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僕も同じように sideレイン
しおりを挟む目覚めた竜神様を抱え、おやつのフレンチトーストを作ると厨房へ向かうマナツの背を追った。
アンローザ様に衣装をプレゼントされたコハルは上機嫌で着せ替え遊びを続けている。
アンローザ様には断ったが竜玉の魔力供給原としてのコハルの価値は竜玉が満たされた現時点では低い。
コハル本人が望むならアンローザ様に引き渡すことも良いのかもしれない。
まあ、シャインは反対するだろうけど。
その道すがらグレンは小声で僕に尋ねた。
「今朝のことだがマナツ様は、一体何に怒っていたんだ?レインお前ならわかるか?」
「いえいえ、全く心当たりがありませんよ」首を振り否定すると、振り返ったマナツの視線が再び嫌を帯びた。
直接僕に文句を言えばいいのに。
それにしても……こんなに上手く進むとは思わなかった。
マナツの優しい良質な聖なる力を覚えてしまった竜神様は、コハルの雑味の混ざる低質な聖なる力をもう受け付けない。
今や竜神様に聖なる力を与えるのはマナツ一人。幼性体の竜神様には大量の聖なる力が必要だった。
マナツの体の負担を考えれば、もう既に深い魔力譲渡が必要な段階に入った。
聡いマナツは僕の思惑に気づいた。それなのにグレンの誤解を訂正せず、受け入れてしまった事実を当の本人に知られるのが恥ずかしいのだろう。
愚かなマナツは羞恥心を僕を睨むことで覆い隠す。いくらでも僕のせいにすればいいさ。
マナツはどんな顔でグレンを受け入れたのか? いつもは慈悲深い母のように竜神様に接するマナツの雌の顔は、さぞかしそそるだろう。
堅物グレンはどんな反応を返したのか……想像するだけで僕の胸は高揚感ではち切れそうだ。
早く快楽に堕ちて僕たちの魔力譲渡を受け入れて。心の中で舌舐めずりをした。
「グレン……新しい魔力譲渡は効果が高いようです。詳細を私に報告して下さいね」
「は?詳細を……お前に…いや、いくら双子でもな……言えないことが……あるぞ!」
廊下に立ち尽くし、首まで朱色に染め、しどろもどろに焦るグレン。僕は顔が緩むのが止められない。悟られないよう口元を手で覆った。
「なぜ言えないのですか?……私と同じようにマナツ様に指を咥えて頂いたのでしょう?」
「…………は?…………え?
…………い、今、なんて??」
「ですから、グレンの指の血液とマナツ様の口腔粘膜を介した魔力譲渡の詳細ですよ」
「なっ!……お、お前っ!ナニって言ったぞ?俺を!騙したな!!」
「いいえ、私はそんなことは一言も言ってませんよ?勝手に勘違いしたのはグレンです」
「ーーーーっ!」
「……それで?グレンはマナツ様に何を咥えさせたのですか?」
うっすら微笑むと、グレンはこの世の終わりのように頭を抱え崩れ落ちた。
「お、俺は……なんて事を……マナツ様に……あ、今すぐお詫びに……割腹して」
グレンは空中から氷の短刀を出現させむんずと掴む。上着を捲り腹を露出させる。目が血走り歯をこれでもかと食い縛った。
………奴は本気だ!
「ちょっと待って下さい!グレン、大袈裟過ぎますよ!」
僕は大慌てでその短刀を奪い取った。真面目過ぎるグレンの斜め上の思考に度肝を抜かれる。
「レイン!返せよ!」
「マ、マナツ様!グレンを止めて下さい!」
「へ?どうしたのレインさん?……きゃあ!グレンさんなんで脱いでるの!ナイフなんて危ないわよ!」
騒ぎを聞き付けた神官兵がグレンを取り囲み、侍女の悲鳴が聞こえる。
「マナツ様!俺の誤解で大変なモノを咥えさせてしまいました。不肖グレン死んでお詫びを!!」
グレンは僕から取り戻した短刀をお腹に向け、振りかざした。
「止めて!グレンさん!!」
ガブリーーーっ。
竜神様がグレンさんの手に噛みついた。カランと短刀が床に転がる。僕はすかさず落ちた短刀を拾い後退った。
「グレンさん、全然嫌じゃなかったから!むしろ、気持ち良かったから、嬉しかったから死ぬなんてだめ!!」
マナツがグレンを押さえるようにきつく胸に抱きついた。
「…………マナツ様。
俺は、その……すまん。取り乱した」
冷静を取り戻したグレンもマナツの腰に腕を回し抱き締め返す。
成り行きを見守っていた神官兵、侍女から歓声があがる。
「謝らなくていいのよ。悪いのは誤解を招くように仕向けたレインさんなんだから!」
マナツが僕をジロリと睨んだ。
「ギュ、ギュ!!」
竜神様も尾を床に叩きつけ抗議した。
今回ばかりは、分が悪い。
少々グレンをからかい過ぎたようだ。僕は素直に二人に謝罪した。
でも、マナツは理解しているのかな?
衆人環視の中で、魔力譲渡を気持ちいい嬉しいと公言し、グレンに抱きつき受け入れた意味をー。
宣言したのだ大勢の前で。
恋人、婚約者、伴侶、番………マナツの来た世界ならどれが当てはまるかな?
これで優しいマナツは逃げられない。君が逃げたらグレンの名誉を傷つけ酷く恥をかかせることになるから。
ああ、本当に上手くいった。良かったねグレン。
謝罪しながら僕は作り物じゃない自然な笑顔になっていた。
ねえ、グレン。僕たちは同じ卵から産まれた。竜族には珍しい双子の兄弟。
君の望みは僕の願い、君が好むモノは僕だってほしいよ。
マナツ、僕のこともグレンと同じように受け入れてくれるかな?
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