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繭にくるまれる
しおりを挟む衝撃的な綾乃さんの奴隷宣言のあと、レインさんに黒花病の説明を聞いた。広大なアーガストの一画、東のアリーヤで流行る風土病。
だんだん黒い模様が全身に広がり、激しい痛みを伴い体が腐っていく。そして、最後に蔦に黒い花が咲くと死んでしまうという。
「その病気の原因はわかっているの?」
「いえ……何もわからないのです。ただアリーヤ出身者に限定した病気で感染力はなく。調査団を派遣し、アリーヤの土地の土、固有の植物、動物、食べ物も調べたのですが特に不振な点は有りませんでした。ですが、綾乃さんのポーションを飲むと僅かに症状が緩和されるので、竜神様の吐き出す呪いに近いものと考えています」
竜神様の呪いは暗黒竜にもたらされたもの。150年経っても竜神様を苦しめ、黒花病の原因だとしたらたちが悪すぎるわ。
「私も、ポーション作りを手伝った方が良いかしら?」
「マナツ様には、竜神様のお手当てがあります。竜神様が成体になれば暗黒竜の呪いを抑えられます。今は、ポーション作りはアヤノ様にお任せしましょう」
綾乃さんの監視係のセナさんも黒花病に罹患しているという。きっと、セナさんを助ける為に頑張っているのね。
会ったことないけど、セナさん的には奴隷宣言までされて、自分の病を治す為奮闘する綾乃さんが、憎まれ口や暴言を吐いても『こいつこんなこと言っても俺のこと愛してるんだな』って、ほくそ笑んでいそう。究極のツンデレだと思われてる。
編み物をしながら、レインさんとお話しをする。時折起きる竜神様をトイレに連れて行き、背中をトントンして寝かし付けて。嘔吐はもうしないけど、お腹はまだ緩い。
そのうち私も眠むたくなってきた。
「マナツ様、おいで?」
寝ようと編み棒をかごに片付る。竜神様を抱き締める私を、レインさんが後ろから包み込む。
穏やかな春の小川みたいなレインさんの聖なる力が背中からじんわり浸透する。守られているように心地よくて。
うとうとする私の顔を、後ろから覗きこみレインさんが穏やかに微笑みながら言った。
「マナツ様、頑張り過ぎです。また倒れてしまいますよ」そっと目の下の隈に触れた。
「レインさんまで、隈の妖精って言いたいの」
レインさんが半分夢の中の私の首少し後ろに向けた。唇を柔らかいモノが塞ぐ。
「え?んっ、あっ」
「っ、はぁ」
レインさんに口づけされて、冷たい唇から聖なる力を流し込まれる。恵みの雨のように乾いた体に浸透する。気持ちよくて満たされて。
ああ、私疲れていたんだわ。注がれて気づいた。
乾いた大地が水を欲しがるように、レインさんの優しい聖なる力を求めてしまう。自分からレインさんの舌に舌を絡めて、その唾液を啜う。ふわふわ体が熱くて気持ちよくて、頭の芯が白く痺れる。
「はぁ、んん」
「ん、ぐっ。はっ……マナツ様、余り男を煽ることをしてはいけません。また…グレンに襲われかけても、知りませんよ」
レインさんの熱が私の唇から離れていく、繋がった唾液が切れてしまう。それが寂しくて潤んだ瞳でレインさんを見つめた。
いやだーー欲しがってるみたい、浅ましい。レインさんから目を反らし、ほうっと吐息を吐いた。
「……本当に、可愛いですね」
荒い息のまま、瞳に情欲を宿し、レインさんは私の唇をぺろっと舐めた。
「さあ、もう遅いから寝ましょう。明日に響きますよ」
穏やかに微笑み、私を再び抱き締めたレインさんは綺麗に情欲を隠していた。
(なんか、ずるい。レインさん余裕綽々で切り替え早くて、悔しいわ。なんだか、私だけ翻弄されてるみたい)
私の思考は長く続かなかった。
繭のような、レインさんの聖なる力にくるまれる。穏やかで温かく心地よい。
眠りにつく直前、ぼやける意識の中、首後ろに柔らかい唇の感触が何度もしたような……気がした。
◇◇◇
次の日から、猛省したブレンダさんが竜神様に必要以上食べさせることはなく。完成した腹巻きをした竜神様がお腹を壊すこともなくなった。
ブレンダさんは相変わらず竜神様にメロメロで食事で釣らない時でも、触ろうとしては噛まれている。
噛まれてもなぜか嬉しそうなブレンダさん。神官さんと侍女さんが引いていたわ。
小春さんは、竜神様の気を引こうと料理を作ってきたり、抱っこしようとして拒否され噛まれている。
だから、今、毎日のお手当ては私がしている。
私の聖なる力が枯渇しないよう、日中は神官どちらが必ず側にいる。日々の魔力委譲が朝夕から昼も増えて三回になってしまった。
グレンさんは、あの日から目を合わせてくれない。それなのに、お手当て中は、じーっと熱く見られてやりずらい。
口づけ後は逃げるように体を離すし、添い寝はお互い気まずいので、会話も少ない。
グレンさんはベッドに入ると直ぐ目を瞑ってしまう。私が寝たふりをすると、竜神様ごと抱きしめられて、頬に口づけされるから嫌われてはいないと思うけど。
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