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俺は特別か?①sideグレン
しおりを挟む中庭で午後のおやつを楽しむ竜神様は、ブランド様に餌付けされて嬉しそうに鳴いた。
竜神様は、ブランド様に無警戒にその尊き黄金の体を触らせている。
側にはレインも目を光らせているから大丈夫だろう。
偉大な始まりの竜は、神気、戦力、美貌で他の始まりの竜を圧倒し、その支配下に置いたという。
今のブランド様には以前のような敵意や軽蔑が見られない。羽化し、力の片鱗を覗かせた竜神様に魅了されたかのようだ。
そのお体に触れたがり、側に控えたがる。ベンダル様には報告済みだが……これは荒れるだろう。ブランド様も竜神様の番に成れる資質はあるから。
そのベンダル様は、暗黒竜の残党狩に追われ、まだ竜神様と会えていない。
マナツが切り分けたレモンケーキを運び、レインに目配せを送ると俺は厨房に急いだ。
視界の端には、だらしない顔のブランド様と餌付けされる竜神様が見えた。
単純で羨ましいなと思いながら、これからのする魔力譲渡に胸が高鳴る。自分も単純と人の事は言えない。
竜神様が羽化しても、夜間の膨大な聖なる力の吸収は変わらない。いや量は前より増えている。
感情が昂ると呪いが溢れるので、悪夢でも見ようものなら危険だ。だから、俺とグレンは変わらず添い寝をし、朝夕の魔力譲渡も続けている。
今日は、急遽休みのはずのマナツが竜神様のお手当てをすることになった。だから、仕事の朝するはずの魔力譲渡をしていなかった。
「あっ、グレンさん!運んでくれてありがとう!私達も食べましょう。レインさんがグレンさんと休憩しなさいって」
俺の邪な思いに気づかないマナツは微笑む。厨房の一角の小さいテーブルに用意してくれた紅茶とレモンケーキをすすめる。俺は厨房のドアにしっかり鍵をかけ、椅子に座った。
一口食べるとさっぱりとしたレモンの酸味が口の中に広がる。余り甘くなくて俺好みだ。
「レモンケーキか旨いな。でも珍しい……いつもなら竜神様の好みの苺味かレインがリクエストする甘いチョコレート味が多いのに」
「……グレンさんは余り甘いの好きじゃないでしょう?」マナツも美味しそうにケーキを頬張る。
「まあ……あんまり甘いのはな」
「私、今日はお休みだったでしょ?いつもお世話になってるグレンさんの好みのケーキを作ろうと思ったのよ。でも、みんなのおやつになっちゃったけどね。だから、グレンさんのはみんなより大きく切り分けたのよ!特別だからね!」
「………………俺は……特別か?」
「特別よ!このレモンケーキおばあちゃんに教わった大切なものなの」
マナツに深い意味はないのだろうが、気になる女に特別と言われ、俺は限界だった。
「グレンさん!?」
椅子から立ち上がると驚くマナツを抱き締めた。マナツの手からフォークが落ちて乾いた音をたてる。その細い腰を引き寄せ、椅子から立たせると顎を上に持ち上げ唇を寄せた。
「待って!グレンさん!今日は応急措置は……あぁっ!ふ……んっんー!」
「待てない、今日の分してない……ふっ、んっ」
いつもはしない深い深い口づけ。
合わせた唇の隙間から舌を差し入れ、縮こまる小さな舌を絡め取り啜れば、口の中に甘く酸っぱいレモンの味が広がった。
唾液とともに聖なる力を流し込むと、マナツの細い体がびくんと震えた。
驚き硬く強ばった体が少しづつ緩む。顔は赤く紅潮し、瞳がトロンと蕩けてきた。意思の強そうな瞳が快楽に揺れる。その体は俺の聖なる力の色、赤に染まり始めた。
「はっ、あっ」
艶を含んだ悩ましい表情に俺の理性は崩れていく。
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