【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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気まずい二人

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 嫌な事を思い出し年甲斐もなく泣いてしまった。 グレンさんは何も語らず背中を擦り私が泣き止むまで待っていてくれた。 

 気まずい……私とグレンさんの間を微妙な空気が流れる。 
  
「マナツ様!グレン様!お取り込み中失礼します!大変です!」どんどんと厨房のドアを叩かれ、助け舟がきたと二人して振り返った。 
  
 その慌てた声はノコアちゃんだった。 
 
「どうしたのノコアちゃん!」 
「何があったノコア!」 
 グレンさんが鍵を開けるとノコアちゃんが転がるように部屋に入ってきた。 
 
「大変なんです!竜神様がおやつを吐きました!!って………お二方っ」 
 ノコアちゃんは私とグレンさんを目を丸くして交互に見た。 
 
「それは心配だ、すぐに行く」 
「私も行くわ!ノコアちゃん、食べた量はわかる?」 
 厨房から駆け出そうとした私たちをノコアちゃんは慌てて止める。  

「マナツ様、グレン様取り急ぎお着替え下さい」 
「着替えてる暇などないだろう?」 
「……いえ、風紀が乱れますので」 
 ノコアちゃんは生ぬるい視線を私たちに向けた。その視線を辿ると……。   
「あっ……」  
「あ!」 
 そうだった。グレンさんはズボンが私は胸部分とショーツがとんでもないことになっていたんだったわ。  
 私とグレンさんは大急ぎで着替えに部屋に向かった。

 廊下でグレンさんと別れた。 
 自室で何か言いたそうなノコアちゃんに背中のリボンを外してもらう。後は一人で着替えるからと廊下で待機をお願いした。 
 精液まみれのショーツなんて見られたら恥ずかしくて、軽く死ねる。 
 部屋に備え付けの流しで軽く荒い。大急ぎで着替え中庭に向かった。 

  
「あれ?」 
 途中玄関入り口を占拠する大量のトランクの山があった。ピンク、オレンジどれも蛍光に近いド派手な色で白い神殿にあると浮き出で見えた。違和感が半端ない。神官見習いさんたちが重そうに奥に運んで行く。見知った神官見習いのシャインさんまで居た。 
 小春さんは落ち着いたの?放って置いて大丈夫かしら? 

 シャインさんは辺りを探るように見回すと小さな灰色のトランクを一つ掴み、隠すように他の神官見習いさんたちとは逆方向に走って行った。 
 
……何だろう少し気になるわ。
  
「ノコアちゃんこのド派手な荷物の群れは?」   
「ああ、これですか?神官長からまだ、ご連絡は頂いていませんが、近日東の代理統治長アンローザ様が来られるんですね。いつもですが今回も荷物多いです」 
 
 反対側の廊下から着替えの終わったグレンさんもやって来た。私と目が合うと反射的に逸らされる。
  
 あからさまだとちょっと凹むわよグレンさん。
   
「アンローザ様が来るなど、レインから聞いていないぞ……おい!荷物の検分をしてから運んでいるのか?」 
 グレンさんは山詰みのトランクを見て顔を締め、荷物を運ぶ神官見習いに質問した。

「まだです!でもシャインさんが運べと指示を頂いたと……」  
 
「指示……レインからか?だめだ!アンローザ様でも例外はない。運んだ荷物も全て検分する。神殿内に危険物を持ち込ませる訳にはいかないからな」 
 神官見習いに指示を飛ばすグレンさんに会釈をして、私とノコアちゃんは中庭に急いだ。

 

  
  
 中庭には、苦しそうに呻きテーブルに突っ伏している竜神様が。テーブル周囲には大量の嘔吐物が散乱し、苦しむ竜神様から黒い呪いが霧のように溢れていた。レインさんは両手から聖なる力を展開し、これ以上呪いが広がらないよう浄化をしていた。 
  
 ブランドさんは手先を呪いで黒く染め、レインさんが浄化するのを呆然と見ていた。 

この人何してるの?
 
「レインさん!遅くなってごめんなさい。竜神様もう大丈夫よ!」 
「マナツ様!来て頂きありがとうございます」  
 私は、竜神様に駆け寄るとその小さな体を抱きしめた。溢れる呪いを浄化し、竜神様の背中をトントン叩く。口の中に嘔吐物が残っていないことを確認した。 
 
「ギュ、ウ」
 涙をポロポロ流し、苦しそうだけど呼吸も出来ている。ひしっと私の胸にくっついた。意識もしっかりあるし……大丈夫そうね。もふもふの毛皮に付着した嘔吐物を丁寧に拭いた。容体が落ち着いたらお風呂に入れよう。 
 
 レインさんは残りの呪いを浄化して回り、後片付けを侍女に指示した。
 

「遅いです!聖女マナツ。竜神様が苦しんでおられるのに今まで何をして……」 
「マナツ様、グレンはどこに………」   
 私を責めるブランドさんとグレンさんを探すレインさんの声が重なり、同じタイミングで止まる。 
  
 二人とも上から下まで私に視線を走らせた。ちょうどその時、「遅れてすまん!!竜神様は大丈夫か!」と、グレンさんが駆けつけた。 
 レインさんとブランドさんは駆けつけたグレンさんのことも同じように上から下まで見た。 

「グレン!貴方は竜神様が苦しんでいるときにそばにいないばかりか、聖女マナツにマーキングしていたとは!なんと破廉恥な、言語道断です!」 
 ブランドさんは激昂して、グレンさんに詰め寄った。 
 
 マ、マーキングって、犬とか猫がする。匂いつけよね?そ、そんな二人にわかるほど、私って精液臭いの?部屋で着替えたんだけど……。  
 恥ずかしくて顔があげられない。 
 
「まあまあ………ブランド様。グレンも若い雄ですから魅力的な番が欲しいのでしょう。番にマーキングしたいと思うのは男の本能ですから。ブランド様もお気持ちは、理解して頂けると思います」 
 レインさんはブランドさんを諫めつつ、グレンさんに含み笑いをした。 
 
「俺は軽い気持ちでマーキングしたわけじゃない」
 グレンさんは苦々しい顔でレインさんに告げた。   
 
「グレンの気持ちは聞いていません!竜神様が苦しんでいても、直ぐに駆けつけて来なかったのは事実です!」ブランドさんは、執拗にグレンさんを責めようとする。何だかハラがたって。
 
「ブランドさん、竜神様が苦しんだ原因は食べ過ぎよ……私が用意したおやつの量より嘔吐物が明らかに多いもの。自分の分のおやつもあげちゃいましたよね?」じとーっと見つめてやった。 
 
「ブランド様、再三注意いたしましたよね?竜神様は幼生体なので、少量しか食べさせないで下さいと……」笑顔のレインさんから冷気が発生し、中庭を凍てつかせる。 


「………嬉しそうに鳴いて、触らせてくださるのでつい……その……もうしない」
 
 ブランドさんは竜神様に触りたいがため、レインさんがアンローザさんの荷物を受け取りに行った僅かな隙に、自分のおやつを全て与えたそう。 

 自分が悪いのにグレンさんを責めるなんて!  

 小さな竜神様が吐くのは体力を消耗する、吐瀉物で窒息する可能性もあるのに。私とレインさんはブランドさんにしこたま説教をした。 
 
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