46 / 87
僕も同じように sideレイン
しおりを挟む目覚めた竜神様を抱え、おやつのフレンチトーストを作ると厨房へ向かうマナツの背を追った。
アンローザ様に衣装をプレゼントされたコハルは上機嫌で着せ替え遊びを続けている。
アンローザ様には断ったが竜玉の魔力供給原としてのコハルの価値は竜玉が満たされた現時点では低い。
コハル本人が望むならアンローザ様に引き渡すことも良いのかもしれない。
まあ、シャインは反対するだろうけど。
その道すがらグレンは小声で僕に尋ねた。
「今朝のことだがマナツ様は、一体何に怒っていたんだ?レインお前ならわかるか?」
「いえいえ、全く心当たりがありませんよ」首を振り否定すると、振り返ったマナツの視線が再び嫌を帯びた。
直接僕に文句を言えばいいのに。
それにしても……こんなに上手く進むとは思わなかった。
マナツの優しい良質な聖なる力を覚えてしまった竜神様は、コハルの雑味の混ざる低質な聖なる力をもう受け付けない。
今や竜神様に聖なる力を与えるのはマナツ一人。幼性体の竜神様には大量の聖なる力が必要だった。
マナツの体の負担を考えれば、もう既に深い魔力譲渡が必要な段階に入った。
聡いマナツは僕の思惑に気づいた。それなのにグレンの誤解を訂正せず、受け入れてしまった事実を当の本人に知られるのが恥ずかしいのだろう。
愚かなマナツは羞恥心を僕を睨むことで覆い隠す。いくらでも僕のせいにすればいいさ。
マナツはどんな顔でグレンを受け入れたのか? いつもは慈悲深い母のように竜神様に接するマナツの雌の顔は、さぞかしそそるだろう。
堅物グレンはどんな反応を返したのか……想像するだけで僕の胸は高揚感ではち切れそうだ。
早く快楽に堕ちて僕たちの魔力譲渡を受け入れて。心の中で舌舐めずりをした。
「グレン……新しい魔力譲渡は効果が高いようです。詳細を私に報告して下さいね」
「は?詳細を……お前に…いや、いくら双子でもな……言えないことが……あるぞ!」
廊下に立ち尽くし、首まで朱色に染め、しどろもどろに焦るグレン。僕は顔が緩むのが止められない。悟られないよう口元を手で覆った。
「なぜ言えないのですか?……私と同じようにマナツ様に指を咥えて頂いたのでしょう?」
「…………は?…………え?
…………い、今、なんて??」
「ですから、グレンの指の血液とマナツ様の口腔粘膜を介した魔力譲渡の詳細ですよ」
「なっ!……お、お前っ!ナニって言ったぞ?俺を!騙したな!!」
「いいえ、私はそんなことは一言も言ってませんよ?勝手に勘違いしたのはグレンです」
「ーーーーっ!」
「……それで?グレンはマナツ様に何を咥えさせたのですか?」
うっすら微笑むと、グレンはこの世の終わりのように頭を抱え崩れ落ちた。
「お、俺は……なんて事を……マナツ様に……あ、今すぐお詫びに……割腹して」
グレンは空中から氷の短刀を出現させむんずと掴む。上着を捲り腹を露出させる。目が血走り歯をこれでもかと食い縛った。
………奴は本気だ!
「ちょっと待って下さい!グレン、大袈裟過ぎますよ!」
僕は大慌てでその短刀を奪い取った。真面目過ぎるグレンの斜め上の思考に度肝を抜かれる。
「レイン!返せよ!」
「マ、マナツ様!グレンを止めて下さい!」
「へ?どうしたのレインさん?……きゃあ!グレンさんなんで脱いでるの!ナイフなんて危ないわよ!」
騒ぎを聞き付けた神官兵がグレンを取り囲み、侍女の悲鳴が聞こえる。
「マナツ様!俺の誤解で大変なモノを咥えさせてしまいました。不肖グレン死んでお詫びを!!」
グレンは僕から取り戻した短刀をお腹に向け、振りかざした。
「止めて!グレンさん!!」
ガブリーーーっ。
竜神様がグレンさんの手に噛みついた。カランと短刀が床に転がる。僕はすかさず落ちた短刀を拾い後退った。
「グレンさん、全然嫌じゃなかったから!むしろ、気持ち良かったから、嬉しかったから死ぬなんてだめ!!」
マナツがグレンを押さえるようにきつく胸に抱きついた。
「…………マナツ様。
俺は、その……すまん。取り乱した」
冷静を取り戻したグレンもマナツの腰に腕を回し抱き締め返す。
成り行きを見守っていた神官兵、侍女から歓声があがる。
「謝らなくていいのよ。悪いのは誤解を招くように仕向けたレインさんなんだから!」
マナツが僕をジロリと睨んだ。
「ギュ、ギュ!!」
竜神様も尾を床に叩きつけ抗議した。
今回ばかりは、分が悪い。
少々グレンをからかい過ぎたようだ。僕は素直に二人に謝罪した。
でも、マナツは理解しているのかな?
衆人環視の中で、魔力譲渡を気持ちいい嬉しいと公言し、グレンに抱きつき受け入れた意味をー。
宣言したのだ大勢の前で。
恋人、婚約者、伴侶、番………マナツの来た世界ならどれが当てはまるかな?
これで優しいマナツは逃げられない。君が逃げたらグレンの名誉を傷つけ酷く恥をかかせることになるから。
ああ、本当に上手くいった。良かったねグレン。
謝罪しながら僕は作り物じゃない自然な笑顔になっていた。
ねえ、グレン。僕たちは同じ卵から産まれた。竜族には珍しい双子の兄弟。
君の望みは僕の願い、君が好むモノは僕だってほしいよ。
マナツ、僕のこともグレンと同じように受け入れてくれるかな?
11
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる