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4章 因縁の姉妹
22 エリカ
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結局、会いたくないという話をしていたにも関わらず、私たちは顔を合わせる羽目になった。
ギルドの私たちが宴前に待機してた会議室、その奥で椅子に縛られているのがエリカ、エドワード、レオン。
そして入口近くにいるのが私、ナンシー、ヒューゴ、レナード、ミリアだった。最後にギルドマスターも入ってきたから、そんなに広くない会議室ではかなりの圧迫感がある。
「ナンシー、お前生きてたのかよ!」
「そりゃ生きてるさ。雑に置いてった人間が生きててびっくりしたかい? いやああんたら、あたしらにあれこれするだけじゃなく、関係ないギルドの壁吹っ飛ばすとかどうなってんのさ」
レオンが口をあんぐり開けている。エドワードも驚いているようだった。そして、その横でエリカはふてくされた顔で座っている。
「レナード、ミリア。この子たちがうちのギルドを吹っ飛ばしちゃった子たちなのん?」
糸目美人のギルドマスターが、目を怪しげに光らせ般若のような顔で突っ立っていた。
数日前ちらっと見た時はおっとりしていそうな印象があったんだけど、今は正反対だ。
(そりゃ、ちょっととはいえギルドハウス壊されてるんだから怒るよね……)
「はい、そうです……」
レナードが敬語を使ってるとこなんて初めて見た。ヒューゴがギルドマスターに向かって頭を下げる。
「すみません、ギルドマスター。私が横の部屋をお借りするように頼んだせいなんです。あとで修復代をお支払いしますから」
「ん、ん~。あなたたちには感謝してるし、それはちょっと気が引けるわ。それに、やったのはこの子たちなんでしょ?」
そうしてエリカを睨む。この部屋の横に同じような部屋あり、当初はエリカたちはそこで監視されていた。
その部屋の外に面している壁をエリカが魔法でぶち壊し、出てきたというのがさっきの経緯らしい。
睨まれたエリカはレナードと違い怖がることもなく、空気に見合わないことを言った。
「だって、仕方がなかったんです! 運命のお方が近くにいたんですから!」
その目はキラキラしていて、あまりの場違いさに頭が痛くなってくる。
(というか、運命の相手って、なに?)
「運命のお方、ですか?」
「あなたです! ヒューゴ様。ヒューゴ・ハリントン様! 商人を始められたのは7年前、13歳のときですよね? あたし、知ってるんです。ご両親からお辛い目に遭わされ……」
エリカがうきうきした声で話し出す。その内容は後半ほとんど頭に入っていなかった。
ヒューゴ、ヒューゴが運命の相手?
なんだか、胸が痛むような、腹の奥が煮え立つような、言葉にできないなにかが重くのしかかる。
「黙ってください」
ヒューゴが底冷えするような声で静止した。
「私はあなたの運命の相手などではございません。教えたつもりのない個人情報をべらべら喋られるのも大変不愉快です」
「どうしてですか! ひどい、もしかしてナンシーさんとかお姉ちゃんに騙されてるの? あたし、あなたのこと全部わかります。あなたの辛いことわかってあげられるし、支えになれます。あたしも攻撃魔法得意なんです。あなたのこと怖がらないし……」
「ちょ、ちょっとまてよエリカ! お前、俺が運命の相手って言ってたじゃないか!」
「い、いや俺が運命の相手って言ってたんじゃないのか、エリカ……!」
さっきから事態をあまり呑み込めていないようだったレオンとエドワードは、エリカが恍惚とした表情でヒューゴに語り掛けるのを見て急に声を荒げる。
(ナンシーがエドワードたちがエリカに惚れてるとか言ってたけど、本当だったの? というか、運命の相手ってエリカが言っていたって……?)
「う、うわ~。もしかして、これ貴族が見るとかいうオペラかなにか?」
「んなわけねえだろ、黙っとけって」
ミリアの気の抜けるような声で少し落ち着く。
(オペラ、オペラか……よく知らないけど、そうだったらどれほどよかったかしら……)
正直、身内の恋愛関係のごたごたを眺めるのはつらい。
それに、ヒューゴのことが運命の相手、だって。
(それってヒューゴが好きってこと、なの?)
「この子たち、本当にクレアちゃんの前のパーティメンバー? ずいぶんしょうもない子たちね」
「しょうもない、だって? 役に立たないのはクレアの方だ! なんの攻撃もできねえ無能のくせにでかい面してたしな」
「……レオン」
急にレオンの目がこちらに向く。追放されたときと同じような敵意。
(まあ、攻撃できないのは事実だけど……)
「おい、お前槍使いだっけか? 前衛の人間だからってでかい面するタイプ。パーティのメンバーを尊重できねえやつが、偉そうにすんじゃねえよ。というか、クレアの支援力ってありえねねえほど高いんだけど」
「それには同意ね~。でもレナード、あなたこんなくだらないナイトくんたちと夢見お嬢さん相手に後れをとったのね」
「だー、すみませんってマスター! そいつだいぶ魔力でけえんで……」
「まあ、そうね。クレアちゃんとヒューゴくんには遠く及ばないけど、一般的な魔術師よりは多いかも?」
ギルドマスターはため息をついて、笑った。
「でもまあ、そんなことはどうでもいいんだけど。うちのギルドを壊したことについてなんか弁解でもあるのかと思ったら、くだらない話ばかり。ヒューゴくん、うちとしてはこの子たちから賠償金巻き上げてこの街出禁にしたいんだけど~あなたたちはどうかしら?」
ヒューゴはどうしたいか私たちに目配せしてくれた。私としては……正直さっき言ったのと変わらない。
なんだか、実際に会っていろいろずれちゃってる皆を見ると、未練がさっぱりなくなちゃったみたいだった。
私が頷くと、ヒューゴが口を開こうとする。
「嫌! あたしの運命の人はヒューゴ様なの。あんたたちみたいな野蛮な冒険者なんかじゃないから!」
けれど、それはヒステリックに叫ぶエリカによってさえぎられた。
ギルドの私たちが宴前に待機してた会議室、その奥で椅子に縛られているのがエリカ、エドワード、レオン。
そして入口近くにいるのが私、ナンシー、ヒューゴ、レナード、ミリアだった。最後にギルドマスターも入ってきたから、そんなに広くない会議室ではかなりの圧迫感がある。
「ナンシー、お前生きてたのかよ!」
「そりゃ生きてるさ。雑に置いてった人間が生きててびっくりしたかい? いやああんたら、あたしらにあれこれするだけじゃなく、関係ないギルドの壁吹っ飛ばすとかどうなってんのさ」
レオンが口をあんぐり開けている。エドワードも驚いているようだった。そして、その横でエリカはふてくされた顔で座っている。
「レナード、ミリア。この子たちがうちのギルドを吹っ飛ばしちゃった子たちなのん?」
糸目美人のギルドマスターが、目を怪しげに光らせ般若のような顔で突っ立っていた。
数日前ちらっと見た時はおっとりしていそうな印象があったんだけど、今は正反対だ。
(そりゃ、ちょっととはいえギルドハウス壊されてるんだから怒るよね……)
「はい、そうです……」
レナードが敬語を使ってるとこなんて初めて見た。ヒューゴがギルドマスターに向かって頭を下げる。
「すみません、ギルドマスター。私が横の部屋をお借りするように頼んだせいなんです。あとで修復代をお支払いしますから」
「ん、ん~。あなたたちには感謝してるし、それはちょっと気が引けるわ。それに、やったのはこの子たちなんでしょ?」
そうしてエリカを睨む。この部屋の横に同じような部屋あり、当初はエリカたちはそこで監視されていた。
その部屋の外に面している壁をエリカが魔法でぶち壊し、出てきたというのがさっきの経緯らしい。
睨まれたエリカはレナードと違い怖がることもなく、空気に見合わないことを言った。
「だって、仕方がなかったんです! 運命のお方が近くにいたんですから!」
その目はキラキラしていて、あまりの場違いさに頭が痛くなってくる。
(というか、運命の相手って、なに?)
「運命のお方、ですか?」
「あなたです! ヒューゴ様。ヒューゴ・ハリントン様! 商人を始められたのは7年前、13歳のときですよね? あたし、知ってるんです。ご両親からお辛い目に遭わされ……」
エリカがうきうきした声で話し出す。その内容は後半ほとんど頭に入っていなかった。
ヒューゴ、ヒューゴが運命の相手?
なんだか、胸が痛むような、腹の奥が煮え立つような、言葉にできないなにかが重くのしかかる。
「黙ってください」
ヒューゴが底冷えするような声で静止した。
「私はあなたの運命の相手などではございません。教えたつもりのない個人情報をべらべら喋られるのも大変不愉快です」
「どうしてですか! ひどい、もしかしてナンシーさんとかお姉ちゃんに騙されてるの? あたし、あなたのこと全部わかります。あなたの辛いことわかってあげられるし、支えになれます。あたしも攻撃魔法得意なんです。あなたのこと怖がらないし……」
「ちょ、ちょっとまてよエリカ! お前、俺が運命の相手って言ってたじゃないか!」
「い、いや俺が運命の相手って言ってたんじゃないのか、エリカ……!」
さっきから事態をあまり呑み込めていないようだったレオンとエドワードは、エリカが恍惚とした表情でヒューゴに語り掛けるのを見て急に声を荒げる。
(ナンシーがエドワードたちがエリカに惚れてるとか言ってたけど、本当だったの? というか、運命の相手ってエリカが言っていたって……?)
「う、うわ~。もしかして、これ貴族が見るとかいうオペラかなにか?」
「んなわけねえだろ、黙っとけって」
ミリアの気の抜けるような声で少し落ち着く。
(オペラ、オペラか……よく知らないけど、そうだったらどれほどよかったかしら……)
正直、身内の恋愛関係のごたごたを眺めるのはつらい。
それに、ヒューゴのことが運命の相手、だって。
(それってヒューゴが好きってこと、なの?)
「この子たち、本当にクレアちゃんの前のパーティメンバー? ずいぶんしょうもない子たちね」
「しょうもない、だって? 役に立たないのはクレアの方だ! なんの攻撃もできねえ無能のくせにでかい面してたしな」
「……レオン」
急にレオンの目がこちらに向く。追放されたときと同じような敵意。
(まあ、攻撃できないのは事実だけど……)
「おい、お前槍使いだっけか? 前衛の人間だからってでかい面するタイプ。パーティのメンバーを尊重できねえやつが、偉そうにすんじゃねえよ。というか、クレアの支援力ってありえねねえほど高いんだけど」
「それには同意ね~。でもレナード、あなたこんなくだらないナイトくんたちと夢見お嬢さん相手に後れをとったのね」
「だー、すみませんってマスター! そいつだいぶ魔力でけえんで……」
「まあ、そうね。クレアちゃんとヒューゴくんには遠く及ばないけど、一般的な魔術師よりは多いかも?」
ギルドマスターはため息をついて、笑った。
「でもまあ、そんなことはどうでもいいんだけど。うちのギルドを壊したことについてなんか弁解でもあるのかと思ったら、くだらない話ばかり。ヒューゴくん、うちとしてはこの子たちから賠償金巻き上げてこの街出禁にしたいんだけど~あなたたちはどうかしら?」
ヒューゴはどうしたいか私たちに目配せしてくれた。私としては……正直さっき言ったのと変わらない。
なんだか、実際に会っていろいろずれちゃってる皆を見ると、未練がさっぱりなくなちゃったみたいだった。
私が頷くと、ヒューゴが口を開こうとする。
「嫌! あたしの運命の人はヒューゴ様なの。あんたたちみたいな野蛮な冒険者なんかじゃないから!」
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