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耐える男 sideグレン
しおりを挟むレインが聖女を召喚するのに候補者に付けた制約。
未練のない者、居場所のない者、居なくなっても害のない者………マナツはこの内のどれだろうか?最近ふっと考える。
召喚した他の二人の聖女候補が思いの外、使えず。アヤノが除外された今、お手当ての大部分をマナツに頼るしかない状況だ。
俺とレインでマナツを全力で支え竜神様を復活させる。竜神様の復活はアーガスト国150年の悲願。
見ていて痛々しいほど、マナツは甲斐甲斐しい。 しっかりしていそうで自己肯定感が低い。お手当て、縫い物、おやつとくるくる働き、聖なる力を使い過ぎて倒れる。
元の世界で俺の知らない男と結婚し、離婚したと言うマナツ。
彼女の中にある深い溝。そいつに傷つけられた古い傷が未だに血を流す。それが彼女を追い立てているのだろう。
いつしか、俺は彼女を癒したい。その傷にそっと口づけして治したい。
そして、マナツの全てを俺の色に染めてしまいたいと切望するようになった。
初めて口づけをしたとき、俺の魔力に染まるマナツを見た。
白い頬が桜色に、真っ青な唇が薔薇色に染まる。マナツの唇は温かくぷっくりしていて柔らかかった。ずっと触れていたくなるほど。
息苦しそうな呼吸が熱を帯び、吐く息が妙に艶かしい。魔力委譲は快楽を伴う。
体中熱いのか、下腹部を擦り無意識に内腿を擦り合わせる姿は、酷く官能的で……初めて女に欲情した 。
柔らかそうな肢体、触れて暴き、隅から隅まで自分の魔力を注ぎ満たしてしまいたい!
もっと深く繋がりたい、どうしようもない渇望感。食べられないご馳走を前にした飢餓感に苛まれた。
マナツの容体が落ち着き自室に戻ると、その艶体を思い浮かべ、何度も何度も自己処理を繰り返した。
「大丈夫か?無理をするなよ」
仕事だからと手を抜かす、真摯に竜神様と向かう働き者のマナツが倒れないように声をかけ見守る日々。
いや違う、マナツが倒れたらいつでも応急措置出来る距離に居たかった。
俺の変わりにレインがすると考えただけで嫉妬で焼ききれそうだ。
動向を注視していたから、マナツがまた倒れた時にいち早く駆けつけ応急措置する事が出来た。レインを牽制していた効果もあるだろう。2回目の口づけも素晴らしく心地よく、マナツは可愛いかった。
神官見習いとの、交わりに嵌まるコハルを馬鹿にする事は出来ない。
竜神様の羽化のため夜間大量の聖なる力が必要になった。到底俺一人の魔力だけでは足らず。結局レインも応急措置する事になった。
マナツの負担軽減の、呪いの浄化のための添い寝。本当は俺だけが行いたい。嫉妬でおかしくなりそうだ。レインもマナツを気に入ってるから余計不安だ。
竜神様のひいてはアーガストの為、俺は断腸の思いで耐えるしかない。
俺の焦燥を知らないマナツは、俺が口づけすると、はっと、息を止め体を強張らせる。長い睫毛に彩られた黒い瞳が、俺に媚びるかのように潤み熱を帯びる。頬が俺の色に染まりもどかしそうに身を捩る。マナツにそのつもりはなくても、艶を含んだ表情に俺の理性は崩壊寸前。
襲い兼ねない俺は、竜神様を抱きしめるとそそくさとマナツから距離を取る。
『これは仕事。これは仕事。竜神様の御前だ!落ち着け俺』心の中で念仏のように唱えて自分を落ち着かせる。
添い寝すると直ぐマナツから規則正しい寝息が聞こえる。
少し位話がしたいが、竜神様に膨大な聖なる力を吸われ疲弊する彼女を起こすつもりはない。
幼い寝顔、閉じられた瞼、飾りのような睫毛。小さく可愛いらしい鼻。少し開いた口。そこから見える小さな舌。呼吸に合わせ上下する胸……繭をしっかり抱きしめ時折頬を寄せる。マナツを食い入るように見つめ続ける至福の時。眠りたくない起きていたい。こっそり繭玉ごとマナツを抱きしめた。
この時だけはマナツは俺だけの聖女様だから。
「朝と夜1日2回の魔力補給を提案するが、良いだろうか?」ベンダル様が帰省したその日にレインに相談を持ちかけた。
マナツは疲れている更なる魔力補給が必要だ。
「……私から提案しようと思っていましたが、グレンに先を越されましたね」
いたずらっ子のようにレインは笑う。これは、こいつが何か企んでいるときの顔だ。
「ふ、深い意味はないぞ!余計なことは考えるな!」レインにしっかり釘は差しておく。
「ふふふ…余計ことも考えたいですが、急遽ブランド様が来られることになりました。対策を練っておいた方が良いでしょう?」
「ブランド様か……」
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彼は竜神様の御前に居合わせたことがない、彼が対面したのは無力なミイラのような芋虫。竜神様に対する敬愛も尊敬も彼には見られない。発言には竜神様を軽視する言葉を平気で使用する。
今回は何を目的で来るのか?
目的が解らない以上、十分に警戒した方がいいだろう。
「ああ、最善を尽くそう」
俺はレインに同意した。
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