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3章 イーグルフロストの異変
10 洞窟の異変
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私たちはひとまず集まり、怪我の状態とかを確認した。
前衛だったレナードはかすり傷程度とはいえ傷が多かった。
癒しの魔法をかけると、すごいオーバーな反応で感謝されてこそばがゆい気持ちになる。
エーデルランドで仲が良かったアリシアたちみたいに、ヒーラーがいないパーティだからだろう。
状況をある程度把握し終えて、私たちはとりあえず街に戻ることにした。
怪我をしたトーマスという冒険者を早く街で休ませるためだ。
レナードがトーマスを抱え、ひとまずベノムウルフの死体はヒューゴの格納魔法でしまっておくことになった。
いろいろ話しながら四人で歩く。よく考えたら名前も知らない相手と共闘していたんだよね……。
「すみません、ベノムウルフの素材なんですけど、頭の方を譲っていただけませんか? 先ほども言った通り、依頼されていまして」
商魂たくましいというか、ヒューゴはすかさず素材の話を持ち掛けていた。レナードは目を丸くして答えた。
「え? ああ、いいけどよ。あんな激戦の後にもう素材の話って、商人はすげえな」
「すっごい助けてもらっちゃったし、お礼代わりに全部持ってってもいいよ? 私たち、どうせ普段はここでスノープリズムっての採掘してるだけだしさ。ほんと、君たちがいないとどうなってたか」
そして弓使いの少女は私の方に視線を向け、にっこり笑った。
「君もほんとーにありがと! いろいろサポートしてくれてたでしょ? 戦いやすくてさ~。そうだ、名前は?」
「クレアよ。そんなたいしたことはしてないけれど……」
確かに複数人に同時に支援をするのは大変だけれど、前のパーティでは普通にやっていたことだった。
私含め五人全員に5,6種の魔法をかけるのなんか日常茶飯事。最近はヒューゴと二人で、戦闘もしてなかったから久しぶりだったけど。
「たいしたことあるよ~! あ、あたしはミリアっていうの。ほんとありがとね、クレア」
(天真爛漫そのものって感じの子だな)
つい微笑ましくなって私も笑った。
私がミリアと話している間に、ヒューゴもレナードと話していたみたいで
「あんたら、商人やめて冒険者になったほうがいいんじゃねえの?」
とか言われていたのが聞こえた。
ヒューゴは謙遜した様子で断っていたけれど、正直レナードの気持ちはよくわかる。
ちょっと前まで冒険者だった私から見ても、あのコントロールと威力は単体でA級認定も余裕なくらいなのは簡単にわかる。
まあ、ヒューゴは商人としての生活が好きらしいから、私から冒険者がどうとかは言わないけれど。
(私も、もっともっと強くならなきゃ)
熱で寝込んでいたけれど、昨日はもう悪夢は見なかった。
役立たずかもしれないとか、攻撃できない護衛ってどうなのとか思っていたけれど。
ヒューゴが私を必要としてくれたのなら、そこはもうどうでもいい。
私がやるべきことは、私のできることを全力でやってヒューゴの側にいることだから。
トーマスをイーグルフロストのギルド施設に預け、私たち四人はそのままコミュニティスペースで話し合っていた。
「洞窟での異変だけど、魔素が普通に比べて凄い濃かったわ。あの洞窟はいつもそうなの?」
「魔素……? あんた鑑定魔法が使えんのか?」
(自分で作ったものだから、一般のとは違うけど……)
「ちょっとだけどね」
鑑定魔法のことはかなり控えめな能力を周囲に申告していた。もちろん、エドワードたちやヒューゴは詳しい能力を知っているけれど。
私の鑑定は取得できる情報が広大すぎて、開示していたら面倒なことになりかねないとナンシーは言っていた。
「魔素濃度が急激に上昇することで、魔物が活性化する……過剰魔化ですか?」
ピンときたという風に目を細めるヒューゴ。私も同じ判断だった。
過剰魔化はごくまれに起きる自然災害、異常現象の一つだ。魔素を急激に取り込み強化されていった魔物を徹底的に減らしていき、魔物ごと魔素を減らすという荒業で解決される。
当然ながら過剰強化された魔物たちを倒すのは簡単なことではないので、過剰魔化が発生した場合はギルドでも大体的な集団討伐依頼が出される。
エーデルランドで冒険者をしていたときも一度だけ経験があった。あのときは支援対象は多いし、運ばれてくる怪我人は多いしほんと大変だったなあ……。
「過剰魔化って……あー! そういうのあったねえ。こんな鉱石くらいしか取り柄のないさびれた洞窟でまさか―って思ってたけど」
「でも、ミリアたちの話だと最近強化された魔物目当てに沢山冒険者が来てたんでしょう? 彼らが魔物を倒しているのなら、そろそろ濃度が低くなっているころだと思うんだけど……」
今日だって20人くらいがいたはずだし。
「そういやあいつら来るようになってから1週間くらいか? 全然減ってる気はしねえな」
「すぐ逃げ帰ってくる子たちも多いもんね~。でも、ほんと最近多いもん敵。私たちも商売上がったりだよ~。奥に行けば行くほど魔物だらけでやってけないし」
(トーマスも大怪我してたもんねえ……)
「困りましたね。先ほどのベノムウルフの牙だけでは心許ないと思っていたところです。偏屈な爺さんが氷属性武器を作りたいらしく……冒険者たちと素材交渉をしようとしていたのですが」
「素材目当てにやってくる奴らは多いけど、あいつら欲に溺れてすぐ無茶すんだよな」
「で、帰ってこないの」
ミリアが飲んでいたジュースをずずっと吸って呟いた。
(うーーん、かなり一大事じゃない?)
素材を買い取ろうにも、魔物が強すぎて冒険者が返り討ちにされている状況。
当初の予定通りにはいかなさそうだった。この後どうする?という意図を込めてヒューゴに目配せする。
「レナードさん、ミリアさん。イーグルフロストの過剰魔化を解決するため、掃討作戦を行おうと思います。協力していただけませんか?」
ヒューゴはいつも通りの笑顔を浮かべた。
前衛だったレナードはかすり傷程度とはいえ傷が多かった。
癒しの魔法をかけると、すごいオーバーな反応で感謝されてこそばがゆい気持ちになる。
エーデルランドで仲が良かったアリシアたちみたいに、ヒーラーがいないパーティだからだろう。
状況をある程度把握し終えて、私たちはとりあえず街に戻ることにした。
怪我をしたトーマスという冒険者を早く街で休ませるためだ。
レナードがトーマスを抱え、ひとまずベノムウルフの死体はヒューゴの格納魔法でしまっておくことになった。
いろいろ話しながら四人で歩く。よく考えたら名前も知らない相手と共闘していたんだよね……。
「すみません、ベノムウルフの素材なんですけど、頭の方を譲っていただけませんか? 先ほども言った通り、依頼されていまして」
商魂たくましいというか、ヒューゴはすかさず素材の話を持ち掛けていた。レナードは目を丸くして答えた。
「え? ああ、いいけどよ。あんな激戦の後にもう素材の話って、商人はすげえな」
「すっごい助けてもらっちゃったし、お礼代わりに全部持ってってもいいよ? 私たち、どうせ普段はここでスノープリズムっての採掘してるだけだしさ。ほんと、君たちがいないとどうなってたか」
そして弓使いの少女は私の方に視線を向け、にっこり笑った。
「君もほんとーにありがと! いろいろサポートしてくれてたでしょ? 戦いやすくてさ~。そうだ、名前は?」
「クレアよ。そんなたいしたことはしてないけれど……」
確かに複数人に同時に支援をするのは大変だけれど、前のパーティでは普通にやっていたことだった。
私含め五人全員に5,6種の魔法をかけるのなんか日常茶飯事。最近はヒューゴと二人で、戦闘もしてなかったから久しぶりだったけど。
「たいしたことあるよ~! あ、あたしはミリアっていうの。ほんとありがとね、クレア」
(天真爛漫そのものって感じの子だな)
つい微笑ましくなって私も笑った。
私がミリアと話している間に、ヒューゴもレナードと話していたみたいで
「あんたら、商人やめて冒険者になったほうがいいんじゃねえの?」
とか言われていたのが聞こえた。
ヒューゴは謙遜した様子で断っていたけれど、正直レナードの気持ちはよくわかる。
ちょっと前まで冒険者だった私から見ても、あのコントロールと威力は単体でA級認定も余裕なくらいなのは簡単にわかる。
まあ、ヒューゴは商人としての生活が好きらしいから、私から冒険者がどうとかは言わないけれど。
(私も、もっともっと強くならなきゃ)
熱で寝込んでいたけれど、昨日はもう悪夢は見なかった。
役立たずかもしれないとか、攻撃できない護衛ってどうなのとか思っていたけれど。
ヒューゴが私を必要としてくれたのなら、そこはもうどうでもいい。
私がやるべきことは、私のできることを全力でやってヒューゴの側にいることだから。
トーマスをイーグルフロストのギルド施設に預け、私たち四人はそのままコミュニティスペースで話し合っていた。
「洞窟での異変だけど、魔素が普通に比べて凄い濃かったわ。あの洞窟はいつもそうなの?」
「魔素……? あんた鑑定魔法が使えんのか?」
(自分で作ったものだから、一般のとは違うけど……)
「ちょっとだけどね」
鑑定魔法のことはかなり控えめな能力を周囲に申告していた。もちろん、エドワードたちやヒューゴは詳しい能力を知っているけれど。
私の鑑定は取得できる情報が広大すぎて、開示していたら面倒なことになりかねないとナンシーは言っていた。
「魔素濃度が急激に上昇することで、魔物が活性化する……過剰魔化ですか?」
ピンときたという風に目を細めるヒューゴ。私も同じ判断だった。
過剰魔化はごくまれに起きる自然災害、異常現象の一つだ。魔素を急激に取り込み強化されていった魔物を徹底的に減らしていき、魔物ごと魔素を減らすという荒業で解決される。
当然ながら過剰強化された魔物たちを倒すのは簡単なことではないので、過剰魔化が発生した場合はギルドでも大体的な集団討伐依頼が出される。
エーデルランドで冒険者をしていたときも一度だけ経験があった。あのときは支援対象は多いし、運ばれてくる怪我人は多いしほんと大変だったなあ……。
「過剰魔化って……あー! そういうのあったねえ。こんな鉱石くらいしか取り柄のないさびれた洞窟でまさか―って思ってたけど」
「でも、ミリアたちの話だと最近強化された魔物目当てに沢山冒険者が来てたんでしょう? 彼らが魔物を倒しているのなら、そろそろ濃度が低くなっているころだと思うんだけど……」
今日だって20人くらいがいたはずだし。
「そういやあいつら来るようになってから1週間くらいか? 全然減ってる気はしねえな」
「すぐ逃げ帰ってくる子たちも多いもんね~。でも、ほんと最近多いもん敵。私たちも商売上がったりだよ~。奥に行けば行くほど魔物だらけでやってけないし」
(トーマスも大怪我してたもんねえ……)
「困りましたね。先ほどのベノムウルフの牙だけでは心許ないと思っていたところです。偏屈な爺さんが氷属性武器を作りたいらしく……冒険者たちと素材交渉をしようとしていたのですが」
「素材目当てにやってくる奴らは多いけど、あいつら欲に溺れてすぐ無茶すんだよな」
「で、帰ってこないの」
ミリアが飲んでいたジュースをずずっと吸って呟いた。
(うーーん、かなり一大事じゃない?)
素材を買い取ろうにも、魔物が強すぎて冒険者が返り討ちにされている状況。
当初の予定通りにはいかなさそうだった。この後どうする?という意図を込めてヒューゴに目配せする。
「レナードさん、ミリアさん。イーグルフロストの過剰魔化を解決するため、掃討作戦を行おうと思います。協力していただけませんか?」
ヒューゴはいつも通りの笑顔を浮かべた。
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