8 / 25
3章 イーグルフロストの異変
8 イーグルフロストの洞窟
しおりを挟む
私は二日間たっぷり寝込んで、ようやく風邪を治した。
何だか風邪を引く前よりもすっきりとした気分な気がする。
「クレア、もう大丈夫なのですか? もう少し休んでいっても……」
ヒューゴの優しい声に、ふっと笑みがこぼれる。
「やだ、追放されたとはいえ元冒険者よ。さすがにそんなにだらだらしてたら鈍っちゃうわ」
そうして私たちはようやくイーグルフロストに向けて出発することになった。
とはいっても、休憩のために立ち寄った街とイーグルフロストは馬車で数時間しか離れていない。
到着したころはまだ昼過ぎといったところだった。一面の銀世界に息を呑む。
ガルシア王国は全体的に寒冷な土地だと聞くけれど、こんなに雪が降り積もった景色は入国してから初めて見た。
「綺麗……雪って本当に積もるのね」
私の住んでいた地域はむしろかなり温暖な気候だったのもあって、つい非日常的な光景に心が弾んだ。
「エーデルランドはめったに雪が降りませんからね。氷属性を持った魔物もいませんし……」
「そういえば、氷属性の素材を買いにきたんだよね、ヒューゴ」
エーデルランドでヒューゴから護衛の依頼を持ちかけられてきたとき、旅の詳細についても教えてもらっていた。
エーデルランドからガルシア王国イーグルフロストまでの護衛。イーグルフロストで氷属性の素材を購入するときの補佐。そして帰国までの護衛というのが依頼内容だった。
「ええ。お得意様がどうしても氷の武器が作りたいとのことでして……針や爪系の素材を探す予定なんです」
「それでガルシアに来る必要があったんだ。それにしてもヒューゴはすごいよね……普通の商人の人って、ギルドとかを経由して商売してるじゃない?」
私もそうだけど、大抵冒険者は冒険者ギルドで依頼を受ける。討伐依頼とか採集依頼とかが主なんだけど。
冒険者は荒くれ者も多くて、依頼する行政や商人たちもギルドを介した方がやりやすいのだ。
ダンジョンで入手した素材の売却も同様の理由でギルドを介して行われるのが主流。
私もずっと素材はギルドだけに卸していたんだけど、ヒューゴと知り合ってからは一部素材を直接ヒューゴに売るようになった。
面倒くさい酔っ払いも多く、商人やら貴族をやたらと敵対視しがちな冒険者と直接話にくるなんて。珍しいって言われてある意味有名だったなあ……昔のヒューゴは。
「冒険者の方々と直接取引させていただいた方が効率的だったんですよ。ギルドは高品質な素材を若手に卸してくれませんし」
(商人もいろいろ大変よね……)
今でこそ、ヒューゴはギルド運営にも、冒険者たちにも、職人たちからも評判がいいらしいけれど。
遠い目をしたヒューゴを見て、話を変える。
「じゃあ、今回も直接交渉する冒険者を探すの?」
「ええ、その予定です。この時刻ですと、ギルドよりダンジョンの近くの方が冒険者が多そうですね。町はずれに洞窟があるそうなので、そちらに向かいましょう」
私たちは街の近くにある洞窟まで歩いていく。
洞窟の入り口に近づくと、妙に冷たい風が吹いているのが分かった。むき出しの岩壁には氷が張り付いている。
洞窟の近くでは、冒険者であろう男女休憩していた。鎧を身にまとい、大剣や弓を持っている。
「こんにちは」
ヒューゴが彼らに声をかけると、冒険者たちは振り返る。
「ああ、どうも。あんたらも噂を聞いてきたのか?」
一人の男性が答える。がっちりとした体型で、背中には大剣を背負っていた。
「噂、ですか?」
「知らないの? 最近ここの洞窟、やけに魔物が強いんだよね。いい素材が取れるってみんな一獲千金夢見ててさ~すごい人多いの」
弓使いであろう少女は軽い口調で言った。やけに魔物が強い……? そういう事例に聞き覚えがある気がする。
(<アナライズ>)
洞窟に向かって鑑定を発動させる。イーグルフロストの洞窟。氷/毒属性の魔物が多く、ガルシア王国のダンジョンの一つとしては平凡なものらしい。
よく取れるスノープリズムという結晶が魔導師垂涎の品らしく、本来はその採掘を主に行う馴染みの冒険者たちが多いダンジョン……だけど。
(あんまり大きくはない洞窟なのに、やけに内部人数が多いわね。20人近い……)
それに、やけに魔素が濃かった。魔素が濃いところでは魔物が増え、力も増す。弓使いの少女が言っていたことはおそらく魔素の増加が影響なんだろう。
(魔素が濃くなる現象って……確か……)
記憶を引っ張り出そうとしたその瞬間、野太い悲鳴となにかが駆けてくる音がした。
「助けてくれ!」
それは、洞窟の方から……そして、入口に一人の男性が現れる。その右腕はなく、肩からは血があふれ出していた。
何だか風邪を引く前よりもすっきりとした気分な気がする。
「クレア、もう大丈夫なのですか? もう少し休んでいっても……」
ヒューゴの優しい声に、ふっと笑みがこぼれる。
「やだ、追放されたとはいえ元冒険者よ。さすがにそんなにだらだらしてたら鈍っちゃうわ」
そうして私たちはようやくイーグルフロストに向けて出発することになった。
とはいっても、休憩のために立ち寄った街とイーグルフロストは馬車で数時間しか離れていない。
到着したころはまだ昼過ぎといったところだった。一面の銀世界に息を呑む。
ガルシア王国は全体的に寒冷な土地だと聞くけれど、こんなに雪が降り積もった景色は入国してから初めて見た。
「綺麗……雪って本当に積もるのね」
私の住んでいた地域はむしろかなり温暖な気候だったのもあって、つい非日常的な光景に心が弾んだ。
「エーデルランドはめったに雪が降りませんからね。氷属性を持った魔物もいませんし……」
「そういえば、氷属性の素材を買いにきたんだよね、ヒューゴ」
エーデルランドでヒューゴから護衛の依頼を持ちかけられてきたとき、旅の詳細についても教えてもらっていた。
エーデルランドからガルシア王国イーグルフロストまでの護衛。イーグルフロストで氷属性の素材を購入するときの補佐。そして帰国までの護衛というのが依頼内容だった。
「ええ。お得意様がどうしても氷の武器が作りたいとのことでして……針や爪系の素材を探す予定なんです」
「それでガルシアに来る必要があったんだ。それにしてもヒューゴはすごいよね……普通の商人の人って、ギルドとかを経由して商売してるじゃない?」
私もそうだけど、大抵冒険者は冒険者ギルドで依頼を受ける。討伐依頼とか採集依頼とかが主なんだけど。
冒険者は荒くれ者も多くて、依頼する行政や商人たちもギルドを介した方がやりやすいのだ。
ダンジョンで入手した素材の売却も同様の理由でギルドを介して行われるのが主流。
私もずっと素材はギルドだけに卸していたんだけど、ヒューゴと知り合ってからは一部素材を直接ヒューゴに売るようになった。
面倒くさい酔っ払いも多く、商人やら貴族をやたらと敵対視しがちな冒険者と直接話にくるなんて。珍しいって言われてある意味有名だったなあ……昔のヒューゴは。
「冒険者の方々と直接取引させていただいた方が効率的だったんですよ。ギルドは高品質な素材を若手に卸してくれませんし」
(商人もいろいろ大変よね……)
今でこそ、ヒューゴはギルド運営にも、冒険者たちにも、職人たちからも評判がいいらしいけれど。
遠い目をしたヒューゴを見て、話を変える。
「じゃあ、今回も直接交渉する冒険者を探すの?」
「ええ、その予定です。この時刻ですと、ギルドよりダンジョンの近くの方が冒険者が多そうですね。町はずれに洞窟があるそうなので、そちらに向かいましょう」
私たちは街の近くにある洞窟まで歩いていく。
洞窟の入り口に近づくと、妙に冷たい風が吹いているのが分かった。むき出しの岩壁には氷が張り付いている。
洞窟の近くでは、冒険者であろう男女休憩していた。鎧を身にまとい、大剣や弓を持っている。
「こんにちは」
ヒューゴが彼らに声をかけると、冒険者たちは振り返る。
「ああ、どうも。あんたらも噂を聞いてきたのか?」
一人の男性が答える。がっちりとした体型で、背中には大剣を背負っていた。
「噂、ですか?」
「知らないの? 最近ここの洞窟、やけに魔物が強いんだよね。いい素材が取れるってみんな一獲千金夢見ててさ~すごい人多いの」
弓使いであろう少女は軽い口調で言った。やけに魔物が強い……? そういう事例に聞き覚えがある気がする。
(<アナライズ>)
洞窟に向かって鑑定を発動させる。イーグルフロストの洞窟。氷/毒属性の魔物が多く、ガルシア王国のダンジョンの一つとしては平凡なものらしい。
よく取れるスノープリズムという結晶が魔導師垂涎の品らしく、本来はその採掘を主に行う馴染みの冒険者たちが多いダンジョン……だけど。
(あんまり大きくはない洞窟なのに、やけに内部人数が多いわね。20人近い……)
それに、やけに魔素が濃かった。魔素が濃いところでは魔物が増え、力も増す。弓使いの少女が言っていたことはおそらく魔素の増加が影響なんだろう。
(魔素が濃くなる現象って……確か……)
記憶を引っ張り出そうとしたその瞬間、野太い悲鳴となにかが駆けてくる音がした。
「助けてくれ!」
それは、洞窟の方から……そして、入口に一人の男性が現れる。その右腕はなく、肩からは血があふれ出していた。
11
お気に入りに追加
794
あなたにおすすめの小説
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。
和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
婚約破棄された公爵令嬢のお嬢様がいい人すぎて悪女になれないようなので異世界から来た私が代わりにざまぁしていいですか?
すだもみぢ
ファンタジー
気が付いたら目の前で唐突に起きていた誰かの婚約破棄シーン。
私は誰!?ここはどこ!?
どうやら現世で塾講師だった私は異世界に飛ばされて、リリアンヌというメイドの娘の体にのり移ったらしい。
婚約破棄をされていたのは、リリアンヌの乳姉妹のメリュジーヌお嬢様。先妻の娘のお嬢様はこの家では冷遇されているようで。
お嬢様の幼い頃からの婚約者はそんなお嬢様を見捨てて可愛がられている義理の姉の方に乗り換えた模様。
私のすべきことは、この家を破滅に導き、お嬢様の婚約者に復讐し、お嬢様を幸せにすることですね?
※成り上がりストーリーですが、恋愛要素多めです。ざまぁは最後の方です。
※主人公はあまり性格よくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる