【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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添い寝と困り事

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 添い寝が始まり一週間。  
 今だに添い寝前の応急措置口づけには慣れず体が強張る。 
  
 グレンさんとレインさんの唇は柔らかくて温かい。聖なる力が注がれると気持ち良くて、ぽうっとしてしまう。血流が良くなり顔も火照ってくる。体の中、お腹の下の方まで浸透する熱。物欲しそうな顔をしてたら嫌だから、下を向く。 
  
 そんな私を見たくないのか、グレンさんは口づけすると、さっと私から離れて竜神様の元に行ってしまう。 

 レインさんは私が落ち着くまで、その場所でニコニコ微笑み待ってくれる。 

 広いベッドに竜神様を挟んで添い寝するので、ものすごく寝相が悪くない限り、神官さんと私が触れあうことはない。 
 横になると、繭玉様に待ってましたとばかりに聖なる力を吸収され、ほぼ即寝落ち。  
 寝入るまでの気まずい時間が皆無なので、寧ろありがたい。 
  
 まあ、竜神様も居るしお仕事での添い寝。 
 しかも相手は私なので、女性にモテモテな二人が、手を出してくる心配はないわね。

 女としての……魅力ないようで凹むけど、竜神様の羽化が第一だから、添い寝に早く慣れないと!

 
  
 私が添い寝に少し慣れた頃ーー。 

 腕の傷の完治したベンダル様が北のマホロロに戻る日が来てしまい。私たちはお見送りに神殿前に集合した。 
  
 繭玉様は依然として繭のまま。羽化の兆候は見られない。ベンダル様と早く会わせてあげたかった。残念でならないわ。 
 
 ベンダルさんの呪いの傷は、神官さんの治癒で数日で完治する。 
 でも、少しでも治るとベンダル様は繭玉様を抱きしめ、頬擦りしまくる。竜神様が大切で愛しいのは解るんだけど……。 

 抱きしめ、頬擦り→また呪われる→治癒→抱きしめ、頬擦り→治癒………の、魔のループを繰り返し流石にグレンさんにキレられていた。 
  
 ベンダル様を繋いで置くことは出来ないから、私のお手当て日には神官さんと一緒に来て、少し離れた場所から、竜神様に熱視線を送っていた。  
ちょっとストーカーぽく、こわかったが。 
  
 たまに、竜神様に近寄り過ぎて、神官さんにシッシッと追い払われて。広い背中から哀愁が漂ってかわいそうだったわ。  
 私は、ベンダルさんと神官さんとおやつを囲み一緒に過ごす時間が好きになっていた。 

 別れるのは、やっぱり寂しい。 
  
 本当は竜神様が羽化するまで居ると、ごねていたベンダルさん。でも、マホロロの北西に暗黒竜の残党が現れたとの報告を受け、至急討伐隊を率いる為帰ることに。


「マナツ様竜神様をくれぐれも頼むぞ!羽化の兆候が現れたら即座に知らせてくれ」 
 ベンダル様は、最後にと抱いていた繭玉様を私に託すと、名残惜しそうに繭をひと撫した。繭も名残惜しそうに淡く光を放つ。 

「はい。ベンダル様お任せ下さい!」 
  
 ベンダル様は、その体を竜そのものに変えて空に飛びだった。大きな尻尾と長い髭、紫黒色の鱗が残光を浴びてキラキラ舞って美しい。この世の者と思えない綺麗な竜は、澄みきった青い空に溶けるようにあっという間に小さくなる。 

「す、凄いわ!ベンダル様って本当に竜だったのね!」
 私は驚きに開いた口が塞がらない。 

「マナツ様、竜じゃなかったら何者だと思っていたんだ?」グレンさんが突っ込んで聞いてきた。

「……繭玉フェチのおじさん?」 

「ま、繭玉フェチって!お前は!」 
 
「ベンダル様は竜神様だったらどんな形でも愛せますよ。私に繭玉フェチの発想はありませんでした。ふふふっ。確かに、端から見たら異様な光景ですね」 
 レインさんのツボに嵌まったらしい。侍女さんたちもクスクス笑って楽しそう。 


--その、和やかな空気を打ち破る場違いな声が響いた。
 
 
「マナツさん!ひどいこと言わないで下さい。ベンダル様は、ただ竜神様を大事に思っているだけなのに」 
 小鳥のような可愛いらしい声に振り向けば、両目に涙を貯めて震える小春さんだった。心配そうに両肩を抱くのは神殿見習いのシャインさん。 

「どうして?……同じ聖女候補なのに竜神様を心配するベンダル様を思いやれないのですか?」 
 芝居かかった口調でわっと泣き出す始末。綺麗な瞳から宝石のような涙をポロポロ流して。 

 (うわっ、めんどうくさいの来たわ~) 

 状況を知らない第三者が見たら、私が小春さんを泣かしているかのように見えるシチュエーション
 
 きっと、敢えて見えるようにしているのよね~。
  
 彼女は私の添い寝が始まってから露骨に絡んでくるようになった。  
 
 私は不特定多数と交わり、見目の良い神官見習いさんを侍らす趣味はない。
  
 ただの添い寝と説明してもそんなの建前で、自分が神官見習いさんと深く交わってるから、私もそうだと思いこんでる。  

 彼女のような女子は学生時代にもいた。 
 
 可愛い容姿を武器に、悲劇のヒロインぶって泣いて周りの男子を味方に付ける。そして、自分の思い通りに物事を運ぼうとする人。
 
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