16 / 87
眼帯の大男
しおりを挟む「お初にお目にかかる聖女候補殿。俺は始まりの竜の一人紫黒竜のベンダルと言う。竜神の補佐役として仕えてきた」
丁寧に自己紹介をしてくれた。眼帯の大男はベンダルさん。150年前竜神様と共闘し、暗黒竜を倒した竜族の英雄の一人。その戦いで竜神様を庇い左目を失ったそうで。
今は竜神様が芋虫なので広大なアーガストの一画、北のマホロロを代理統治している。
彼の他にも西と東に代理統治の人がいて、彼らは始まりの竜の子孫らしく、戦闘力も神力も強力。今度の式典関係で会えるらしい。
始まりの竜は、暗黒竜の憎悪呪いを強く受ける。当然、竜神様の発する呪いもモロに受けるので、竜神様から一定の距離を置いていた。
それでも、ベンダルさんが、竜神様を見る瞳はとても優しくて私を威圧した人と同一人物とは思えない。
今日は、式典の打ち合わせにアーガストに来ていて、神官室にはグレンさんも居合わせた。
「マナツ様、どうした?」
「グレンさん!竜神様の牙が残らず全て取れちゃったの!」
そう本題!慌てて報告し、マントにくるまれた竜神様の口を見せる。ツルッとして何にもない。
「マナツ様落ち着けよ大丈夫だから」
グレンさん、なぜだか嬉しそう。原因を知っているのかな?
「病気じゃないと先刻言ったな。これはな、竜神様が変態する前触れだ」低く渋い声のベンダルさんが答えてくれた。
「へ、へんたい?!」
頭の中を下着姿の変なおじさんが横切る。違う違うこの場合は……。
芋虫が蝶に成るほうの変態だわ。
「竜神様の姿が変わるの……芋虫がとかげに成長して、次は何になるの?」
「………芋虫、とかげ…」
ベンダルさんは眉間の皺を深め顔をしかめた。
「不遜な物言いだか、許す。マナツと言った。
竜神様に満ちる、聖なる力の大半はそなたのものだ。竜神の衣装にも満ち満ちている。俺には色でわかる……竜神を懇意にしてくれているのだな。感謝する」深々と巨体を折り曲げ、私に頭を下げた。
「いえいえ、お給金頂いてますから!お仕事ですから頭あげて下さい!」
「ギュ、ギュ、ギュ!」
「ほら、竜神様も頭を上げろって言ってますよ」
手足をばたつかせマントから出ようとする竜神様。その手足からポロリとなにかが落ちた。カサカサの黄色い鱗だった。
ポロリポロリと剥がれ落ちる鱗。次々に体にヒビが入り崩れていく。
「変態するの?」
こそばゆいのか、竜神様がもごもご動く、そのたびに取れた鱗がキラキラ粒子のように部屋に舞う。
竜神様の体が白く淡く発光した。体全体を包む糸を口から噴出すると糸を纏い金色の繭になる。
芋虫→とかげ→繭玉に。
進化したの?退化したの?どっちなの竜神様??それともこれから…。
茫然自失の私から、ベンダルさんは繭玉様をそっと取り上げると、いとおしそうに抱き締めた。
「やっとだ……150年ぶりに人の形に戻れるな。婚約者殿」
そして、優しく繭玉様に頬擦りをした。
(え?婚約者ってベンダルさんが?……どっから見てもムキムキの男性だよね。アーガストは同性婚出来るってことかしら?)
私は、グレンさんの袖をツンツン引っ張った。感嘆にふけるベンダルさんを邪魔しないよう、先が三角に尖る耳元で囁く。
「ねえ、ねえ…グレンさん」
「な、なんだよ?」すぐ横にグレンさんの驚き顔。部屋が暑いのかしら、頬が少し赤い。
「竜族って同姓婚ってありなの?」こそこそと。
「は?同姓婚?……お前、竜神様はな「マナツ様!始まりの竜にとって性別は大した問題ではないのです!」焦ったように私の耳元で囁くのはレインさん。澄んだ美声に耳がゾクッとするから止めてほしい。
「そそそう、大丈夫ならいいの」
赤らむ耳を押さえ半歩下がる。
レインさんは私の反応に、目を見開いた後に、にこりと微笑んだ。肩に手を置き、耳に唇が付くぐらい近くに寄せて囁く。
「耳、真っ赤ですよ…可愛いですね」
「~~~っ!!」息がかかってるから。
「おい!レイン!マナツ様に近すぎた離れろ!」
私が飛び退くより先にグレンさんに引き寄せられ、寄り添うようになってしまった。
「おかしいですね。グレンの方がマナツ様に近すぎると思いますが?」
「う、うるさい!」
レインさん、私とグレンさんをからかって楽しんでる。穏やかそうなのに、たちが悪いわ。
11
お気に入りに追加
212
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜
華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。
日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。
しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。
続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574
完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。
おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。
合わせてお楽しみいただければと思います。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!
Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる