【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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わかり合ったはずだった。

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 午前中、羽の生えた竜神様とお散歩に行く。 
  
 今日は神殿の裏庭に向かう。ここには湖と小さな滝、そして竜神の彫刻の施された金色のガセボがあった。一通りの多い中庭に比べ、竜神様や一部の限られた者しか入れない、言わば隠された場所。 
 ここなら、ブレンダさんや小春さんの邪魔が入らずグレンさんとゆっくりお話出来そう。グレンさんの誤解をきちんと解いて、気まずい雰囲気を無くしたい。 
  
 ガセボの椅子に敷物を、大理石のテーブルにクロスを敷いた。グレンさんに運んでもらったバスケットを置く。
  
 遊んだあと、昼食もここで食べようとノコアちゃんと一緒に玉子サンドにベーコンレタスサンド、あとお肉の好きなグレンさんにはカツレツサンド、甘いもの好きな竜神様にフルーツサンドを作ったの。 

 
 喜んでくれると嬉しい。 
  

 ブランドさんは、レインさんに呼ばれ神官室にぶつぶつと言いながら行き不在中です。西のサイレイクから連絡があった模様。 
  
 そろそろ帰ってこいだろうか?

 ガセボの椅子に座り、私はレインさんにもらった紙(少し厚め)を適度な大きさに切り、紙飛行機を作った。竜神様とグレンさんが不思議そうに私が折るのを見ている。 
 久しぶり過ぎて少し歪だけど、完成した紙飛行機を空に飛ばした。 
 
「すごいな!」
「ギュロン!」 
  
 力強く空に舞い上がる紙飛行機を、キラキラした瞳で竜神様が追いかける。 
 まだ上手に飛べず蛇行しながら、黄色い小さな羽をぱたつかせてる。 
 竜神様は、体に不釣り合いな大きな耳をピーンとたてて、しっぽを興奮の余りもっふっと膨らませていた。 
  
 紙飛行機が落ちると小さな手で掴み、ヨチヨチ歩き私に渡す。そして、しっぽを地面に叩きつけ、もっと飛ばせと「ギュ!ギュ!」と催促する。 
 楽しいのか何度も繰り返す竜神様。遊びと飛行訓練を兼ねているので、はまってくれて良かったわ。 
   
 
 私が相手に疲れてきたら、「面白いな!」っと、変わりにグレンさんが飛ばしてくれた。力を入れすぎて飛ばず、くるくる回ると真下に落ちた。 
 
「ギュロロロロ!!」不満爆発の竜神様。 
 
 私はグレンさんにコツを教えた。久しぶりにグレンさんとの間に穏やかな空気が流れる。 

 疲れはて、遅めの昼食のフルーツサンドを食べたがら寝てしまった竜神様。寝ながらも口がモゴモゴ動いているのが、なんとも可愛い。竜神様を乳母車にのせ毛布を掛けた。  

 上手いとカツレツサンドを食べていたグレンさんの手が止まる。そそくさと片付け始めた。そろそろ魔力譲渡口づけの頃合いだわ。
 
 魔力譲渡は1日三回、お昼は昼食後の竜神様のお昼寝中にしていた。 
 出来る侍女のノコアちゃんは竜神様がお昼寝するといつの間に姿を消して、私が恥ずかしくないよう配慮してくれる。 
   
 私の隣にグレンさんが立った。大きな背で影を作る。 
 気まずくなった日から、痛ましい者を見るような視線を向けるグレンさん。あの日泣いたのは、嫌々魔力譲渡したからと思っているのだ。 
 モラハラ元旦那の言葉を思いだしたからであって、グレンさんと口づけのは嫌じゃない。 
 
それを、言葉で上手く伝えられる自信がなかった。
 
だから--。    
 
「マナツ様大丈夫か?嫌なのにこんな方法ですまない」 
 押し黙った私を心配してグレンさんが顔を覗き込む。私はグレンさんの頬に手を伸ばす。爪先を伸ばして背の高い、グレンさんの唇に唇を押し付けた。
「なっ!ふっ」  
 驚き固まってしまったグレンさんを解すように、ちゅ、ちゅと啄む口づけを繰り返す。 
 
「は、あっ」 
 溜まらず色っぽい声をあげるグレンさんの、唇を舌でつつくとその意図を察し、僅かに口を開けてくれた。隙間から舌を差し入れグレンさんの厚い舌に絡める。 
 ゆっくり確認するように動かすと、おずおずとグレンさんも答えてくれた。嬉しくて動きを速める。お互いの唾液が混ざり、舌と舌が擦れて気持ちいい。呼吸が苦しい、頭がぽーとしてしまう。 
 下半身に熱が溜まり切なくて、私はグレンさんの腕にしがみついてしまう。グレンさんは私を強く抱き締めると、お返しとばかりに口内を貪った。グレンさんの熱い舌が気持ちよくて、体が震える。 
 
 グレンさんの聖なる力が体に満ちて、疲労が嘘のように引いていく。 

 そっと、名残惜しそうにグレンさんの唇が私から離れた。荒い息を整え私を真っ直ぐに見つめた。 

「なんで?あんな口づけを」  
「……嫌じゃない」 
「はっ?」 
「グレンさんと口づけするのも触れあうのも、全然嫌じゃなくて……その……寧ろ、嬉しくて…気持ちよくて……もっとして欲しくなって。でも、グレンさん、仕事でしてるのに……申し訳なくて」やっぱり上手く伝えられない。 
 
「俺は仕事でも嫌いな奴と触れあうのはごめんだ!マナツ様は俺に触られて本当に嫌じゃないんだな?」  
 グレンさんは嬉しそうに私を抱き締めた。私はこくりと頷く。 
 
「でも……嫌じゃないなら、なんで泣いたんだ?……俺には話せないことか?」グレンさんは心配そうに私を見つめる。 
 グレンさんなら、話しても受け入れてくれるかしら? 
 私はポツリポツリと元旦那に言われたことを話した。上手く纏まらず、支離滅裂だったけど私の話を遮らず急かさず最後まで聞いてくれた。 
 
「そいつ、燃やす!!」 
 グレンさんがものすごく怒ってくれてなんだか可笑しかった。泣きそうになった。 
 
 こうして私たちは誤解を解いてわかり合ったのだ。  
  
 

◇◇◇ 

 
 
 私たちは、誤解を解いてわかり合ったはずだった……。 


 朝の魔力譲渡の時間にグレンさんがとんでもないことを言い出すまでは、そう思ってた。
 

「本当に……いやじゃないんだな?………すまん、俺のも咥えてくれ」 
 グレンさんは心の底から申し訳なさそうに、白い神官衣のズボンと下着を下ろした。

 目の前にグレンさんの赤くそそりたつものがある。期待に膨らみすぐにでも破裂しそうな危険物。 
 
 私はそれを前に目を白黒させた。驚き過ぎて声すら出ない。 

 ………え?え?レインさんーーー!!ナニを咥えさせたって説明したのーーー?
 

 ………確かにおかしいとは思ったのよ? 
 神官室から帰ってきたグレンさんが、私の顔見て真っ赤になったり、そうかと思えば口元ばっかりに視線を感じたり。 
 
 でも、それはレインさんに『グレンとだったら成功するかもしれませんよ』と言われて、グレンさんの体液(血)を私が粘膜(舌)で摂取する魔力譲渡方法を試して欲しいと懇願(という名の脅し)により実行することになったから。
 口に指を咥えさせるなんて、日常生活でしないから、グレンさん変に意識しちゃってるなと思っていたのよ。 
 
 
(そりゃあ……初めての口淫じゃあ、意識しない訳ないわ) 


 レインさん、グレンさんの勘違いをわざと訂正しなかったんだ。  ことを予想して今頃ほくそ笑んでるんだわ。  

 
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