【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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眼帯の大男

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「お初にお目にかかる聖女候補殿。俺は始まりの竜の一人紫黒竜のベンダルと言う。竜神の補佐役として仕えてきた」

 丁寧に自己紹介をしてくれた。眼帯の大男はベンダルさん。150年前竜神様と共闘し、暗黒竜を倒した竜族の英雄の一人。その戦いで竜神様を庇い左目を失ったそうで。 
  
 今は竜神様が芋虫なので広大なアーガストの一画、北のマホロロを代理統治している。 
 彼の他にも西と東に代理統治の人がいて、彼らは始まりの竜の子孫らしく、戦闘力も神力も強力。今度の式典関係で会えるらしい。 
 
 始まりの竜は、暗黒竜の憎悪呪いを強く受ける。当然、竜神様の発する呪いもモロに受けるので、竜神様から一定の距離を置いていた。 
 
 それでも、ベンダルさんが、竜神様を見る瞳はとても優しくて私を威圧した人と同一人物とは思えない。 
 
 今日は、式典の打ち合わせにアーガストに来ていて、神官室にはグレンさんも居合わせた。 

  
「マナツ様、どうした?」 
 
「グレンさん!竜神様の牙が残らず全て取れちゃったの!」 
 そう本題!慌てて報告し、マントにくるまれた竜神様の口を見せる。ツルッとして何にもない。 
 
「マナツ様落ち着けよ大丈夫だから」 
 グレンさん、なぜだか嬉しそう。原因を知っているのかな?

「病気じゃないと先刻言ったな。これはな、竜神様が変態する前触れだ」低く渋い声のベンダルさんが答えてくれた。 

「へ、へんたい?!」 
 頭の中を下着姿の変なおじさんが横切る。違う違うこの場合は……。 
 芋虫が蝶に成るほうの変態だわ。  

「竜神様の姿が変わるの……芋虫がとかげに成長して、次は何になるの?」 

「………芋虫、とかげ…」 
 ベンダルさんは眉間の皺を深め顔をしかめた。 

「不遜な物言いだか、許す。マナツと言った。 
 竜神様に満ちる、聖なる力の大半はそなたのものだ。竜神の衣装にも満ち満ちている。俺には色でわかる……竜神を懇意にしてくれているのだな。感謝する」深々と巨体を折り曲げ、私に頭を下げた。 

「いえいえ、お給金頂いてますから!お仕事ですから頭あげて下さい!」 

「ギュ、ギュ、ギュ!」 

「ほら、竜神様も頭を上げろって言ってますよ」  
 手足をばたつかせマントから出ようとする竜神様。その手足からポロリとなにかが落ちた。カサカサの黄色い鱗だった。 

 ポロリポロリと剥がれ落ちる鱗。次々に体にヒビが入り崩れていく。 

「変態するの?」 
 
 こそばゆいのか、竜神様がもごもご動く、そのたびに取れた鱗がキラキラ粒子のように部屋に舞う。 
 竜神様の体が白く淡く発光した。体全体を包む糸を口から噴出すると糸を纏い金色の繭になる。


芋虫→とかげ→繭玉に。 
進化したの?退化したの?どっちなの竜神様??それともこれから…。 

 茫然自失の私から、ベンダルさんは繭玉様をそっと取り上げると、いとおしそうに抱き締めた。 

「やっとだ……150年ぶりに人の形に戻れるな。婚約者殿」 
 そして、優しく繭玉様に頬擦りをした。 

 (え?婚約者ってベンダルさんが?……どっから見てもムキムキの男性だよね。アーガストは同性婚出来るってことかしら?)

 私は、グレンさんの袖をツンツン引っ張った。感嘆にふけるベンダルさんを邪魔しないよう、先が三角に尖る耳元で囁く。 
「ねえ、ねえ…グレンさん」
「な、なんだよ?」すぐ横にグレンさんの驚き顔。部屋が暑いのかしら、頬が少し赤い。 
 
「竜族って同姓婚ってありなの?」こそこそと。 
 
「は?同姓婚?……お前、竜神様はな「マナツ様!始まりの竜にとって性別は大した問題ではないのです!」焦ったように私の耳元で囁くのはレインさん。澄んだ美声に耳がゾクッとするから止めてほしい。 
「そそそう、大丈夫ならいいの」
 赤らむ耳を押さえ半歩下がる。 
 レインさんは私の反応に、目を見開いた後に、にこりと微笑んだ。肩に手を置き、耳に唇が付くぐらい近くに寄せて囁く。 
 
「耳、真っ赤ですよ…可愛いですね」 
 
「~~~っ!!」息がかかってるから。 
 
「おい!レイン!マナツ様に近すぎた離れろ!」
 私が飛び退くより先にグレンさんに引き寄せられ、寄り添うようになってしまった。 
 
「おかしいですね。グレンの方がマナツ様に近すぎると思いますが?」 

「う、うるさい!」 

 レインさん、私とグレンさんをからかって楽しんでる。穏やかそうなのに、たちが悪いわ。 
 

 
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