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竜神様の昔話
しおりを挟む「騙したのね!!竜神様が芋虫だなんて説明してないじゃないの」綾乃さんが怒り狂う。
「説明はしましたよ……竜神様のお手当てをお願いすると、私達は嘘は言っていないし騙していませんよ」
あくまでにこやかに穏やかにレインさんは言う。
「で、でも芋虫だなんて」うるると泣き出しそうな小春さん。
「今はこんな成りだけどな、竜神様は昔は俺達竜族の誰よりも気高く美しく神々しい存在だったんだ」
はあっと、グレンさんはため息をついた。
「なんで、竜神様が芋虫になったのか説明して下さい」
私も虫は苦手。とくにG奴は人類の駆逐すべき敵である。それに比べてたら…まだ芋虫は可愛いほうだわ。
「ああ、仕方ねえな」
面接くさがりながらグレンさんは詳しく説明してくれた。以外に世話好きなのかも。
グレンさんによると、150年前邪悪な暗黒竜が竜神族を滅ぼそうとアーガストに侵攻してきた。竜神様と神官、竜神族の皆で力を合わせ辛くも倒すことに成功した。
でも最後に暗黒竜は呪いをアーガストに残して逝った。竜神様はアーガストの民に呪いが着かないよう、バラ撒かれた呪いを全て吸収して今の幼い芋虫のような姿になってしまったそうだ。
たいした自己犠牲精神だわ。到底私には真似出来ない。
竜神様を救うことはアーガスト国の悲願。
私達、聖女候補に竜神様をお手当てし呪いを解いて助けて欲しいそう。
「呪いが解ければ人型なのね?」綾乃さんはしっかり確認する。
「そうですよ……竜神様は私達が霞むぐらいの美しいです」レインさん以上の美男子なんて、居るのかしら?疑問が過る。
「お二人が霞むほどの美男子ですか……」
小春さんはグレンさんとレインさんをちらりと見た。小春さんってもしかしなくても面食い?
「私、真の聖女になれるよう竜神様のお手当て頑張ります!」恥ずかしそうに小春さんが宣言すると、「ちょっとなに抜け駆けしてるのよ!真の聖女になるのは私よ!」と、綾乃さんも叫んだ。
だから、真の聖女ってなに?
二人の真の聖女を巡る戦いには巻き込まれたくない。私は、無事に帰れれば良いのだから。それに契約書にサインをした以上はお世話を逃げられない。
私は、ベッドの上の芋虫を見つめた。お年寄りの看護はするけど芋虫は初めてだわ。何を食べるのかしら?
「あのう?お手当てって具体的に何をすればいいの?芋虫の世話なんてしたことないわ」
「芋虫じゃなくて、竜神様だ!」
グレンさんが吠えた。美男子は威嚇しても様になる。
「まあまあ、グレン落ち着いて下さい。マナツ様もお世話に前向きで私は嬉しいですよ」
レインさんはにこやかに微笑んだ。ぐるりと私達三人を見つめ告げた。
「お手当てはその日の全てのお世話をする事です」
『全て……??』私達聖女候補三人の声が重なる。
「はい!聖女候補からは竜神様の呪いを癒し力を与える聖なる力が出ています。だから1日中側に居て下さい。お世話は朝のオムツ替えから始まり、身だしなみを整え、三食の食事の準備に介助、お散歩、お勉強、お風呂から添い寝までです!」
「はあああ?オムツ替えって、なによそれー?」
「こんなの、まるで赤ちゃんです」
「そうです、赤ちゃんを育てると思って接して下さい!」レインさんは終始にこやか。
「赤ちゃんなんて、育てたことないわよ!!それになんで聖女様が料理しないといけないわけ?お手伝いがいるでしょ?」確かに綾乃さんの言うとおりだわ。
「聖女が作った料理なら呪われた竜神様でも食べられるからだ」
「え?今まで食事どうしてたの?」
おそるおそる私は聞いた。ミイラのようにカラカラだった芋虫。まさか?
「喰えなかったから、俺達神官の神気を分け与えてた……全然足らずにあの様だかな」
皮肉気にグレンさんは口の端をあげた。
「竜神様に神気を分け与けながら、聖女候補を召喚する神気を貯めるのに長い長い時が懸かりました………でもやっと竜神様を助けることが出来ます! 呪いの為、短時間しか竜神様接することが出来ず必要最小限なお世話しか出来ませんでしたが、聖女様がいらっしゃれば竜神様に不自由はさせません!!」感無量とばかりにレインさんはうち震える。
なおも料理出来ない、オムツ替えられないと騒ぐ綾乃さんと戸惑う小春さんを神官の二人は食材は全て国が用意し、料理を教えることと子育てのレクチャーをすると説き伏せていた。
しまいには契約書をグレンさんに突き付けられ、しぶしぶ納得した二人もやっと気付いたんだと思う。嫌でもお世話をして竜神様を助けないと日本に帰れない。知ってる人の存在しないこの国で安全に暮らすには神官の保護が必要だということを。
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