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3章 イーグルフロストの異変
11 掃討契約
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「レナードさん、ミリアさん。イーグルフロストの過剰魔化を解決するため、掃討作戦を行おうと思います。協力していただけませんか?」
「掃討作戦だって?」レナードが眉をあげた。ミリアも目を丸くしてヒューゴを見つめている。
私も内心、驚いていた。
(正直、ベノムウルフの牙も手に入れたし、このまま帰るんじゃないかと思ってた。ヒューゴってわりと効率主義みたいなとこあるし)
でも、掃討作戦がもし行えるのならいいなとも思う。洞窟から逃げてきたトーマスの姿が脳裏に浮かぶ。
いくら他国の地で、あまり知らない街といえど、人が怪我をしている姿を見るのは好きではなかった。
そもそも癒しの魔法も、転びやすかった幼いエリカのために勉強したんだし。
(過剰魔化を放置しておくと、トーマスだけじゃない、もっと被害がでかねない。解決できるなら力になりたい)
「うーん、まあ確かにこのまま放置しておくのは困るしね。」
ミリアは頷き、続けた。
「最近魔物が多かったから、二人で奥に行き過ぎるのは危ないってレナードに止められてさ。採掘も進まなくて商売あがったりだったんだよね」
レナードはしばらく考え込んだあと、溜息をついた。
「まあ、そうだな。いい機会だろう。俺たちは参加する。ただ、あんたらも前線に出るのが条件だ。残念ながらこの街は田舎でな。ちゃんと戦える人間はそんなにいねえんだよ。最近魔物が増えたからか一獲千金狙いの若造は多いんだが、正直頼りにはならんのさ」
「なるほど……あまり増員は望めませんか。けれど、レナードさんたちにご協力いただけるのはありがたい。もちろん、言われずとも私も参加する予定でしたよ」
ヒューゴは礼儀正しく答えた。そして私に目を向ける。
「クレアにも手伝っていただきたいんですが、どうですか?」
「もちろん、参加するわ」
私は即答した。
(私のこと、ちゃんと護衛として雇ってくれてるのに、いちいちこうして意志を確認してくれるのよね。普通こういうのって命令するものじゃないの? まあ、拒否するつもりはないけど……)
「ありがとうございます。ああ、そうだ。ギルドに話を通しておいてもらえますか? さすがに他国のギルド登録もしてない人間が勝手に大掛かりな討伐をしたとなれば角が立つでしょうし」
「へいへい、了解」
「まあ、ここのギルマスだいぶ適当だから、多分大丈夫だと思うよ。多少見込みのある子もいるから、その子たちも呼べないかついでに聞いといていい?」
「お願いします。では契約を結びましょうか」
レナ―ドたちが頷くと、私たちが囲んでいた円卓の上に魔法陣が発生する。契約魔法だった。
「条件はこれでいいですか? 変更点、疑問点など教えていただきたいのですが」
「うわー、なんかちゃんとしてるね」
これはヒューゴとレナードたちの間で結ぶ契約なんだろう。魔法陣の中心に浮かぶ契約書を眺める。
レナードたちへの要求は掃討作戦の参加、武力の提供。こちらからの物資などの提供、前線参加。
報酬の取り分はレナード、ミリアペアとギルドから人を増やす場合の依頼料、手数料の配分が多めだった。
しかし、武器に使えそうな素材に関しては獲得に際する優先権がヒューゴに設定されている。
「ん? あぁ、なるほど……まあ文句はない」
はしゃぐミリアと対照的にレナードは契約書をまじまじと見つめ、同意した。
ミリアとレナードが魔法陣に触れると、陣が点滅する。
「ありがとうございます。これで契約完了ですね」
「条件はかなり良かったな。俺たちにとってはありがてえが……そもそもあんたら、二人でも十分やれるんじゃないのか?」
「そういえば、クレアもヒューゴもすっごく強かったもんね」
「買いかぶりですよ。少人数では限界がありますからね。それに、こういうのは助け合いでしょう?」
レナードはヒューゴの完璧な笑顔を見て、
「やっぱお前、商人っぽいわ」
と呆れたようにつぶやいた。
「じゃ、私たちギルドに話通してくるから、待ってて。ついでにさっきも言ったけど、参加してくれそうな子も探してくるから」
そう言ってミリアは軽やかに去っていく。返答も確認しないその素早い動きを、どっしりとした動きでレナードが追いかけた。
二人がギルドカウンターに行ってしまい、私とヒューゴが残される。
「ねえ、ヒューゴ。掃討作戦ほんとにやるの? 正直、ヒューゴがこういうの積極的にやる印象なかった」
冒険者が一般的に想像する金儲けにしか興味がない偉そうな商人像。
さすがにヒューゴはそこまではいかないけれど、こういう他国の問題にわざわざ首を突っ込むタイプには見えなかったんだけど。
「まあ、普段なら冒険者の方々と交渉する方が楽でいいんですけど、現状パワーバランスが崩れていて素材の供給も少ないようですし。多少危険でも前線に立った方が早いかなと」
多少危険度はあがりますから、その分報酬に上乗せしておきますね、というヒューゴ。
ヒューゴがこうして戦おうとしているところを見るのはなんだか新鮮だなあ。まあ、攻撃魔法の精度も高かったし一人旅中には普通に戦闘することもあったのかもしれない。
「それに、イーグルフロストについてすぐまたエーデルランドに帰るっていうのもせっかちだと思いません? 雪が積もっている光景もなかなか面白いですし、ある程度滞在するのもありじゃないですか」
微笑んだヒューゴの顔は、さっきの完璧な笑みと違ってなんだかリラックスしている感じがした。
(ヒューゴも雪好きだったのかな?)
いくら雪が好きでも、滞在理由が掃討作戦のためってのがちょっとおかしいと思うけど……。
「まあ、そうかもね」
もうエリカたちのことはだいぶ吹っ切れつつあるけど、さっさとエーデルランドに帰ってもし顔でも合わせたらまだ気まずいし、これもありなのかも。
「とりあえず、支援魔法の構成とか考え直しておくね。危険なのは事実だし……みんなに怪我してほしくないもの」
「クレアさんの支援魔法があると戦いやすくて助かります。お願いしますね」
そうして私たちは準備を始めた。ある程度時間がたち、ミリアが叫びながら走り寄ってくる。
「許可とれたよ~!」
数名、協力してくれる冒険者も見つかったらしい。決行日を決めて、その場は解散した。
「掃討作戦だって?」レナードが眉をあげた。ミリアも目を丸くしてヒューゴを見つめている。
私も内心、驚いていた。
(正直、ベノムウルフの牙も手に入れたし、このまま帰るんじゃないかと思ってた。ヒューゴってわりと効率主義みたいなとこあるし)
でも、掃討作戦がもし行えるのならいいなとも思う。洞窟から逃げてきたトーマスの姿が脳裏に浮かぶ。
いくら他国の地で、あまり知らない街といえど、人が怪我をしている姿を見るのは好きではなかった。
そもそも癒しの魔法も、転びやすかった幼いエリカのために勉強したんだし。
(過剰魔化を放置しておくと、トーマスだけじゃない、もっと被害がでかねない。解決できるなら力になりたい)
「うーん、まあ確かにこのまま放置しておくのは困るしね。」
ミリアは頷き、続けた。
「最近魔物が多かったから、二人で奥に行き過ぎるのは危ないってレナードに止められてさ。採掘も進まなくて商売あがったりだったんだよね」
レナードはしばらく考え込んだあと、溜息をついた。
「まあ、そうだな。いい機会だろう。俺たちは参加する。ただ、あんたらも前線に出るのが条件だ。残念ながらこの街は田舎でな。ちゃんと戦える人間はそんなにいねえんだよ。最近魔物が増えたからか一獲千金狙いの若造は多いんだが、正直頼りにはならんのさ」
「なるほど……あまり増員は望めませんか。けれど、レナードさんたちにご協力いただけるのはありがたい。もちろん、言われずとも私も参加する予定でしたよ」
ヒューゴは礼儀正しく答えた。そして私に目を向ける。
「クレアにも手伝っていただきたいんですが、どうですか?」
「もちろん、参加するわ」
私は即答した。
(私のこと、ちゃんと護衛として雇ってくれてるのに、いちいちこうして意志を確認してくれるのよね。普通こういうのって命令するものじゃないの? まあ、拒否するつもりはないけど……)
「ありがとうございます。ああ、そうだ。ギルドに話を通しておいてもらえますか? さすがに他国のギルド登録もしてない人間が勝手に大掛かりな討伐をしたとなれば角が立つでしょうし」
「へいへい、了解」
「まあ、ここのギルマスだいぶ適当だから、多分大丈夫だと思うよ。多少見込みのある子もいるから、その子たちも呼べないかついでに聞いといていい?」
「お願いします。では契約を結びましょうか」
レナ―ドたちが頷くと、私たちが囲んでいた円卓の上に魔法陣が発生する。契約魔法だった。
「条件はこれでいいですか? 変更点、疑問点など教えていただきたいのですが」
「うわー、なんかちゃんとしてるね」
これはヒューゴとレナードたちの間で結ぶ契約なんだろう。魔法陣の中心に浮かぶ契約書を眺める。
レナードたちへの要求は掃討作戦の参加、武力の提供。こちらからの物資などの提供、前線参加。
報酬の取り分はレナード、ミリアペアとギルドから人を増やす場合の依頼料、手数料の配分が多めだった。
しかし、武器に使えそうな素材に関しては獲得に際する優先権がヒューゴに設定されている。
「ん? あぁ、なるほど……まあ文句はない」
はしゃぐミリアと対照的にレナードは契約書をまじまじと見つめ、同意した。
ミリアとレナードが魔法陣に触れると、陣が点滅する。
「ありがとうございます。これで契約完了ですね」
「条件はかなり良かったな。俺たちにとってはありがてえが……そもそもあんたら、二人でも十分やれるんじゃないのか?」
「そういえば、クレアもヒューゴもすっごく強かったもんね」
「買いかぶりですよ。少人数では限界がありますからね。それに、こういうのは助け合いでしょう?」
レナードはヒューゴの完璧な笑顔を見て、
「やっぱお前、商人っぽいわ」
と呆れたようにつぶやいた。
「じゃ、私たちギルドに話通してくるから、待ってて。ついでにさっきも言ったけど、参加してくれそうな子も探してくるから」
そう言ってミリアは軽やかに去っていく。返答も確認しないその素早い動きを、どっしりとした動きでレナードが追いかけた。
二人がギルドカウンターに行ってしまい、私とヒューゴが残される。
「ねえ、ヒューゴ。掃討作戦ほんとにやるの? 正直、ヒューゴがこういうの積極的にやる印象なかった」
冒険者が一般的に想像する金儲けにしか興味がない偉そうな商人像。
さすがにヒューゴはそこまではいかないけれど、こういう他国の問題にわざわざ首を突っ込むタイプには見えなかったんだけど。
「まあ、普段なら冒険者の方々と交渉する方が楽でいいんですけど、現状パワーバランスが崩れていて素材の供給も少ないようですし。多少危険でも前線に立った方が早いかなと」
多少危険度はあがりますから、その分報酬に上乗せしておきますね、というヒューゴ。
ヒューゴがこうして戦おうとしているところを見るのはなんだか新鮮だなあ。まあ、攻撃魔法の精度も高かったし一人旅中には普通に戦闘することもあったのかもしれない。
「それに、イーグルフロストについてすぐまたエーデルランドに帰るっていうのもせっかちだと思いません? 雪が積もっている光景もなかなか面白いですし、ある程度滞在するのもありじゃないですか」
微笑んだヒューゴの顔は、さっきの完璧な笑みと違ってなんだかリラックスしている感じがした。
(ヒューゴも雪好きだったのかな?)
いくら雪が好きでも、滞在理由が掃討作戦のためってのがちょっとおかしいと思うけど……。
「まあ、そうかもね」
もうエリカたちのことはだいぶ吹っ切れつつあるけど、さっさとエーデルランドに帰ってもし顔でも合わせたらまだ気まずいし、これもありなのかも。
「とりあえず、支援魔法の構成とか考え直しておくね。危険なのは事実だし……みんなに怪我してほしくないもの」
「クレアさんの支援魔法があると戦いやすくて助かります。お願いしますね」
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