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西の代理統治長
しおりを挟むまた、少しお手当て体制が変わった。
それは、目の前の代理統治長対策の一環らしい。
客人を迎える応接間で私たちは初対面した。
「始めまして聖女候補たち、私は始まりの竜が一人、西のサイレイク統治長ブランドと言います。以後お見知り置きを……」
新緑色の髪にエメラルドの切れ長の瞳。薄い唇の口角を僅かに上げてブランドさんは優雅に挨拶をしてくれた。
少し皮肉げな美少年の登場に、小春さんの瞳が爛々と輝く。
「私、聖女候補の小春と言います~!よろしくお願いします」と、近づくとあっという間にブランドさんに腕を絡める。ブランドさんは少し驚いた後、冷たく微笑む。
「こんなに可愛い方が聖女候補なんですか?竜神様も幸せだ」
「そんな……可愛らしいなんて」
小春さん頬を赤らめブランドさんを見つめた。
……小春さん。あんなに神官二人と添い寝したいと騒いでいたのに……見目麗しければ本当に誰でも良いのね?
ついつい醒めた視線を向ければ呆れ顔のグレンと目が合った。
『気が合いますねー』の意味を込め、グレンさんに目配せをしたら、珍しく赤い顔で目を反らす。
レインさんはニコニコ笑顔を張り付けたまま、私をブランドさんに紹介した。
「こちらは二人目の聖女候補のマナツ様です」
「えーと、真夏です。よろしくお願いします」
こっちは看護師スマイルを張り付ける。
「ずいぶんボロボロの聖女候補ですね?隈の妖精ですか?」
ブランドさんは上から下まで私に視線を走らせると「……赤と青」と、ぼそりと呟いた。
そして、鼻で笑うと馬鹿にしたようにレインさんとグレンさんに視線を投げた。
「なんだ…お前たちのお手つきか?」
(な?お手つき?)
驚き過ぎて二の句が告げない!添い寝してるだけで何もありませんけど。
「そうなんです!ブランド様!真夏さんは夜な夜なグレンさんレインさんと添い寝してるんです!」
ここぞとばかり、自分のことを棚にあげ小春さんは訴えた。
「コハル様、俺たちは竜神様のお手当てのために魔力補給をしているだけだ!やましいことなどしていない!」グレンさんが声をあらげた。
「怖いです!ブランド様」
更にぐいぐいと腕に胸を押し付ける小春さん。あ、あざといわ。
「ふんっ!口ではどうとでも言えるさ……そんなことより竜神様に謁見させてもらおうかな?」失礼にならないよう小春さんを振りほどきと、ブランドさんは言った。
「失礼致しましたご案内いたします」
笑顔だけど、目の笑っていないレインさんは王座の間にブランドさんを案内した。
◇◇◇
同時時刻、珍しく彼女から離れた彼は一人、別棟に急いだ。彼の盲愛する聖女は今頃西の代理統治長と会っている頃だろう。
……これ以上、もうこれ以上。
誰にも僕の大切な聖女を穢させない!
そのために彼はひた走った。もう一人の聖女候補だったアヤノに会うために……。
この 手紙の内容通り彼女を動かすこと、それが彼の幸せに繋がる。
彼のただ一人の聖女、コハルを自分だけのモノにするため。
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