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4章 因縁の姉妹
20 三人で
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私とヒューゴは、地上に降りたあと、徒歩で森の中を歩いていた。
目標はさっき落ち着いてアナライズをやり直したときに見つけた生体反応。おそらくナンシーだった。
夜明けが近いとはいえ、暗い森で魔物と交戦するのも面倒だった。隠蔽の魔法をかけながら、魔物たちに気づかれないよう生体反応の元へ向かう。
「そろそろだと思うんだけど……」
周囲を見回す。すると、小さいながらも聞き覚えのある声が聞こえた。
「その声……もしかしてクレアかい?」
進行方向を右にそれた方向からだった。迷わずそちらに向かう。
「ナンシー? いるの?!」
やがて鑑定魔法で覗いた光景と近い……完全に同じ地点にたどり着く。落とし穴の中には、2週間前とあまり変わらないナンシーがいた。
「ほ、本当にクレアなの? あんたがここに来るなんて、都合の良い夢かい?」
ナンシーは目を丸くして驚いている様子だった。その話し方は記憶にあるまま懐かしいけれど、どこか覇気のない感じがした。
夜に少し雪が降っていたようで、穴の中にも少し積もっている。
(半日くらい放置されていたはずだし、体温の低下が心配かも……)
それでも眠らないで耐えていてくれていて良かった。安心して、息を吐く。
「都合の良い夢なんかじゃないわ、ナンシー。助けに来たの」
流石に私一人が腕を伸ばしても届きそうにはない。ヒューゴと協力し、二人がかりでナンシーを引っ張り上げる。
ナンシーはガルシアに来るために準備したのか、厚手のコートを羽織り、かなり防寒性の高い服装をしていた。
いつもは動きやすさを重視した軽装だから新鮮だけど、おかげでかなり落下の衝撃を和らげられているみたいだ。
とはいっても、手とか頬の見えやすいところには生傷ができており痛ましい。
「癒しとかいろいろかけるわ。見えてないとこに傷とかあったら言ってね」
(どうして、みんなこの状態のナンシーを置いていこうって話になったの?! 全然わからない……)
「助かるよ。そろそろ死んだ姉貴から迎えが来そうだったもんだからさ」
ナンシーはどこか遠い目をしながら笑った。
「さすがにこの状況下じゃ笑えないよ……」
指先の傷を確認しながら触れてみると、氷のように冷たかった。本当にあと少し遅かったら……。
そう考えてゾッとする。ナンシーは私の背中を叩きながら、けらけら笑った。
「ま、あんたにも会えたしチャラだよチャラ」
それから首を傾げ、私やヒューゴのことを見る。
「にしても、どうしてクレアがここに? それに、なんだか上品そうな兄ちゃんも」
「あっそうだった。えっといろいろあって……この人はヒューゴ。今、依頼を受けて一緒に旅してるの」
「あ、ああ! アリシアたちが言ってた人かい。なるほどねえ」
ナンシーはなぜかニヤりと笑った。
「すまないね、ヒューゴさん。いろいろうちのパーティの面倒に関わらせちゃって」
「いえ、私がしたくてしていることですから」
「そーかいそーかい! いやあ、あんたに会ったらなんか一言いってやりたいと思ってたけど、なんの心配もいらなかったね! クレアを頼むよ」
「ええ、もちろん」
2人はにこにこと笑う。
(なんだろ、この……ナンシーが……酒場のおじさんたちと同じような気配を放ちだしたのは……というか私を頼むって、何?!)
なんだか居たたまれなくなり、私は手を叩く。
「と、とりあえず休憩しましょ。ナンシーが無事なこともわかったし、いったん仮眠でも取った方がいいわ。あと水分補給とか。ナンシーは凍傷の心配もあるし、暖めないと」
私がそういうと、二人は急に真面目な雰囲気に戻って頷いた。
野営をしようにも、この森はちょっと危険かもしれない。魔物はいるし猟師の罠らしきものも多いし。
ナンシーが近くにエドワードたちと見つけた洞窟があるというので、そこに行くことになった。
ちなみに、ヒューゴの飛行魔法を使って浮いている。私は右手をヒューゴと繋ぎ、左手をナンシーと繋いで、三人で並んでいる状況だ。
(正直やっぱり緊張するんだけど……非接触の物体は浮かせられないらしいんだよね……)
でも、こうしているとなんだか寒さがまぎれるというか、安心するかもしれない。
「いやー、足も痛かったし楽でいいねこれ! こんなのどこで覚えたんだい?」
「ふふふ、商売上の秘密です」
ナンシーはさっき死を覚悟してたとは思えないほど明るくはしゃいでいた。
(でも、さっき鑑定した時もだいぶ衰弱が激しかった。洞窟に着いたらちゃんと仮眠をとってもらわないと……)
ナンシーの道案内に合わせて数分飛ぶと、言っていたものだろう洞窟が見えてくる。
私たちは着地して、洞窟の中に入る。簡単な明かりの魔法を使いながら鑑定するけど、危険度は薄そうだった。
洞窟の中は思っていたよりも広く、三人で過ごすには十分なスペースがあった。私は持っていた簡易的な野営設備を開き、スープを作ることにした。
といっても、消化しやすいように少し野菜を入れただけであとは味の付いたお湯ってレベルだけど。どちらかというと、下がっているであろうナンシーの体温をあげることの方が大事。
(今のナンシーの体調は……やっぱりそんなに良くないよね。眠るのを我慢してたみたいだし判断力も落ちてるかも)
「あたしは、あんたが追放されるときになんもできなかったのに。なにからなにまですまないね」
少し俯いてナンシーが呟く。
「いいの。あれは、仕方のないことだったんだし」
エリカのことだけど、と話そうとするナンシーを静止した。
「ナンシー。エリカたちのことは後で考えましょう。疲労もたまっているし、スープを飲み終わったらひとまず寝た方がいいわ」
「そう、だね。交代時間はいつにする?」
「もう、半日ずっとあんなとこに放置されてたんだから今は休んで! 交代なんて考えなくていいから」
「あはは、本当にクレアなんだね……。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうとするよ」
洞窟の壁に背中をもたれかけさせたナンシーは驚くほどの速度で眠りについた。
そういえば、昔から寝つきはすさまじくよかったよね、ナンシー。
「本当にクレアって……まだ夢だと思ってたのかしら」
「パーティのメンバーに危険な状況で放置されるなんて、かなり精神が参っていてもおかしくありませんしね」
「そうだよね……本当に、助けられてよかった」
私たちは多少温度が上がる昼を待つために、見張りを交代しながら夜を明かした。
目標はさっき落ち着いてアナライズをやり直したときに見つけた生体反応。おそらくナンシーだった。
夜明けが近いとはいえ、暗い森で魔物と交戦するのも面倒だった。隠蔽の魔法をかけながら、魔物たちに気づかれないよう生体反応の元へ向かう。
「そろそろだと思うんだけど……」
周囲を見回す。すると、小さいながらも聞き覚えのある声が聞こえた。
「その声……もしかしてクレアかい?」
進行方向を右にそれた方向からだった。迷わずそちらに向かう。
「ナンシー? いるの?!」
やがて鑑定魔法で覗いた光景と近い……完全に同じ地点にたどり着く。落とし穴の中には、2週間前とあまり変わらないナンシーがいた。
「ほ、本当にクレアなの? あんたがここに来るなんて、都合の良い夢かい?」
ナンシーは目を丸くして驚いている様子だった。その話し方は記憶にあるまま懐かしいけれど、どこか覇気のない感じがした。
夜に少し雪が降っていたようで、穴の中にも少し積もっている。
(半日くらい放置されていたはずだし、体温の低下が心配かも……)
それでも眠らないで耐えていてくれていて良かった。安心して、息を吐く。
「都合の良い夢なんかじゃないわ、ナンシー。助けに来たの」
流石に私一人が腕を伸ばしても届きそうにはない。ヒューゴと協力し、二人がかりでナンシーを引っ張り上げる。
ナンシーはガルシアに来るために準備したのか、厚手のコートを羽織り、かなり防寒性の高い服装をしていた。
いつもは動きやすさを重視した軽装だから新鮮だけど、おかげでかなり落下の衝撃を和らげられているみたいだ。
とはいっても、手とか頬の見えやすいところには生傷ができており痛ましい。
「癒しとかいろいろかけるわ。見えてないとこに傷とかあったら言ってね」
(どうして、みんなこの状態のナンシーを置いていこうって話になったの?! 全然わからない……)
「助かるよ。そろそろ死んだ姉貴から迎えが来そうだったもんだからさ」
ナンシーはどこか遠い目をしながら笑った。
「さすがにこの状況下じゃ笑えないよ……」
指先の傷を確認しながら触れてみると、氷のように冷たかった。本当にあと少し遅かったら……。
そう考えてゾッとする。ナンシーは私の背中を叩きながら、けらけら笑った。
「ま、あんたにも会えたしチャラだよチャラ」
それから首を傾げ、私やヒューゴのことを見る。
「にしても、どうしてクレアがここに? それに、なんだか上品そうな兄ちゃんも」
「あっそうだった。えっといろいろあって……この人はヒューゴ。今、依頼を受けて一緒に旅してるの」
「あ、ああ! アリシアたちが言ってた人かい。なるほどねえ」
ナンシーはなぜかニヤりと笑った。
「すまないね、ヒューゴさん。いろいろうちのパーティの面倒に関わらせちゃって」
「いえ、私がしたくてしていることですから」
「そーかいそーかい! いやあ、あんたに会ったらなんか一言いってやりたいと思ってたけど、なんの心配もいらなかったね! クレアを頼むよ」
「ええ、もちろん」
2人はにこにこと笑う。
(なんだろ、この……ナンシーが……酒場のおじさんたちと同じような気配を放ちだしたのは……というか私を頼むって、何?!)
なんだか居たたまれなくなり、私は手を叩く。
「と、とりあえず休憩しましょ。ナンシーが無事なこともわかったし、いったん仮眠でも取った方がいいわ。あと水分補給とか。ナンシーは凍傷の心配もあるし、暖めないと」
私がそういうと、二人は急に真面目な雰囲気に戻って頷いた。
野営をしようにも、この森はちょっと危険かもしれない。魔物はいるし猟師の罠らしきものも多いし。
ナンシーが近くにエドワードたちと見つけた洞窟があるというので、そこに行くことになった。
ちなみに、ヒューゴの飛行魔法を使って浮いている。私は右手をヒューゴと繋ぎ、左手をナンシーと繋いで、三人で並んでいる状況だ。
(正直やっぱり緊張するんだけど……非接触の物体は浮かせられないらしいんだよね……)
でも、こうしているとなんだか寒さがまぎれるというか、安心するかもしれない。
「いやー、足も痛かったし楽でいいねこれ! こんなのどこで覚えたんだい?」
「ふふふ、商売上の秘密です」
ナンシーはさっき死を覚悟してたとは思えないほど明るくはしゃいでいた。
(でも、さっき鑑定した時もだいぶ衰弱が激しかった。洞窟に着いたらちゃんと仮眠をとってもらわないと……)
ナンシーの道案内に合わせて数分飛ぶと、言っていたものだろう洞窟が見えてくる。
私たちは着地して、洞窟の中に入る。簡単な明かりの魔法を使いながら鑑定するけど、危険度は薄そうだった。
洞窟の中は思っていたよりも広く、三人で過ごすには十分なスペースがあった。私は持っていた簡易的な野営設備を開き、スープを作ることにした。
といっても、消化しやすいように少し野菜を入れただけであとは味の付いたお湯ってレベルだけど。どちらかというと、下がっているであろうナンシーの体温をあげることの方が大事。
(今のナンシーの体調は……やっぱりそんなに良くないよね。眠るのを我慢してたみたいだし判断力も落ちてるかも)
「あたしは、あんたが追放されるときになんもできなかったのに。なにからなにまですまないね」
少し俯いてナンシーが呟く。
「いいの。あれは、仕方のないことだったんだし」
エリカのことだけど、と話そうとするナンシーを静止した。
「ナンシー。エリカたちのことは後で考えましょう。疲労もたまっているし、スープを飲み終わったらひとまず寝た方がいいわ」
「そう、だね。交代時間はいつにする?」
「もう、半日ずっとあんなとこに放置されてたんだから今は休んで! 交代なんて考えなくていいから」
「あはは、本当にクレアなんだね……。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうとするよ」
洞窟の壁に背中をもたれかけさせたナンシーは驚くほどの速度で眠りについた。
そういえば、昔から寝つきはすさまじくよかったよね、ナンシー。
「本当にクレアって……まだ夢だと思ってたのかしら」
「パーティのメンバーに危険な状況で放置されるなんて、かなり精神が参っていてもおかしくありませんしね」
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