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僕の玩具 sideレイン

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「おい!レイン!お前、マナツ様に無理強いしたな!!」  
 神官室に猪突猛進してきたグレンは、鼻息荒く机を叩いた。山積みの書類の山が一つ崩れる。 
 
 ぎらりとグレンは僕を睨む。視線だけで殺されそうだ。グレンの殺気に鳥肌がたつ。こんなに激しく怒るグレンを見るのは初めてだ。貴重な表情が見れて僕は嬉しい。
 この様子だと今朝のことをマナツから聞いて、頭に血が昇り、竜神様とマナツの監視と護衛を放棄して、僕のところに来たわけか。 
 
 仕事人間のグレンが職場放棄するほど、マナツが大切なんだね。ああ、おもしろいな。 
  
「無理強いってなんのお話ですか?それよりグレン勝手に持ち場を離れてはいけませんよ」  
 穏やかにグレンを諭すと、僕は神官見習いに命令し代わりの兵士を食堂に向かわせた。話やすいよう人払いし、グレンと二人だけになった。 
 
「すまない。頭に血が昇り交代まで考えられなかった」 

「大丈夫ですよ。何も考えられないほどマナツ様が大切なんですね?」 
  
「はーっ、レインからかうな!」 
 レインは後ろ頭をガシガシ掻いた。幼い頃から変わらないグレンの照れ隠しの態度。 
 喜怒哀楽のわかりやすい、愚直なグレンに僕の心はどれだけ救われてきただろう。
 
「そんなことよりだ!マナツ様になんて物を咥えさせたんだ。口の奥が痛いと嘆いていたぞ。いくら魔力譲渡のためでも、嫌がることはするな」 
  
 咥えさせたのは指だけど、グレンの様子から別のモノに変換されている。さすが童貞の妄想力と云うべきか……おもしろいので、このまま勘違いさせておこう。
 
「……嫌がるどころか、新しい魔力譲渡の方法を試したいと提案したのはマナツ様ですよ?」 

「マナツ様が?」  

「ええ、積極的に咥えて舐めて頂きました」 

「なっ!……そ、そんなに…積極的だったのか?」 

「そうですね。マナツに舐められ過ぎて出なくなりましたよ」
 
「ーーーーー!!」 
 グレンはショックが大きかったのか膝から崩れ落ちた。 

「食堂で俺の甘噛みは拒否したのに……レインのは舐めたのか」 
 ドンと机を叩きまた書類の山を崩す。僕の仕事がまた増加した。 

「食堂?まさかレイン、人前で手を出したのですが?それは……いただけない。」 

「お前が首の後ろに、しこたまマーキングしたから消してやったんだ」不貞腐れたように言われた。  

「マーキングしたことは認めますよ。私もポケットに入れて飼育したいぐらいには彼女を気にいってますので」
 
「ポケットって、昆虫じゃないぞ」 

「マナツ様は仕事熱心な真面目な聖女です。竜神様の朝食中、しかも人前で甘噛みされ、恥ずかしくて拒否したんだと思いますよ」 

「……本当にそうだろうか?俺が嫌いな可能性も…現に泣かれている」
 1人ぶつぶつと陰の思考に入って行くグレン。マナツに本人に聞けば、誤解はすぐに解けるのに怖くて聞けないのだろう。 

今のグレンは見ていて飽きない。 
  
 初めての恋情に振り回され、拒否されたと絶望し1人で勝手に挙動不審に陥る。さっさと素直に告白の一つでもすればいい。 
 
 マナツは、離婚歴があり他人の子供を育てたことがあると言った。彼女の中に織りのように溜まり、血を流す傷。それが献身的な態度と自己肯定感の低さをもたらしている。 

 自分は選ばれないと……グレンの好きな人が自分とは、つゆほど思っていない様子だ。  
  
 僕には、その傷もマナツの魅力の一つに思える。歪な形も美しい。グレンもマナツが欲しいなら、傷ごと愛し慈しみ、包み込むぐらいの度量が必要だね。 

 僕は、グレンが成長するのを期待しているよ。 まあ、それまでは嵐のように一喜一憂する感情に振り回されればいいさ。僕は、近くで観察させてもらうから。  

「………嫌いかどうか確認すればいいと思いますよ。マナツ様に私と同じ新しい魔力譲渡の方法を頼んでみて下さい」 

「なななな、お、お前!何言ってるんだ!俺は絶対マナツの嫌がることはしない!」 
 動揺し過ぎなグレンは首まで真っ赤だ。 
    
「私にはしてくれましたし、マナツ様が嫌がるかどうかわかりませんよ? 
 グレンだって理解していますよね?竜神様が幼体となり、前より膨大な聖なる力が必要です。コハル様が竜神様に拒絶されている以上、マナツ様に全ての負担がかかります。すでに、口づけより深い魔力譲渡を考慮する段階なんですよ?」
  
 必要性を強調し、竜神様のためですからと念を押し、グレンにしぶしぶ了解させた。 
 あとは、マナツに今朝と同じ魔力譲渡を試すと根回ししておけばいいだろう。

 勘違いしたままのグレンがどう行動するのか?マナツがどんな反応をするのか……楽しみで仕方ない。 

 
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