24 / 25
4章 因縁の姉妹
24 縁切り2
しおりを挟む
その日の夜。ヒューゴはこっそり宿から抜け出していた。
ギルドの一角、バインドをかけたエリカたちを寝かせている部屋にたどり着く。
「エーデルランドからの馬車、2週間くらいしないと来ないですし……2週間も置いておくにしてはこの人たち危険すぎるんですよね」
ギルドマスターにギルドへの連絡を任せてもらったが、ギルドにしたのはペナルティの申請ではなかった。
ライセンスの剥奪……。ライセンスを剥奪された冒険者は依頼が受けられなくなる。
たいしたことはないように思えるが、これはかなり致命的な問題だった。
荒くれ者と言われる冒険者でも、ある程度ギルドの法を守ろうとするのはライセンスを剥奪されたくないがため。
冒険者は普通に生きられない人間の最後のセーフティネットのようなものだ。
そこから零れ落ちたものは、ろくな未来を迎えることはできない。
(流石に見捨てた相手とはいえ、そのような末路になったと知ればクレアは悲しむかもしれないので、伝える気はないですが)
ただエーデルランドに送還し、ガルシアへの入国制限をかけ、ライセンスを剥奪しても足りない。
彼らはなぜか行先を伝えていないはずなのにイーグルフロストまでたどり着いた。
クレアが告白を受け入れてくれるかどうかはわからないけど、どちらにしろ危険分子は排除しておきたかった。
クレアとエリカたちを今後再会させる気はない。
「まあ、クレアとナンシーさんに関する記憶をちょっと改ざんすればいいでしょうか。あとエリカさんは魔力が高すぎて危険ですからちょっと頂いていきますね」
ヒューゴは並んで寝かされている三人に向かって手をかざした。
魔術師の魔力量、実力は血筋による影響が大きい。エリカの性格や言動はかなりクレアとかけ離れたものだったが、二人の魔力の傾向は非常によく似ていた。
そして、ヒューゴや、クレアたちほど魔力が高い魔術師にはたまに固有の魔法が発現する。
クレアは<鑑定>、ヒューゴは<剥奪>が固有魔法だ。
剥奪は他人の魔力や固有魔法、その他の能力を奪い取ることができる。
出入りの悪徳商人に騙され無一文になり、鬱憤を炎の魔法に変えぶつけてきた父から<業火>を。
父の行為を見て見ぬふりし、様々な男性と遊びくらした母からは<記憶操作>を。
(自分や接触しているものを浮かせる<浮遊>は家を出て商売を始めたころにもらったんでしたっけ)
その後も子供だからと舐め腐り、成功するようになってからは嫉妬をあからさまにぶつける人間ばかりに取り囲まれた。
浅はかな計画で毒を守ろうとしてきたあの商人、ルドルフも同様だ。クレアがいる場だから穏便に済ませる方向にしたが、本来ならあんな人間といちいち話すつもりはない。
得た力であしらうことは簡単だった。対処すればするほど、近寄ってくる全てが汚い、穢れたナイフのように見えてくる。
「まあ、クレアは違いましたけど」
記憶操作を起動し、三人からクレアの記憶を抜き取りつつ内容を書き換えていく。クレアを探そうとしたり、再会したときに気づいたりしないようになればいい。
それから、エリカから魔力と固有魔法を剥奪した。
さすがにレナードとミリアの監視下にいながらギルドハウスを壊す魔力は尋常じゃない。そこは腐ってもクレアの姉妹だからだろうか。
「固有魔法……運命の赤い糸。そのとき利用価値が最も高いと本人が認識する異性へ赤い糸状のマーカーが付く。位置情報が詳細にわかり、プロフィール情報も開示される……限定的かつ特化型の鑑定でしょうか。ガルシアまでわざわざいらっしゃったのもこの魔法が原因、と。奪うことにしてよかったですね」
ついでに自分の記憶もエリカの中から消しておいた。
正直、知りもしない人間にわかったようにあれこれ開示され、わかってあげられるだの上から目線で言い放たれるのは不快どころか殺意すら覚える出来事だった。
「では、そういうことですので。あなた達が今後どうなるのかは責任持てませんが、クレアを追放して仲良く旅をしていらっしゃったようですし。助け合ってがんばってくださいね」
まあ、ミリアさんたちがオペラだなんだと茶化していたあの様子では助け合いなどできないかも知れないが。
そうして部屋から出る。いつだったか奪った魔法をバインドに組み合わせているから、二週間放置していても彼らの生命は保たれるだろう。
手間は減るとはいえ、面倒な異国の冒険者たちを管理させてしまうギルドマスターには世話をかけてしまう。
「はあ、せっかく売った恩が帳消しどころかちょっと借りですね。まあ、なんとかしますか……」
エリカたちにはかなり迷惑をかけられたが、彼らが愚昧だったおかげでクレアが旅に同行してくれたことだけは感謝しておこうと思った。
ギルドの一角、バインドをかけたエリカたちを寝かせている部屋にたどり着く。
「エーデルランドからの馬車、2週間くらいしないと来ないですし……2週間も置いておくにしてはこの人たち危険すぎるんですよね」
ギルドマスターにギルドへの連絡を任せてもらったが、ギルドにしたのはペナルティの申請ではなかった。
ライセンスの剥奪……。ライセンスを剥奪された冒険者は依頼が受けられなくなる。
たいしたことはないように思えるが、これはかなり致命的な問題だった。
荒くれ者と言われる冒険者でも、ある程度ギルドの法を守ろうとするのはライセンスを剥奪されたくないがため。
冒険者は普通に生きられない人間の最後のセーフティネットのようなものだ。
そこから零れ落ちたものは、ろくな未来を迎えることはできない。
(流石に見捨てた相手とはいえ、そのような末路になったと知ればクレアは悲しむかもしれないので、伝える気はないですが)
ただエーデルランドに送還し、ガルシアへの入国制限をかけ、ライセンスを剥奪しても足りない。
彼らはなぜか行先を伝えていないはずなのにイーグルフロストまでたどり着いた。
クレアが告白を受け入れてくれるかどうかはわからないけど、どちらにしろ危険分子は排除しておきたかった。
クレアとエリカたちを今後再会させる気はない。
「まあ、クレアとナンシーさんに関する記憶をちょっと改ざんすればいいでしょうか。あとエリカさんは魔力が高すぎて危険ですからちょっと頂いていきますね」
ヒューゴは並んで寝かされている三人に向かって手をかざした。
魔術師の魔力量、実力は血筋による影響が大きい。エリカの性格や言動はかなりクレアとかけ離れたものだったが、二人の魔力の傾向は非常によく似ていた。
そして、ヒューゴや、クレアたちほど魔力が高い魔術師にはたまに固有の魔法が発現する。
クレアは<鑑定>、ヒューゴは<剥奪>が固有魔法だ。
剥奪は他人の魔力や固有魔法、その他の能力を奪い取ることができる。
出入りの悪徳商人に騙され無一文になり、鬱憤を炎の魔法に変えぶつけてきた父から<業火>を。
父の行為を見て見ぬふりし、様々な男性と遊びくらした母からは<記憶操作>を。
(自分や接触しているものを浮かせる<浮遊>は家を出て商売を始めたころにもらったんでしたっけ)
その後も子供だからと舐め腐り、成功するようになってからは嫉妬をあからさまにぶつける人間ばかりに取り囲まれた。
浅はかな計画で毒を守ろうとしてきたあの商人、ルドルフも同様だ。クレアがいる場だから穏便に済ませる方向にしたが、本来ならあんな人間といちいち話すつもりはない。
得た力であしらうことは簡単だった。対処すればするほど、近寄ってくる全てが汚い、穢れたナイフのように見えてくる。
「まあ、クレアは違いましたけど」
記憶操作を起動し、三人からクレアの記憶を抜き取りつつ内容を書き換えていく。クレアを探そうとしたり、再会したときに気づいたりしないようになればいい。
それから、エリカから魔力と固有魔法を剥奪した。
さすがにレナードとミリアの監視下にいながらギルドハウスを壊す魔力は尋常じゃない。そこは腐ってもクレアの姉妹だからだろうか。
「固有魔法……運命の赤い糸。そのとき利用価値が最も高いと本人が認識する異性へ赤い糸状のマーカーが付く。位置情報が詳細にわかり、プロフィール情報も開示される……限定的かつ特化型の鑑定でしょうか。ガルシアまでわざわざいらっしゃったのもこの魔法が原因、と。奪うことにしてよかったですね」
ついでに自分の記憶もエリカの中から消しておいた。
正直、知りもしない人間にわかったようにあれこれ開示され、わかってあげられるだの上から目線で言い放たれるのは不快どころか殺意すら覚える出来事だった。
「では、そういうことですので。あなた達が今後どうなるのかは責任持てませんが、クレアを追放して仲良く旅をしていらっしゃったようですし。助け合ってがんばってくださいね」
まあ、ミリアさんたちがオペラだなんだと茶化していたあの様子では助け合いなどできないかも知れないが。
そうして部屋から出る。いつだったか奪った魔法をバインドに組み合わせているから、二週間放置していても彼らの生命は保たれるだろう。
手間は減るとはいえ、面倒な異国の冒険者たちを管理させてしまうギルドマスターには世話をかけてしまう。
「はあ、せっかく売った恩が帳消しどころかちょっと借りですね。まあ、なんとかしますか……」
エリカたちにはかなり迷惑をかけられたが、彼らが愚昧だったおかげでクレアが旅に同行してくれたことだけは感謝しておこうと思った。
0
お気に入りに追加
792
あなたにおすすめの小説

お妃様に魔力を奪われ城から追い出された魔法使いですが…愚か者達と縁が切れて幸せです。
coco
恋愛
妃に逆恨みされ、魔力を奪われ城から追い出された魔法使いの私。
でも…それによって愚か者達と縁が切れ、私は清々してます─!

【完結】ニセ聖女と追放されたので、神官長と駆け落ちします〜守護がなくなり魔物が襲来するので戻ってこい? では、ビジネスしましょう〜
禅
恋愛
婚約者の王太子からニセ聖女の烙印を押された私は喜んで神殿から出ていった。なぜか、神官長でエルフのシンも一緒に来ちゃったけど。
私がいなくなった国は守護していた結界がなくなり、城は魔物に襲来されていた。
是非とも話し合いを、という国王からの手紙に私は再び城へ。
そこで私はある条件と交換に、王を相手にビジネスをする。
※小説家になろうにも掲載

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
シスコン婚約者の最愛の妹が婚約解消されました。
ねーさん
恋愛
リネットは自身の婚約者セドリックが実の妹リリアをかわいがり過ぎていて、若干引き気味。
シスコンって極めるとどうなるのかしら…?
と考えていた時、王太子殿下が男爵令嬢との「真実の愛」に目覚め、公爵令嬢との婚約を破棄するという事件が勃発!
リネット自身には関係のない事件と思っていたのに、リリアの婚約者である第二王子がリネットに…

この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私はあまり大切にされず育ってきたのですが……?
四季
恋愛
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私、これまであまり大切にされず育ってきたのですが……?
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる