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東の代理統治長
しおりを挟む白い神秘的な神殿に、場違いな明彩色が舞い降りた。
腰まで流れるピンクと黒、僅かに金色の混じる長髪を靡かせな妖艶な美女。
鮮やかな桜色のアーモンド型の瞳。瞼には紫色のアイメイクを施し、長い睫毛はクルリと曲がり金色のマスカラで彩られていた。瞬きするたびに優雅な扇のように広がる。すらりと高い鼻梁にシミひとつない白い肌。真っ赤な口紅は優雅に弧を描く。
首元から手首まで隠すように覆われた黒いハイネックの上から色とりどりの蝶をあしらった12単のよう衣を着て、腰は帯ではなく皮のベルトを巻いている。
日本の着物より生地は薄く透け間があり、ふわりふわりと風に靡くさまは、蝶の羽ばたきのように美しい。
下手をしたら下品になりそうな装いのに、絶妙なバランスで美しい芸術品に仕上がっていた。
「あら?急なのに盛大なお出迎えありがとう。アタシは始まりが竜の一人、東のアリーヤ代理統治長アンローザと言うのよろしくね」軽くウィンクをしながらアンローザさんは響く美声で挨拶をした。
え??ハスキー声?
女性にしては低過ぎる声質。喉を凝視すると大きく膨らんだ立派な喉仏が。
よく観察すると、胸は平らで肩幅も広い。女性らしい腰の括れおしりに丸みはなく……。
あれ?もしかして、アンローザさんておネエ系男子。
「あの!アンローザ様は男性なんですか?」
単刀直入に怖いもの知らずの小春さんが聞いてくれた。うん、私も気になってたけど、もう少し湾曲して聞いてほしい。
「そう、男よ!アタシ、美しいモノ綺麗なモノが大好きなの。自分が着飾るのも可愛い子を着飾らせるのもね……あなたも可愛いわね~。ねぇグレン、アタシの荷物は?」
「大量の荷物ならいつも使用する東の角部屋だ」
「うふふ、ありがとう~。ちょっと聖女候補借りるわよ」
アンローザさんは私と小春さんの手首をむんずと掴みと引きずる勢いで歩きだした。
「え?」
「きゃ!」
やっぱり男性だわ、手は大きいし力は強い。
「すいません二人とも、アンローザ様の気がすむまで着せ替え遊びに付き合って下さい」
驚く私と小春さんにレインさんがにこやかに声をかける。
「今回は、俺たちじゃなくて助かるな……マナツ様、竜神様が昼寝から覚めたら迎えにいくから心配するな」グレンさんは珍しく愛想良く私たちに手を振り見送る。
「相変わらず下らない趣味です」
ブランドさんはアンローザさんを鼻で笑うと、蕩けるような笑顔で乳母車でお昼寝中の竜神様の頬をつついた。
起きるから止めてほしい。
「あら?ブランドまだ居たの?副統治長に早く帰って仕事しろって催促されてるんじゃないの?」
「な、なぜ其れを知っているんだ?」
ぎょっとした顔でアンローザさんを睨んだ。
「アタシは風竜よ!風に乗って沢山の情報を知ることができるわ」
「早く帰せと言われ、私たちも板挟みで困っているんですよ」レインさんはこれ見よがしにため息をついた。
「まあ!神官たちまで困らせて!!ブランドあなた……仕事だけは真面目にする子だったのに」
母親がダメ息子を叱る図のようになってる。
「……竜神様が可愛いのが悪いのです!あと2日!いや3日したら帰ります」
ブランドさんは寝ていた竜神様をひしっと抱きしめた。気分よく寝ていたところを起こされ、怒った竜神様に頭づきを食らう。
い、痛そう。
「竜神ちゃんにはベンダルがいるのに、不毛ねー」
痛みに踞るブランドさんを横目にアンローザさんは部屋を出た。
東の部屋は角部屋で天井も高く大きな窓があり日当たりもよい。
アンローザさんは部屋の中にところ狭しと並べられたスーツケースの中から、次から次に豪華なドレスを出した。色とりどりのきらびやかな衣装の海。
「まあ!これも可愛いわ!これも素敵。それじゃ、アクセサリーはコレかしら?口紅はピンク?あらあら!赤もいいわ~」
アンローザ様は鼻歌まじりで楽しそうに、私と小春さんをお人形のようにアレコレ着せ替えさせ遊んだ。
着飾るのが、苦手な私は五枚目にして疲れた。
「これも素敵です!似合いますかアンローザ様」
疲れ知らずの小春さんはきらびやかな衣装を纏い可愛いらしくクルリと回る。
「ええ、とてもよく似合っているわよ」
「嬉しいです!アンローザ様!」
小春さんは頬を薔薇色に染め、アンローザさんの腕に抱きついた。うるうると上目遣いであざとく見つめる。
小春さん……毎度のことながら守備範囲が広いわ。アンローザさんのことも気にいったのね。
私がげんなりしているとアンローザさんはとんでもないことを言った。
「あらあら、コハル様可愛いわ!聖女候補なんか止めてうちの子になる?私の領地においで」
「え?私がですか?」
小春さんは満更でもない様子でうっとりとアンローザさんと見つめる。
「真夏さんじゃなくて私ですか?」
「そう、コハル様よ」
「嬉しいです!でも、真夏さんに悪いですから」
小春さんは自分が選ばれた優越感からか、得意気な私を視線を投げた。
「だって、コハル様は真の聖女にはなれないでしょう?竜神ちゃんに嫌われちゃってるから」
「え?」
優越感に浸っていた小春さんの表情が曇った。
「レインに聞いたの、竜神ちゃんに拒否されてお手当てから外されたんでしょ?」憂いを帯びた表情。
「違うんです!きっと真夏さんが竜神様に私を拒否するよう命令してるんです……だから、私。悲しくて……って、うっ、」
ポロポロと茶色掛かった瞳から宝石のように涙がこぼれる。芝居のように大袈裟に小春さんはアンローザさんに抱きついた。
庇護欲を掻き立てる姿に、まるで私が本当に虐めてるみたい。
「私、命令なんてしてないわ」
ぼそっと囁くが小春さんの泣き声にかき消される。わざと?わざとよね!
「コハルさま、嘘はつくな!マナツ様は竜神様に命令してない。竜神様が拒否されたのは、お前が真摯にお手当てしてこなかったからだ」
竜神様が起きたからと私を呼びに来た、グレンさんが助け船を出してくれた。
「うっ、うっ。真夏さんはいつも言葉巧みに神官さんを味方につけて私を虐めるんですー。助けてくださいアンローザ様」
「まあ?そうなの……かわいそうに」
アンローザさんは小春さんの髪を撫でた。
「アンローザ様、コハル様で遊ぶのはほどほどにして下さい……勝手に自分の子にして領地に持ち帰ろうとするのも禁止です!」
部屋に入って来たレインさんがアンローザ様を笑顔で諌めた。目が笑っていないから怒っているわ。
「えー?駄目?聖女候補三匹居るんだから、一匹位私に頂戴よ。役にたたないこの子で良いから」
アンローザさんは小春さんを後ろから抱き締めた。
ぴき?私たちの単位は匹なの?
「私、役にたたなくなんかありません!」
涙の引っ込んだ小春さんは堪らず抗議した。
「あら?泣き真似はもういいの?滑稽で可愛かったのに。コハル様、竜神様には誰も命令出来ないのよ。腐っても神様だからね。一度嫌われたら最後、媚薬でも盛らない限りコハルの様のことを好きにはならないわよ」
酷く艶やかに残酷にアンローザさんは微笑んだ。
「………………媚薬」
暗い顔でポツリと小春さんが呟く。
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