上 下
38 / 87

繭にくるまれる

しおりを挟む
 
 衝撃的な綾乃さんの奴隷宣言のあと、レインさんに黒花病の説明を聞いた。広大なアーガストの一画、東のアリーヤで流行る風土病。 
  
 だんだん黒い模様が全身に広がり、激しい痛みを伴い体が腐っていく。そして、最後に蔦に黒い花が咲くと死んでしまうという。 
 
「その病気の原因はわかっているの?」 
 
「いえ……何もわからないのです。ただアリーヤ出身者に限定した病気で感染力はなく。調査団を派遣し、アリーヤの土地の土、固有の植物、動物、食べ物も調べたのですが特に不振な点は有りませんでした。ですが、綾乃さんのポーションを飲むと僅かに症状が緩和されるので、竜神様の吐き出す呪いに近いものと考えています」 

 竜神様の呪いは暗黒竜にもたらされたもの。150年経っても竜神様を苦しめ、黒花病の原因だとしたらたちが悪すぎるわ。 
「私も、ポーション作りを手伝った方が良いかしら?」  
「マナツ様には、竜神様のお手当てがあります。竜神様が成体になれば暗黒竜の呪いを抑えられます。今は、ポーション作りはアヤノ様にお任せしましょう」 

 綾乃さんの監視係のセナさんも黒花病に罹患しているという。きっと、セナさんを助ける為に頑張っているのね。 
  
 会ったことないけど、セナさん的には奴隷宣言プロポーズまでされて、自分の病を治す為奮闘する綾乃さんが、憎まれ口や暴言を吐いても『こいつこんなこと言っても俺のこと愛してるんだな』って、ほくそ笑んでいそう。究極のツンデレだと思われてる。
 
 
 編み物をしながら、レインさんとお話しをする。時折起きる竜神様をトイレに連れて行き、背中をトントンして寝かし付けて。嘔吐はもうしないけど、お腹はまだ緩い。 
 
 そのうち私も眠むたくなってきた。 

「マナツ様、おいで?」 

 寝ようと編み棒をかごに片付る。竜神様を抱き締める私を、レインさんが後ろから包み込む。  
 穏やかな春の小川みたいなレインさんの聖なる力が背中からじんわり浸透する。守られているように心地よくて。 
 うとうとする私の顔を、後ろから覗きこみレインさんが穏やかに微笑みながら言った。 
 
「マナツ様、頑張り過ぎです。また倒れてしまいますよ」そっと目の下の隈に触れた。 
 
「レインさんまで、隈の妖精って言いたいの」 
 レインさんが半分夢の中の私の首少し後ろに向けた。唇を柔らかいモノが塞ぐ。 

「え?んっ、あっ」 
「っ、はぁ」 
 レインさんに口づけされて、冷たい唇から聖なる力を流し込まれる。恵みの雨のように乾いた体に浸透する。気持ちよくて満たされて。 
 
ああ、私疲れていたんだわ。注がれて気づいた。
 
 乾いた大地が水を欲しがるように、レインさんの優しい聖なる力を求めてしまう。自分からレインさんの舌に舌を絡めて、その唾液を啜う。ふわふわ体が熱くて気持ちよくて、頭の芯が白く痺れる。 

「はぁ、んん」 
「ん、ぐっ。はっ……マナツ様、余り男を煽ることをしてはいけません。また…グレンに襲われかけても、知りませんよ」 
 レインさんの熱が私の唇から離れていく、繋がった唾液が切れてしまう。それが寂しくて潤んだ瞳でレインさんを見つめた。
 
 いやだーー欲しがってるみたい、浅ましい。レインさんから目を反らし、ほうっと吐息を吐いた。  

「……本当に、可愛いですね」 
 荒い息のまま、瞳に情欲を宿し、レインさんは私の唇をぺろっと舐めた。 
 
「さあ、もう遅いから寝ましょう。明日に響きますよ」 
 穏やかに微笑み、私を再び抱き締めたレインさんは綺麗に情欲を隠していた。  

(なんか、ずるい。レインさん余裕綽々で切り替え早くて、悔しいわ。なんだか、私だけ翻弄されてるみたい)

 私の思考は長く続かなかった。 
 繭のような、レインさんの聖なる力にくるまれる。穏やかで温かく心地よい。 
 眠りにつく直前、ぼやける意識の中、首後ろに柔らかい唇の感触が何度もしたような……気がした。 


 
◇◇◇  
 
  
 次の日から、猛省したブレンダさんが竜神様に必要以上食べさせることはなく。完成した腹巻きをした竜神様がお腹を壊すこともなくなった。 
 ブレンダさんは相変わらず竜神様にメロメロで食事で釣らない時でも、触ろうとしては噛まれている。 
 噛まれてもなぜか嬉しそうなブレンダさん。神官さんと侍女さんが引いていたわ。 
 
 小春さんは、竜神様の気を引こうと料理を作ってきたり、抱っこしようとして拒否され噛まれている。 
 だから、今、毎日のお手当ては私がしている。 
 私の聖なる力が枯渇しないよう、日中は神官どちらが必ず側にいる。日々の魔力委譲口づけが朝夕から昼も増えて三回になってしまった。 

 グレンさんは、あの日から目を合わせてくれない。それなのに、お手当て中は、じーっと熱く見られてやりずらい。 
  
 口づけ後は逃げるように体を離すし、添い寝はお互い気まずいので、会話も少ない。 
 グレンさんはベッドに入ると直ぐ目を瞑ってしまう。私が寝たふりをすると、竜神様ごと抱きしめられて、頬に口づけされるから嫌われてはいないと思うけど。 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...