28 / 87
西の代理統治長
しおりを挟むまた、少しお手当て体制が変わった。
それは、目の前の代理統治長対策の一環らしい。
客人を迎える応接間で私たちは初対面した。
「始めまして聖女候補たち、私は始まりの竜が一人、西のサイレイク統治長ブランドと言います。以後お見知り置きを……」
新緑色の髪にエメラルドの切れ長の瞳。薄い唇の口角を僅かに上げてブランドさんは優雅に挨拶をしてくれた。
少し皮肉げな美少年の登場に、小春さんの瞳が爛々と輝く。
「私、聖女候補の小春と言います~!よろしくお願いします」と、近づくとあっという間にブランドさんに腕を絡める。ブランドさんは少し驚いた後、冷たく微笑む。
「こんなに可愛い方が聖女候補なんですか?竜神様も幸せだ」
「そんな……可愛らしいなんて」
小春さん頬を赤らめブランドさんを見つめた。
……小春さん。あんなに神官二人と添い寝したいと騒いでいたのに……見目麗しければ本当に誰でも良いのね?
ついつい醒めた視線を向ければ呆れ顔のグレンと目が合った。
『気が合いますねー』の意味を込め、グレンさんに目配せをしたら、珍しく赤い顔で目を反らす。
レインさんはニコニコ笑顔を張り付けたまま、私をブランドさんに紹介した。
「こちらは二人目の聖女候補のマナツ様です」
「えーと、真夏です。よろしくお願いします」
こっちは看護師スマイルを張り付ける。
「ずいぶんボロボロの聖女候補ですね?隈の妖精ですか?」
ブランドさんは上から下まで私に視線を走らせると「……赤と青」と、ぼそりと呟いた。
そして、鼻で笑うと馬鹿にしたようにレインさんとグレンさんに視線を投げた。
「なんだ…お前たちのお手つきか?」
(な?お手つき?)
驚き過ぎて二の句が告げない!添い寝してるだけで何もありませんけど。
「そうなんです!ブランド様!真夏さんは夜な夜なグレンさんレインさんと添い寝してるんです!」
ここぞとばかり、自分のことを棚にあげ小春さんは訴えた。
「コハル様、俺たちは竜神様のお手当てのために魔力補給をしているだけだ!やましいことなどしていない!」グレンさんが声をあらげた。
「怖いです!ブランド様」
更にぐいぐいと腕に胸を押し付ける小春さん。あ、あざといわ。
「ふんっ!口ではどうとでも言えるさ……そんなことより竜神様に謁見させてもらおうかな?」失礼にならないよう小春さんを振りほどきと、ブランドさんは言った。
「失礼致しましたご案内いたします」
笑顔だけど、目の笑っていないレインさんは王座の間にブランドさんを案内した。
◇◇◇
同時時刻、珍しく彼女から離れた彼は一人、別棟に急いだ。彼の盲愛する聖女は今頃西の代理統治長と会っている頃だろう。
……これ以上、もうこれ以上。
誰にも僕の大切な聖女を穢させない!
そのために彼はひた走った。もう一人の聖女候補だったアヤノに会うために……。
この 手紙の内容通り彼女を動かすこと、それが彼の幸せに繋がる。
彼のただ一人の聖女、コハルを自分だけのモノにするため。
1
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

私はあなたの魔剣デス ~いや、剣じゃないよね、どう見ても違うよね?~
志位斗 茂家波
ファンタジー
この世界で誰も彼もが手に持ち、そして振るう事が出来る魔剣。
火を放ち、水を吹き出し、雷撃を放つ様々な力を持ち、生涯ずっと共にあり続ける。
「なので私も魔剣であり、すべての敵を排除するためにご主人様その力を奉げるのデス!!」
「ちょっと待って、剣じゃないよね?見た目どう見てもメイドなんだけど?」
「‥‥‥そう、忠剣というやつなのデス!!」
「それは忠犬って普通言うよね!?そもそも犬でもないだろ!!」
‥‥‥あり続けるはずなんだけど、なんで彼女が俺の魔剣なのだろうか。
これは、ある意味不幸でありつつも最強の魔剣(?)を手に入れた者の物語である‥‥‥
―――――
「小説家になろう」でも掲載。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる