36 / 87
気まずい二人
しおりを挟む嫌な事を思い出し年甲斐もなく泣いてしまった。 グレンさんは何も語らず背中を擦り私が泣き止むまで待っていてくれた。
気まずい……私とグレンさんの間を微妙な空気が流れる。
「マナツ様!グレン様!お取り込み中失礼します!大変です!」どんどんと厨房のドアを叩かれ、助け舟がきたと二人して振り返った。
その慌てた声はノコアちゃんだった。
「どうしたのノコアちゃん!」
「何があったノコア!」
グレンさんが鍵を開けるとノコアちゃんが転がるように部屋に入ってきた。
「大変なんです!竜神様がおやつを吐きました!!って………お二方っ」
ノコアちゃんは私とグレンさんを目を丸くして交互に見た。
「それは心配だ、すぐに行く」
「私も行くわ!ノコアちゃん、食べた量はわかる?」
厨房から駆け出そうとした私たちをノコアちゃんは慌てて止める。
「マナツ様、グレン様取り急ぎお着替え下さい」
「着替えてる暇などないだろう?」
「……いえ、風紀が乱れますので」
ノコアちゃんは生ぬるい視線を私たちに向けた。その視線を辿ると……。
「あっ……」
「あ!」
そうだった。グレンさんはズボンが私は胸部分とショーツがとんでもないことになっていたんだったわ。
私とグレンさんは大急ぎで着替えに部屋に向かった。
廊下でグレンさんと別れた。
自室で何か言いたそうなノコアちゃんに背中のリボンを外してもらう。後は一人で着替えるからと廊下で待機をお願いした。
精液まみれのショーツなんて見られたら恥ずかしくて、軽く死ねる。
部屋に備え付けの流しで軽く荒い。大急ぎで着替え中庭に向かった。
「あれ?」
途中玄関入り口を占拠する大量のトランクの山があった。ピンク、オレンジどれも蛍光に近いド派手な色で白い神殿にあると浮き出で見えた。違和感が半端ない。神官見習いさんたちが重そうに奥に運んで行く。見知った神官見習いのシャインさんまで居た。
小春さんは落ち着いたの?放って置いて大丈夫かしら?
シャインさんは辺りを探るように見回すと小さな灰色のトランクを一つ掴み、隠すように他の神官見習いさんたちとは逆方向に走って行った。
……何だろう少し気になるわ。
「ノコアちゃんこのド派手な荷物の群れは?」
「ああ、これですか?神官長からまだ、ご連絡は頂いていませんが、近日東の代理統治長アンローザ様が来られるんですね。いつもですが今回も荷物多いです」
反対側の廊下から着替えの終わったグレンさんもやって来た。私と目が合うと反射的に逸らされる。
あからさまだとちょっと凹むわよグレンさん。
「アンローザ様が来るなど、レインから聞いていないぞ……おい!荷物の検分をしてから運んでいるのか?」
グレンさんは山詰みのトランクを見て顔を締め、荷物を運ぶ神官見習いに質問した。
「まだです!でもシャインさんが運べと指示を頂いたと……」
「指示……レインからか?だめだ!アンローザ様でも例外はない。運んだ荷物も全て検分する。神殿内に危険物を持ち込ませる訳にはいかないからな」
神官見習いに指示を飛ばすグレンさんに会釈をして、私とノコアちゃんは中庭に急いだ。
中庭には、苦しそうに呻きテーブルに突っ伏している竜神様が。テーブル周囲には大量の嘔吐物が散乱し、苦しむ竜神様から黒い呪いが霧のように溢れていた。レインさんは両手から聖なる力を展開し、これ以上呪いが広がらないよう浄化をしていた。
ブランドさんは手先を呪いで黒く染め、レインさんが浄化するのを呆然と見ていた。
この人何してるの?
「レインさん!遅くなってごめんなさい。竜神様もう大丈夫よ!」
「マナツ様!来て頂きありがとうございます」
私は、竜神様に駆け寄るとその小さな体を抱きしめた。溢れる呪いを浄化し、竜神様の背中をトントン叩く。口の中に嘔吐物が残っていないことを確認した。
「ギュ、ウ」
涙をポロポロ流し、苦しそうだけど呼吸も出来ている。ひしっと私の胸にくっついた。意識もしっかりあるし……大丈夫そうね。もふもふの毛皮に付着した嘔吐物を丁寧に拭いた。容体が落ち着いたらお風呂に入れよう。
レインさんは残りの呪いを浄化して回り、後片付けを侍女に指示した。
「遅いです!聖女マナツ。竜神様が苦しんでおられるのに今まで何をして……」
「マナツ様、グレンはどこに………」
私を責めるブランドさんとグレンさんを探すレインさんの声が重なり、同じタイミングで止まる。
二人とも上から下まで私に視線を走らせた。ちょうどその時、「遅れてすまん!!竜神様は大丈夫か!」と、グレンさんが駆けつけた。
レインさんとブランドさんは駆けつけたグレンさんのことも同じように上から下まで見た。
「グレン!貴方は竜神様が苦しんでいるときにそばにいないばかりか、聖女マナツにマーキングしていたとは!なんと破廉恥な、言語道断です!」
ブランドさんは激昂して、グレンさんに詰め寄った。
マ、マーキングって、犬とか猫がする。匂いつけよね?そ、そんな二人にわかるほど、私って精液臭いの?部屋で着替えたんだけど……。
恥ずかしくて顔があげられない。
「まあまあ………ブランド様。グレンも若い雄ですから魅力的な番が欲しいのでしょう。番にマーキングしたいと思うのは男の本能ですから。ブランド様もお気持ちは、理解して頂けると思います」
レインさんはブランドさんを諫めつつ、グレンさんに含み笑いをした。
「俺は軽い気持ちでマーキングしたわけじゃない」
グレンさんは苦々しい顔でレインさんに告げた。
「グレンの気持ちは聞いていません!竜神様が苦しんでいても、直ぐに駆けつけて来なかったのは事実です!」ブランドさんは、執拗にグレンさんを責めようとする。何だかハラがたって。
「ブランドさん、竜神様が苦しんだ原因は食べ過ぎよ……私が用意したおやつの量より嘔吐物が明らかに多いもの。自分の分のおやつもあげちゃいましたよね?」じとーっと見つめてやった。
「ブランド様、再三注意いたしましたよね?竜神様は幼生体なので、少量しか食べさせないで下さいと……」笑顔のレインさんから冷気が発生し、中庭を凍てつかせる。
「………嬉しそうに鳴いて、触らせてくださるのでつい……その……もうしない」
ブランドさんは竜神様に触りたいがため、レインさんがアンローザさんの荷物を受け取りに行った僅かな隙に、自分のおやつを全て与えたそう。
自分が悪いのにグレンさんを責めるなんて!
小さな竜神様が吐くのは体力を消耗する、吐瀉物で窒息する可能性もあるのに。私とレインさんはブランドさんにしこたま説教をした。
11
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる