【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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朝食と勘違い

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 レインさんの指を咥えて別れたあと、グレンさんと合流し厨房で朝ご飯を作る。 
 
 今日のメニューは野菜たっぷりポタージュグラタンとイチゴ蒸しパンである。 
  
 竜神様はいい子で「ギュロ、ギュロ」言いながら、左側に抱っこされ、ご飯を作りを見学している。左腕に乗る重さがうれしい。芋虫のときより確実に伸びて大きくなった証拠だから。 
 いとおしくてすりすり頬擦りすると、もふもふした肌触りと温かい感触。竜神様も大きな瞳を瞬かせて、お返しとばかりに私に頭を押し付ける。ちゅっと小さなおでこに口づけた。

「……羨ましい」   
ポツリと呟いたのは、ブランドさんだった。 
「私も竜神様に口づけしたい」  
 ブランドさんは欲望に忠実なようだわ。竜神様の真横にそーと近寄り横頬に、こっそり口づけしようとして一噛みされた。 
「い、いたたた!!」 
「ブランド様、また治療します!」 
 グレンさんの眉間のシワが確実に今、増えた。 

 
 竜神様専用の食堂で私、竜神様、ブランドさん、グレンさんでテーブルを囲む。 
 レインさんの分はノコアちゃんにお届けを頼んである。今レインさんは、神官長として書類に向かい神官室に籠っている。 

 滞在初日、ブランドさんは用意された豪華な神殿料理を拒否し、竜神様と同じ物が食べたいと駄々をこねた。結果、料理長と協力して私が作るはめに。 
  
 注意すべき点は、ブランドさんが竜神様の苦手な野菜を食べてしまうこと。 
 この前の嘔吐下痢で過度の餌付けが禁止されたので、竜神様に良く思われたいブランドさんは苦手な野菜を食べることで評価を上げようとしている。 
 大の大人が、好き嫌いを増長させてどうするのかしら?本当に困るわ。 
  
 竜神様も学習して苦手な野菜があるとわしづかみ、「ギュロ?」っと、可愛く小首をかしげてブランドさんに押し付けるようになってしまった。 
 その可愛いさに悶絶して転がり、竜神様の手で潰された原型のわからない野菜を嬉しそうに咀嚼するブランドさんに周囲は引きぎみ。 
 
「グレンさんもどうぞ!」  
 ことりとお皿をグレンさんの前にも置いた。 
 
「マナツ様、俺の分まですまない」 
「あっ!」  
 スプーンをフォーク置こうとして手が滑った。からーんと床に転がってテーブルの下に転がる。 
 中腰になり奥に転がったスプーンを拾って立ち上がった。そのとき、踵が何か硬い物を踏んだ。バランスを崩した私は後ろに倒れそうになりーー。 
 
「おい!大丈夫か!」
 すかさずグレンさんが、腕を伸ばし私を後ろから抱き止めた。倒れないようしっかりとお腹に両腕がまわされている。腕の逞しさに熱さに、先日を思い出しドキリとする。 
 
「グレンさん、ありがとう!転がらなくてすんだわ……グレンさん?」 
 もう大丈夫なのに離してくれない。きつく抱きしめられ、しきりに首後ろの匂いを嗅がれた。 
 
ちょっと、鼻息がかかりこそばゆいから。
 
「んっ」
「ちっ、レインの色がこんなについてる」 
 舌打ちまでして、苛立ちを隠せない。 
「ちょっとグレンさん、なにして!!あっ!」  
 首後ろをペロリと舐められ、ハムハムと唇で甘噛みされた。ぞくんと皮膚が粟立ち、体が跳ねてしまう。
  
「よし!これぐらいでいいだろう」 
 満足したのかグレンさんは私を腕から解放した。 

「よし、じゃあ、ありません!朝っぱらから止めて下さい!」確実に心拍数の上昇した胸を押さえ、抗議した。 
 
「朝じゃなければいいのか?」 
「朝じゃなくても、お触り禁止です!」 
 しごく真面目に問われでも、必要以上の接触は禁止させて頂きます。 
  
 周りに竜神様もブランドさんも侍女さんたちも居るのだから、仕事中は節度を持って接してほしい。
 ノコアちゃんたちは優秀な侍女で、見ていない振りをしてくれるけど。 
 ブランドさんはまた「羨ましい」と、呟いた。 
 
 
 
「……レ…イ……なら……いい…の…か?」 
 グレンさんは前髪をぐしゃぐしゃにしながら何か囁いた。その前は小さすぎて断片的にしか聞こえなかった。 
 聞き返そうと思ったけど、腹を空かせ限界だった竜神様がお皿にスプーンを叩き騒いだ。 

「ギュロ!ギュロ!!」 
 
「グレン、聖女マナツ。戯れはそのぐらいにして下さい。竜神様が朝食を御所望です」 
 
「ごめんなさい!すぐに準備するわね!」
 ノコアちゃんたちも手伝ってくれたので、あっという間に朝食の準備ができた。  
 
「ギュロロロ!」 
 ブランドさんは竜神様にグラサンを食べさせる。嬉しそうにしっぽを動かす竜神様を蕩けるような視線で見つめ、もふもふ毛皮を堪能してる。 

 それにしても、この人ブランドさんいつまでアーガストに滞在するのだろう。
  
 かれこれもう、1週間は経つけど。彼の代理統治する西のサイレイクは大丈夫なのかしら?  
 
 でれでれのブランドさんを呆れて見ながら、朝食のグラタンを口に入れる。 

「ん!いた!熱い!」 
 思ったより熱々だったグラサンが、腫れた口の中に染みる。
 
「おい!大丈夫か?そんなに熱いか?」 
 グレンさんが差し出してくれた水をごくごく飲んだ。
「はぁっ。ありがとうグレンさん。もう、レインさんが無理やり口に突っ込むから、奥が腫れちゃったわ。だから余計熱く感じるのよ」 

「…………無理やり……何を突っ込まされたんだ!!」 

「え?ナニって?」
 
「レイン、許さねえ」  
 
「ひっ!グレンさん」 
 
 ゆらりと立ち上がったグレンさんは鬼のような形相をして食堂から飛び出して行った。 
 
 グレンさん、絶対勘違いしてるわ!
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