ての為の行為。レインさんは単に私しか聖なる力を竜神様に与えられないから私を敬っているだけ。
勘違いしない、甘えるなんておこがましいわ。レインさんの胸に手を置き距離を取った。
「レインさん、ありがとう。もうスッキリしたわ!慰めなくて大丈夫よ」
穴を埋めてと疼く中、深い場所で聖なる力を望む体を誤魔化すように後ろを向き衣服を整える。
「マナツ様……私も貴女が好きですよ。貴女が聖女でなかったとしても、きっと惹かれていた」
後ろからぎゅっと抱きしめられ、首に口づけを落とされた。
「……レインさん」
嬉しいのに、素直にありがとうと言えない。じわりと呪いが傷痕から血を流す。
『お前は、選ばれない』
頭の中に反響する声、殴られたかのようにくらくらする。
「マナツ、今は僕を見て!僕もグレンも貴女の呪いを解いて差し上げたいと思っています。歪に曲がっても貴女は誰よりも気高く美しい……だから僕たちを選んで」
労るように唇を塞がれ、胸に抱き込まれた。優しく背中をゆっくりとさすられる。
大丈夫、大丈夫と言うように。温かくじんわり守るように広がるレインさんの癒しの力。
「……レインさん、力を使うなんて狡いわ」
責めるはずの言葉は酷く甘く寝室に響いて溶けた。
「言いましたよね?貴女を慰めて、ぐずぐずに甘やかしたいと」
そこまでは言ってなかった気がするわ。漂う甘い空気がこそばゆい。嬉しくてくすくす笑ってしまう。
レインさんを信じてもいいの?こんな私が選んでもいいの?
答えはまだ出ない。
でも言われた言葉、選ばせてくれたことがなにより尊いから。
そのまま二人、痺れを切らしたグレンさんがドアを叩くまで抱き合った。
この時の会話を扉の前で焦ったグレンさんが、聞き耳をたてて聞いていたなんて、この時の私は想像もしていなかった。
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