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3章 イーグルフロストの異変
13 氷の巨人
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強大な魔物の気配が強まったり消えたりしていることに疑問を感じながらも、私たちはひたすら手近な魔物を狩り続けた。
相変わらず私はナビゲートに注力できていて、魔力には余裕がある。ヒューゴも涼しげな顔をしているし、他のみんなも同様だった。
(ちょっと拍子抜けかも……? でも、まだ魔素濃度が平常レベルに戻ってないし、油断は禁物ね)
そう思い、再度集中して洞窟内を鑑定した時だった。
さっきから感じていた強大な気配が、道の奥に確かに存在している、そんな直感に近い感覚。
「何か来るかも、伏せて!」
私が防壁を張ったのと、氷柱のような、鋭い氷が飛来したのは全く同じタイミングだった。かなり魔力が持っていかれる。
「え? なになに?!」
防壁に止められ、行き場をなくした氷柱が重力に逆らえず落下していく。通路の奥から、どしどしと音を立てて、2mほどの体長を持った何かが現れた。
「グレイシャリス……氷の巨人、だって」
あまり時間をかけている暇はないので手短に鑑定する。間違いなくさっきまで感じていた気配の正体だった。
「グレイシャリスって、S級じゃないですか……」
シャーリーはその巨体に圧倒されたのか、声を震わせた。
「びびってる場合じゃねえだろ!」
(そうだ、このサイズでしかも狭い洞窟の通路上……怯えてる場合じゃない。倒すしかない……)
鑑定で詳細な戦闘性能を見ながら、全員に支援を重ねがけていく。
氷柱の投擲、拳の振り下ろしがメイン、当たると凍結の恐れ……。
耐凍結、速度上昇、防御上昇、動体視力もあったほうがいいかな。
人数分のさまざまな模様、色の魔法陣を展開する。陣の数は20を超えた。
温存していたとはいえ膨大な魔力が一気に消費されていく感覚についめまいがくる。けれど、鑑定の方も続けないと。
「シャーリー、動ける? 2歩下がって! 振り下ろし攻撃が来るわ」
「……わ、わかりました!」
「ヒューゴ、魔力収束させて。振り下ろし後に隙ができるから」
シャーリーが下がった直後、さっきまでシャーリーが立っていたところに大きな拳が振り下ろされた。
氷でコーティングされていた床はひび割れ、へこんでいる。
拳を引き上げようとした瞬間に、ヒューゴが巨体の半分ほどまでに広がる炎を発生させた。
「ブレイク、短剣なら足首の付け根が効果的よ!」
「お、任せろ!」
「ミリアは目を狙って、レナードとシャーリーは燃えて脆くなってるとこに追撃お願い、武器に耐熱を追加するわ」
「「「了解」」」
そうして支援をかけたり剥がしたり、ひたすら敵の状況を読んだりを続けた。
今まではみんなにあまり怪我がなかったけれど、さすがにS級ともなると被弾は避けられない。
どうしても前衛に出るレナードやシャーリー、ブレイクには氷の破片などが掠っていった。
気付き次第、癒しの魔法を展開する。長期戦になると、失血が続く状況は危ない。
並行して魔法を展開しすぎたからか、頭がガンガンしてくる……。
限界に近くなった頃、ようやくグレイシャリスが倒れた。同時に、洞窟内では急激に魔素濃度が下がっていく。
(そっか、グレイシャリスが魔素を吸収しすぎてたんだ。生体反応なのか魔素なのか曖昧になって気配が掴みづらかったのね)
「お疲れ、みんな。もう大丈夫みたい」
ミリアが飛び跳ねていて、ブレイクはガッツポーズをしていた、のは見えたのだけど目が霞んでそれ以上はわからない。
頭はガンガンするしなんか熱い……。魔力を使いすぎたかも。
下がっていく魔素濃度とグレイシャリスが完全に停止していることを知って気が抜けてしまった。強力な眠さに抗いきれず私はその場にへたり込む。
(完全に魔力の使いすぎ、それに知恵熱だなあこれ……)
暗くなっていく視界の隅で、魔法で宙に浮いていた見覚えのある姿が見えた。
何かを言いながらこちらに近寄ってくるけど、疲れ切った頭ではその言葉を処理できず、私は眠りに落ちていった。
目覚めた時、私はベッドの上に横たわっていた。見覚えのある、ここ数日泊まっていたイーグルフロストの宿屋だ。
窓の外はもう暗く、少し雪が降っていた。
(帰ってきたんだ……誰かが運んでくれたのかな)
枕元に目を向けると、心配そうな顔をしたヒューゴが座っていた。
「クレア、目が覚めたんですね。気分は大丈夫ですか?」
ちょとと失礼しますね、と言いヒューゴが私の額に手を当てる。
「ありがとう、ヒューゴ。もう大丈夫だと思う。ただ、魔力を使いすぎただけだから……」
「良かった。あなたに助力を頼んでおきながらこんなことを言うのも憚られるのですが……あまり無理はなさらないでください」
「ごめんね、S級が出るなんて思わなくて、焦って魔力を使いすぎちゃったみたい。仕事中に倒れちゃうなんて……」
ヒューゴはそれを聞いて何故かため息をついた。
「いえ、貴方は護衛として最大限の働きをしてくださいました。寄せ集めのパーティがS級を討伐して、こんなに被害が少ないのは貴方のおかげです。私が言いたいのは、その……」
目を逸らし、顔の半分が綺麗な金の髪に覆われる。
「貴方が心配だということです。魔力不足なのはわかっても、どうしても、このまま目が覚めないのではと思ってしまって」
絞り出したような、必死そうな声だった。
「心配かけて、ごめん」
(でも、ありがとう)
風邪を引いた時もそうだった。目が覚めた時、ヒューゴがいてくれた。安心と同時に、嬉しいと思った自分がいた。
両親にはろくに愛された覚えがなくて、気がついたらいなくなっていて。
エリカは私が守る側だと思ってたし、エドワードに拾われてからはただがむしゃらに働いていた。
エリカへの責任感もあったし、今考えればずっと気を張っていた気がする。ナンシーと話す時は気楽だったとはいえ……。
(倒れた時、誰かに看病してもらうなんて実は初めてだったんだよね)
なんだか静かな雰囲気になってしまう。
(そうだ、みんなはどうなったのかな)
思った瞬間、ドアからけたたましいノックの音が聞こえた。
「ヒューゴ、クレア起きた? 起きてない? 入っていいー? 報告終わったよー」
夜だというのに相変わらず元気なミリアの声だった。
相変わらず私はナビゲートに注力できていて、魔力には余裕がある。ヒューゴも涼しげな顔をしているし、他のみんなも同様だった。
(ちょっと拍子抜けかも……? でも、まだ魔素濃度が平常レベルに戻ってないし、油断は禁物ね)
そう思い、再度集中して洞窟内を鑑定した時だった。
さっきから感じていた強大な気配が、道の奥に確かに存在している、そんな直感に近い感覚。
「何か来るかも、伏せて!」
私が防壁を張ったのと、氷柱のような、鋭い氷が飛来したのは全く同じタイミングだった。かなり魔力が持っていかれる。
「え? なになに?!」
防壁に止められ、行き場をなくした氷柱が重力に逆らえず落下していく。通路の奥から、どしどしと音を立てて、2mほどの体長を持った何かが現れた。
「グレイシャリス……氷の巨人、だって」
あまり時間をかけている暇はないので手短に鑑定する。間違いなくさっきまで感じていた気配の正体だった。
「グレイシャリスって、S級じゃないですか……」
シャーリーはその巨体に圧倒されたのか、声を震わせた。
「びびってる場合じゃねえだろ!」
(そうだ、このサイズでしかも狭い洞窟の通路上……怯えてる場合じゃない。倒すしかない……)
鑑定で詳細な戦闘性能を見ながら、全員に支援を重ねがけていく。
氷柱の投擲、拳の振り下ろしがメイン、当たると凍結の恐れ……。
耐凍結、速度上昇、防御上昇、動体視力もあったほうがいいかな。
人数分のさまざまな模様、色の魔法陣を展開する。陣の数は20を超えた。
温存していたとはいえ膨大な魔力が一気に消費されていく感覚についめまいがくる。けれど、鑑定の方も続けないと。
「シャーリー、動ける? 2歩下がって! 振り下ろし攻撃が来るわ」
「……わ、わかりました!」
「ヒューゴ、魔力収束させて。振り下ろし後に隙ができるから」
シャーリーが下がった直後、さっきまでシャーリーが立っていたところに大きな拳が振り下ろされた。
氷でコーティングされていた床はひび割れ、へこんでいる。
拳を引き上げようとした瞬間に、ヒューゴが巨体の半分ほどまでに広がる炎を発生させた。
「ブレイク、短剣なら足首の付け根が効果的よ!」
「お、任せろ!」
「ミリアは目を狙って、レナードとシャーリーは燃えて脆くなってるとこに追撃お願い、武器に耐熱を追加するわ」
「「「了解」」」
そうして支援をかけたり剥がしたり、ひたすら敵の状況を読んだりを続けた。
今まではみんなにあまり怪我がなかったけれど、さすがにS級ともなると被弾は避けられない。
どうしても前衛に出るレナードやシャーリー、ブレイクには氷の破片などが掠っていった。
気付き次第、癒しの魔法を展開する。長期戦になると、失血が続く状況は危ない。
並行して魔法を展開しすぎたからか、頭がガンガンしてくる……。
限界に近くなった頃、ようやくグレイシャリスが倒れた。同時に、洞窟内では急激に魔素濃度が下がっていく。
(そっか、グレイシャリスが魔素を吸収しすぎてたんだ。生体反応なのか魔素なのか曖昧になって気配が掴みづらかったのね)
「お疲れ、みんな。もう大丈夫みたい」
ミリアが飛び跳ねていて、ブレイクはガッツポーズをしていた、のは見えたのだけど目が霞んでそれ以上はわからない。
頭はガンガンするしなんか熱い……。魔力を使いすぎたかも。
下がっていく魔素濃度とグレイシャリスが完全に停止していることを知って気が抜けてしまった。強力な眠さに抗いきれず私はその場にへたり込む。
(完全に魔力の使いすぎ、それに知恵熱だなあこれ……)
暗くなっていく視界の隅で、魔法で宙に浮いていた見覚えのある姿が見えた。
何かを言いながらこちらに近寄ってくるけど、疲れ切った頭ではその言葉を処理できず、私は眠りに落ちていった。
目覚めた時、私はベッドの上に横たわっていた。見覚えのある、ここ数日泊まっていたイーグルフロストの宿屋だ。
窓の外はもう暗く、少し雪が降っていた。
(帰ってきたんだ……誰かが運んでくれたのかな)
枕元に目を向けると、心配そうな顔をしたヒューゴが座っていた。
「クレア、目が覚めたんですね。気分は大丈夫ですか?」
ちょとと失礼しますね、と言いヒューゴが私の額に手を当てる。
「ありがとう、ヒューゴ。もう大丈夫だと思う。ただ、魔力を使いすぎただけだから……」
「良かった。あなたに助力を頼んでおきながらこんなことを言うのも憚られるのですが……あまり無理はなさらないでください」
「ごめんね、S級が出るなんて思わなくて、焦って魔力を使いすぎちゃったみたい。仕事中に倒れちゃうなんて……」
ヒューゴはそれを聞いて何故かため息をついた。
「いえ、貴方は護衛として最大限の働きをしてくださいました。寄せ集めのパーティがS級を討伐して、こんなに被害が少ないのは貴方のおかげです。私が言いたいのは、その……」
目を逸らし、顔の半分が綺麗な金の髪に覆われる。
「貴方が心配だということです。魔力不足なのはわかっても、どうしても、このまま目が覚めないのではと思ってしまって」
絞り出したような、必死そうな声だった。
「心配かけて、ごめん」
(でも、ありがとう)
風邪を引いた時もそうだった。目が覚めた時、ヒューゴがいてくれた。安心と同時に、嬉しいと思った自分がいた。
両親にはろくに愛された覚えがなくて、気がついたらいなくなっていて。
エリカは私が守る側だと思ってたし、エドワードに拾われてからはただがむしゃらに働いていた。
エリカへの責任感もあったし、今考えればずっと気を張っていた気がする。ナンシーと話す時は気楽だったとはいえ……。
(倒れた時、誰かに看病してもらうなんて実は初めてだったんだよね)
なんだか静かな雰囲気になってしまう。
(そうだ、みんなはどうなったのかな)
思った瞬間、ドアからけたたましいノックの音が聞こえた。
「ヒューゴ、クレア起きた? 起きてない? 入っていいー? 報告終わったよー」
夜だというのに相変わらず元気なミリアの声だった。
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