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まるで罪人のよう side綾乃
しおりを挟む「ベンダル様!上司の貴方様からなんとかと言ってよ!真の聖女の私をこの神官二人は不当に扱うのよ!!」
「真の聖女?ソナタがか?」
ベンダル様の不思議そうな顔にうんざりする。私以外に誰がいるというか!
「そうよ!私はちゃんと竜神様に尽くしてきたわ!だから、今の扱いは不当よ」
「ちゃんとか?」
ベンダル様は、舌打ちをし私の前に契約書を突き付けた。
「これがなに?」
「竜族にとって契約書を交わす意味は、お前たち人間よりずっと重いんだ」
グレンが口を挟む。たかが神官が口出しするなんてうるさいわよ!
きっと睨むとグレンは、肩を竦めて生意気な態度。
「グレン……下がれ。ここに書いてあるだろう?竜神様を第一に考え誠心誠意仕える。その間は衣食住を提供し、給金を払うことを国が保証する。聖女候補が真心を込め竜神に仕える限りアーガスト国は神官は民は聖女候補を敬い尽くすだろう……とな。契約を違える者を竜族は許さない」
「なによ!私なりに誠心誠意尽くしてるわよ!だから私を敬い尽くしなさいよ!」
「誠心誠意尽くしている……?アヤノのお手当ての割合が低いのには、それなりの理由がある」
「……それなりの理由」
「竜神様自体が、ソナタの聖なる力を拒んでいるからだ」
「拒んで…いる?…なんで何でよ!!必要なんでしょ私の聖なる力が!」
「必要だと!!」
ベンダル様が出現させた剣の先が私の喉もとに押し当てられた。
「ひっっ!」
冷たい先が皮膚の浅い所に刺さる。
「ソナタは、食事が口に合わず吐いた竜神様を汚いと罵ったな?……どうせ吐くなら食べさせる意味がないと食事を与えなかったな?
ソファーに寝かせ自分はベッドを占拠したな? オムツを替えず、寝返りでソファーから落ちて怪我をしても放置したな?助けてと這ってきた、その体を蹴飛ばしたな?………自分を大切にしてくれない。寧ろ害を与える。そんな相手の聖なる力がほしいと思うか?」
ベンダル様の底冷えするような、まるで罪人を見るような冷たい眼差し。
「なっ、あ…」
(なんで、知っているのよ。侍女は追い出していないはずよ。言いがかりよ!証拠なんてないわ、誤魔化さないと!)
「そ、そんな、ひ、酷い……こと、しない」
喉の剣が気になって上手く喋れない。
「……酷いことか?自覚はあるのだな………聞いたのだ竜神様本人から」
「本人?……嘘ばっかり繭は喋らないわよ!い、痛い!」大きな声を出してしまい、皮膚に剣先が食い込む。
なんで私がこんな目に合うの?
「俺は竜神様の番で伴侶だ。竜神様に触りさえ出来れば、思念で会話出来る」
「あ、あ、そんな……そんなっ」
今までの竜神様にして来たことを振り替り、冷や汗しかでない。
大事になんかしてこなかった。ただただ気持ち悪かった。お手当てなんかしたくなかった。侍女に世話を無理やり押し付けてきた。
(そのツケを払わされるというの?)
ベンダル様の手に力が入ったのが解った。こ、殺される。怖い!ガタガタ震え、歯がカチカチ鳴った。
「ひっ!ご、ごめんなさい。心を入れ替えてちゃんとお手当てするわ……だから!」涙がポロポロこぼれる。惨めて悔しい。
「……同じ聖女候補でも、マナツ様とは雲泥の差だな」
グレンは泣く私を慰めもしないで冷ややな目で見ていた。
(マナツ、あのおばさん!なんで?あんなのと比べられるのよ)
「ベンダル様、お気持ちは解りますが……剣が穢れてしまいます。どうか納め下さい」
たっぷり間を置いてから、レインがやっと諌めてくれた。ベンダル様の剣が喉から離れた。力が抜けて床に崩れ落ちた。震える手で喉を押さえると、少し血が出ている。
(なんで……なんで早く助けてくれないの?)
虚ろな目でレインを見上げると、憐れむように告げられた。
「残念ですが、竜神様を害するような人にお手当ては任せられません。アヤノ様には、別のお仕事をお願いします」
「べ、別のお仕事なんて嫌よ!私は聖女なんでしょう?」
聖女じゃないなら、その恩恵を受けられない。特別な人間じゃなくなってしまう。
「嫌でしたら、自分で聖なる力を貯めてもとの世界に帰還すると良いですよ……まあ、貴方に帰りたい場所があるならですが」冷ややかにレインが囁く。
「貴方に私の何が解るのよ!!」
「私にはアヤノ様のことはわかりませんよ……ただ強制的にこちらの都合で召喚するので、聖女候補に制約をつけたんです」
「制約?」
「聖なる力の強いことが第一ですが……もとの世界に未練のない者。居場所のない者。居なくなっても害のない者ですよ。アヤノ様……貴女はどれに該当しますか?」
穏やかに微笑むレインの顔が歪んで見えた。居場所なんてもとの世界にない。私が居なくなっても父も母も兄すら悲しまない。
そしてー今、聖女としても必要とされない。
(何が悪かったの?ただ私は幸せになりたかっただけなのに……)
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◇画像はGirly Drop様からお借りしました
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