【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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つまらない毎日② side綾乃

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 相変わらず泣きそうな私を慰めもしない。
  
 おもむろに神官兵は、竜の刺繍の施された上着を脱ぎ上半身裸になった。 
 
「見ろよ……」 
「なんで脱ぐのよ!」   
 鍛え抜かれた上半身にそして、そこにある禍々しい模様に目を見開いた。お腹から首の下まで真っ黒な蔦模様が占拠する。 
 
「なにそれ?……呪い?」  
  
「俺の故郷東アリーヤで流行っている風土病だ」 

「風土病?その不気味な模様は?う、うつるの?」 
 変な病気がうつされると困ると距離を置いた。  

「うつることはない。これはな、黒花病という。放っておくとだんだん黒い模様が広がり激しい痛みを伴い体が腐る。そして、蔦に黒い花が咲くと死ぬんだ。」 

「なあに?あんな死ぬの?」 
 ざまあっとばかりにニヤニヤする。  

「ああ死ね。俺の母も婚約者も死んだ…俺も死ぬだろう。だが妹はまだ幼い生きてほしいんだ」 

「ふーん……だから?」 
 こいつの生き死ににも、妹の生き死にも全く興味がない。 
 
「聖女の作るポーションならと期待したが、こんな粗悪品しか作れない偽物の聖女だと思わなかった」 

「は?偽物!この私が!」 

「偽物だろう?竜神様のお手当ての任を外され、お情けで生かされてる。あんたはベンダル様に斬られてもおかしくなかったんだ。別棟に隔離され、任されたポーション作りすら満足に出来ないんだから」 
 
「なに!あんた偉そうに言うけど!私にポーション作ってほしいだけでしょう?」 

「……あぁ。そうだ。あんたに作ってほしい。この黒花病を治せるポーションを」 

「……ふんっ!私のこと馬鹿にしたくせに、結局私の力が必要なんじゃないの!」私が睨むと神官兵も私を睨んだ。 
 心底悔しそうに。怒りで真っ赤な瞳。私に頭を下げることが屈辱的なのだろう。 
  
 私のことが大嫌いなのだこいつは。
  
 ………黒死病を治せるポーションが出来たらこいつは私に頭を垂れるかしら? 
 地面に情けなくおでこを擦り付けて謝るかしら? 
喜んで足の裏くらい舐めるかもね。大嫌いな私にひれ伏すのよ。 
  
「良いわ!あんたの為にポーションを作るわ……ただし黒花病を根絶出来たら、あんたが私の奴隷になるのよ!」 
 人差し指を付きだし驚く男を見据えた。 

 

◇◇◇ 



「45点だな」 

「45点?何でそんなに低いのよ!50点はいくでしょう!」 
  
「最後だと思って油断しただろう?混ぜが少し足らない」 

「ーーーー!!細かい男ね!」 
 神官兵に口煩く言われながら、今日もポーションを作る。 
 粗悪品から下級ポーションになんとかレベルアップしたわ。 
 聖なる力を込めると疲れるけど、こいつを打ち負かす為に、惜しまず使うようになった。 

 疲労感に夕方にはへとへとになるけど、少しずつ生活にも慣れてきた。 
  
 神官兵は「体力もないのか?」と、馬鹿にしながらも夕食を用意し、お風呂を焚いて「早く寝ろよ」と、毎日帰って行く。 
 離棟は鍵がないと神殿から行き来出来ない。夜私は、一人静寂の中、閉じ込められる。  
 
うるさい男が居ないから余計静かに感じてしまう。

 次の朝、静寂を破り食器も下げずお風呂も洗わないことを注意される……。男の小言に少し安心する。    なんで?腹が立つのに?やっぱり嫌な男ね!仕方なくやるようになった。 



 ポーションの品質が上がり中級になると神殿や教会、市井に出回るようになった。 
 効果が良くて評価が良いと神官兵がなぜか得意げに嬉しそうに私に報告してきた。  

「この私が作ったんだから、当たり前でしょう!」胸を反らしふんぞり反る。 
 
「本当にあんたは変わらないな」 
 笑いながら、飽きれたように言われた。 

 
 
 神殿や教会、市井にポーションが出回ると感謝の手紙が届くようになった。やっぱり聖女の私が作るポーションは違うみたいね!聖なる力をたくさん込めてるもの!効果あるのは、当たり前よ! 
 
  
『もう苦しくない、ありがとう!』 
『自分の足で、歩くことが出来るようなりました』 
『穏やかな子の顔を見るのは久しぶりです』  

 手紙に溢れる感謝の言葉。涙に滲んだ便箋もある。 
   
 この人たちが死のうが生きようが私には関係ないのに……。 

 自分さえ良ければそれで良かったのに。ポーションだって自分の為に作ってるのに。 

 なんだろう?これは……胸が苦しい。 
 喉が詰まって苦しくて。熱くて。 

 泣くつもりもないのに、ポロポロと涙が溢れた。

「おい!大丈夫か?」 
 泣いて初めて神官兵に心配された。 

「大丈夫よ!ただ……悔しい。こんな些細なことが嬉しいなんて」 
 泣き笑いしながら私は、彼を見上げた。
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