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訪れた至福タイム?
しおりを挟むもふもふした生き物が口の中をパンパンにしておやつを頬張る。
ハムスターのようなその頬袋はどこまで伸びるんだろう?
はあっ、引っ張ってみたい。
ブランドさんは午後のおやつに夢中の竜神様の柔らかそうな、頬をツンツンして、その美しい顔をだらしなく緩めた。
ずるい!私もツンツンしたい!
「他におやつはないのですか?」
「ギュ!ギュ!」お皿を叩く竜神様。
「竜神様お行儀が悪いですよ」辛抱強く諭すレインさん。
可愛い生き物に癒されるはずのモグモグタイムなのに、聖女候補の私は一人忙しく動いていた。
「えーと、もう少しでレモンケーキが焼けるわ。それまで紅茶のおかわりどうですか?」
「気が利きますね貰いましょう」
「ギュ!」
「竜神様はハチミツ入りミルクかな?」
「ギューーっ」その通りと手足をぱたつかする竜神様。短い手足が動くのは可愛い。
足の裏はどうなってるのかな?肉球つきだったらプニプニ押したい。
砂時計で時間を計り丁寧にブランドさんに紅茶を淹れる。竜神様のミルクは厨房に用意を頼みグレンさんが運んでくれた。
グレンさんから、受けとると仕上げにハチミツを垂らし「美味しくなーれ」と聖なる力を込めて。
竜神様が羽化して3日たった。ブランドさんは夜以外、竜神様にべったりです。馬鹿にしていた口調だったのに今では見る影もなく。もふもふでぬいぐるみたいな竜神様にメロメロの御様子。
竜神様は羽化しても、まだ食事は聖なる力の込めた物しか口に出来ない。
暗黒竜の呪いは羽化で成長したから、常に周りに放出する状態から、制御で抑えられるようになり。
周りに人が長時間居ても大丈夫になった。まだ感情が昂ると呪いが溢れちゃうけど。
だから、ブランドさんが隣に座っても、ベンダルさんのように呪いに侵されない。
羽化直後は、ブランドさんがおもむろに竜神様を抱っこしようとして、嫌がる竜神様に呪いを浴びせられていた。
すぐに引き離し、レインさんとグレンさんが治癒したから大事にならなかった。緑色の髪の毛の大部分が黒くなってた。
ブランドさんは、竜神様がおやつや食事を食べている時はご機嫌なことを気付き、介助をやると言い出して。
レインさんが止めてもやると聞かないので、神官監修のもとすることになり……今に至る。
美味しいおやつにご機嫌な竜神様は、ブランドさんに触られても怒らない。幸せそうに竜神様をツンツンし撫で撫でする。羨ましい。
二人で結託しもっとおやつを寄越せと催促して、レインさんに諌められてる。
ノコアちゃんに呼ばれ、厨房で焼きあがった温かいレモンケーキを切り分けた。
竜神様の分は、一口大に小さく食べやすいように と甘い生クリームを添えて。
一番断面が綺麗に切れたものはお客様のブランドさんに。甘党のレインさんも生クリームを添える。グレンさんの分は大きめに切り分けて。
「マナツ様、今日は本来なら休みなのに、給仕までさせて悪かったな。俺が運ぶから休んでくれ」
グレンさんは声をかけると、私からお皿を受けてり台車に乗せて運んでくれた。
そう、本当は今日は小春さんのお手当て日なんだけど……お昼前には竜神様本人が逃走して私のいた図書室に飛んで来てしまった。
小春さんの作った朝ご飯は手をつけずぐちゃぐちゃにして、午前のおやつを口に入れたら、ぺいっと吐き出したそうだ。
小春さんには抱っこもさせてくれず、触ろうとすると噛むんだって。
「いつも、一生懸命お手当てしてるのに……何でですか竜神様?まさか……真夏さんが私を陥れようと、何か吹き込んだの?」
うるうると悲劇のヒロインぶり、ブランドさんの腕にもたれ私を睨む小春さん。
え?私のせいなの?
図書室の本を片手に唖然としてしまう。竜神様はどこ引く風で私の膝の上で「ギュ!ギュ!」跳ねている。
ブランドさんは迷惑そうにその腕を振り払うとハッキリ言った。
「……いつも、お手当てしてると言いますが……竜神様は貴女になつかれていないように見えますが?本当にしていますか?」
「え?私してますよ!!」
「してるのは、神官見習いの夜のお世話よね」
竜神様を追いかけて集まった人だかりの中から揶揄る声と含み笑いが聞こえた。
「そんな……ブランド様!皆さんひどいです!」
ブランドさんは、すがろうとする小春さんを鋭い眼差しで射ぬいた。
「ひっ!」
「ひどいと思いますか?マナツにはまとわりついて離れなかったのに、竜神様の貴女に対する態度は貴女が竜神様にしてきたお手当ての結果ですよ!」
「そんな……せっかく。可愛く、もふもふになってこれからは、ちゃんと可愛いがろうって……」
ぐずぐずと小春さんは泣き出した。
これからはって、今まで可愛いがってなかったと自分で言ってしまってる。
一番竜神様が辛そうだった芋虫時代に可愛いがってほしかったな。
動向を見守っていたグレンさんが口を開いた。
「コハル様、竜神様が拒否する以上今日のお手当てはお休みだ。シャイン、小春様をお部屋にお連れしろ」
シャインさんは返事をすると小春さんの肩を抱き図書室から出ていった。
「……という訳なので、マナツ様。この後の竜神様のお手当てをお頼みしてよろしいでしょうか?」レインさんが恭しく私に頭を下げた。
「ギュロロロー!!」と、竜神様が鳴いた。さも嬉しそうに。私の頬に擦り擦りする。なんて、可愛いのだろう。
断れる雰囲気ではない。私は読みかけの本を閉じて、私にすり寄る竜神様の体を抱き締めた。
「早めのお昼ご飯にしましょうか?竜神様の大好きな!オムライスクリームシチューがけにする?」
「ギュロロロー!!ギュロロロー!!」
大好物に大興奮。
感情の昂った竜神様は嬉しさのあまり周囲に呪いを溢れさせた。
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