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3章 イーグルフロストの異変
7 ガルシア入国と悪夢
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私たちが乗った馬車はゆっくりとガルシア王国を進んでいた。太陽は高く昇っているけれど、少し肌寒く感じた。
ルドルフが警備隊に連行されるのを見送り、旅を再開して2日ほど。さっきガルシアに入国したばかりだけど、エーデルランドに比べると少し気温が低くなってきたようだった。
私は少し緊張しながら、対面に座るヒューゴに話しかけた。
「そういえば、もうすぐ目的の街なんだっけ?」
「ええ。イーグルフロストという街ですね。近くに存在する洞窟から良質な素材がとれるらしく、冒険者が多い街です」
(冒険者の多い街か……。ヒューゴだから慣れているだろうけど、ルドルフのときみたいにならないように頑張らなきゃ)
ルドルフがヒューゴに毒を盛ろうとしたとき、つい後手に回ってしまった。
ヒューゴは人から悪意を向けられるのには慣れてるって感じだったけど、なるべくなら嫌な思いはしてほしくない。
って、決意だけはしてるんだけど……。
(なんか、眩暈するかも)
数時間前から、体調があまりよくなかった。
何とかしのげないかと、ヒューゴと一緒にかけている防寒の魔法に加えて、自分に冷却や頭痛軽減の魔法をかけていたけど……こういうのはおまじない程度で、根本的な解決にはならないし。
「クレア、顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫。気温の変化に慣れてないだけだと思うし」
私は強がって笑顔を作った。あまり迷惑はかけたくない。
私の返答を聞いたヒューゴはしばらく何かを考えていたようだけど、やがて口を開いた。
「ガルシアは少し寒いですもんね。この近くに、規模は小さいですが街があるようです。今日は早めに休みましょう」
気を使わせてしまった。私の方が護衛としてヒューゴを守らないといけないのに。
「……ごめん、ありがとう」
そうして、私たちはイーグルフロストより少し手前の街に降りた。
宿で部屋を取り、ベッドに倒れ込む。自分の病態を鑑定してみると、完全に風邪だった。熱は高いけど、感染力は低そうなのは幸いかもしれない。
隣に部屋を取ったヒューゴが、わざわざ様子を見にきてくれていた。
「ごめん、やっぱり風邪みたい。あんまり感染する感じじゃないっぽいんだけど……」
今日の夜にはイーグルフロストにつけるはずだったけど、私の風邪が治るまでこの街に滞在する予定だとヒューゴは言っていた。
「クレア、気に病まないでください。今は体を休めることに集中してください」
「……ありがとう」
ヒューゴはどうしてこんなに優しいんだろう。私は、護衛として役に立てているのかな。
ルドルフにヒューゴが狙われたとき、ヒューゴは私に助けられていると言ってくれた。けど、やっぱり……。
その夜、私は夢を見た。追放された前のパーティの夢だ。エドワードやエリカの顔が浮かんでは消える。
夢の中、エドワードは私を追放したときのような険しい表情で私に詰め寄る。
「クレア、やはりお前を追放して正解だったよ。まさかこんなに役立たずだとはね」
私は必死で言い訳をしようとするが、言葉が出てこない。
エリカも、あのときのような冷たい視線を向けてきた。
「護衛じゃなくてお荷物だよね、お姉ちゃん。ヒューゴさんにも捨てられるんじゃないの?」
(そう、なのかも……)
「私、ずっとお姉ちゃんのこと嫌いだったよ。ヒューゴさんも、こんなお姉ちゃんのことなんて嫌いになるんじゃない?」
私は夢の中で打ちひしがれる。そんなことないって思いたいけど、私は確かに二人の言う通り、役立たずなのかもしれない。
だから、追放されたのも当然で、ヒューゴの護衛なんてする資格なくて。
(契約は破棄してもらって、新しい護衛を探してもらった方がいいのかもしれない)
エドワードたちの声が反響する中、私の視界は唐突に光で包まれた。
目が覚めると、目の前には見慣れた碧の瞳。ヒューゴが私の顔をのぞき込んでいた。
「すみません、声が聞こえたものですから。魘されていたようですが……」
そっか、夢だったんだ。
窓を見ると、ほの暗い空に光が差し始めていた。朝というには早すぎる。
「ごめんなさい、また迷惑をかけてしまって……」
夢での動揺が続いていたのか、つい涙を流してしまう。ああ、また気を使わせてしまうだけになっちゃう。
「ごめん、本当にごめんなさい。役立たずで……」
新しい護衛を立ててほしい、と言おうとしたけれど、嗚咽で言いづらく、言葉が続かなかった。
この体たらくでは、さすがのヒューゴにも怒られて仕方がない。怖くてあまり顔を見れなかったけど、聞こえた声は予想外に柔らかいものだった。
「クレア。確かに私は貴方を護衛として雇いました。けれど、そんなに過度にプレッシャーを感じてほしいわけではないんです」
私は口を挟まず、ヒューゴを見つめる。
「貴方は追放されたときも今回も、自分を追い詰めがちなようです。でも、こういうのは仕方ないことですから……謝らないで、笑ってほしいんです」
「笑う?」
「ええ。ルドルフもそうですが、商人は笑顔の裏で何も考えているのかわからない者が多い。人のことは言えませんがね。でも、貴方は違う。裏表がなく、接しやすくて……貴方だから、私は護衛として雇ったんです。側にいる人間を疑って旅をしたくはありませんから」
裏表がない、か。
そういえば、昔エリカにも同じようなことを言われたかもしれない。
ヒューゴと違って、裏表がなさすぎて気持ち悪いとか、使えないとか……ショックな内容だったから忘れていたけど。
「それに、私は十分クレアに助けられていますよ。防寒とか常駐の補助魔法も鑑定も。あなたは大したことがないっておっしゃいますけれど、僕には絶対にできないことですから」
(私、エリカのこと引きずりすぎていたのかも……あのときみたいに捨てられたくないからって、ダメなところがないか、もっとやれることがないかってずっと探して)
「ごめん……ありがとう。ヒューゴ」
「いえいえ。お互い様ですし」
(どこかで、ヒューゴに捨てられないように、エドワードたちのようなことにならないようにって、気を張りすぎていたのかもしれない)
ヒューゴは私に水を差し出し、ゆっくりと休むように言ってくれた。
(ありがとう、ヒューゴ)
ようやく、エドワードたちのことを忘れられそうだった。
ルドルフが警備隊に連行されるのを見送り、旅を再開して2日ほど。さっきガルシアに入国したばかりだけど、エーデルランドに比べると少し気温が低くなってきたようだった。
私は少し緊張しながら、対面に座るヒューゴに話しかけた。
「そういえば、もうすぐ目的の街なんだっけ?」
「ええ。イーグルフロストという街ですね。近くに存在する洞窟から良質な素材がとれるらしく、冒険者が多い街です」
(冒険者の多い街か……。ヒューゴだから慣れているだろうけど、ルドルフのときみたいにならないように頑張らなきゃ)
ルドルフがヒューゴに毒を盛ろうとしたとき、つい後手に回ってしまった。
ヒューゴは人から悪意を向けられるのには慣れてるって感じだったけど、なるべくなら嫌な思いはしてほしくない。
って、決意だけはしてるんだけど……。
(なんか、眩暈するかも)
数時間前から、体調があまりよくなかった。
何とかしのげないかと、ヒューゴと一緒にかけている防寒の魔法に加えて、自分に冷却や頭痛軽減の魔法をかけていたけど……こういうのはおまじない程度で、根本的な解決にはならないし。
「クレア、顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫。気温の変化に慣れてないだけだと思うし」
私は強がって笑顔を作った。あまり迷惑はかけたくない。
私の返答を聞いたヒューゴはしばらく何かを考えていたようだけど、やがて口を開いた。
「ガルシアは少し寒いですもんね。この近くに、規模は小さいですが街があるようです。今日は早めに休みましょう」
気を使わせてしまった。私の方が護衛としてヒューゴを守らないといけないのに。
「……ごめん、ありがとう」
そうして、私たちはイーグルフロストより少し手前の街に降りた。
宿で部屋を取り、ベッドに倒れ込む。自分の病態を鑑定してみると、完全に風邪だった。熱は高いけど、感染力は低そうなのは幸いかもしれない。
隣に部屋を取ったヒューゴが、わざわざ様子を見にきてくれていた。
「ごめん、やっぱり風邪みたい。あんまり感染する感じじゃないっぽいんだけど……」
今日の夜にはイーグルフロストにつけるはずだったけど、私の風邪が治るまでこの街に滞在する予定だとヒューゴは言っていた。
「クレア、気に病まないでください。今は体を休めることに集中してください」
「……ありがとう」
ヒューゴはどうしてこんなに優しいんだろう。私は、護衛として役に立てているのかな。
ルドルフにヒューゴが狙われたとき、ヒューゴは私に助けられていると言ってくれた。けど、やっぱり……。
その夜、私は夢を見た。追放された前のパーティの夢だ。エドワードやエリカの顔が浮かんでは消える。
夢の中、エドワードは私を追放したときのような険しい表情で私に詰め寄る。
「クレア、やはりお前を追放して正解だったよ。まさかこんなに役立たずだとはね」
私は必死で言い訳をしようとするが、言葉が出てこない。
エリカも、あのときのような冷たい視線を向けてきた。
「護衛じゃなくてお荷物だよね、お姉ちゃん。ヒューゴさんにも捨てられるんじゃないの?」
(そう、なのかも……)
「私、ずっとお姉ちゃんのこと嫌いだったよ。ヒューゴさんも、こんなお姉ちゃんのことなんて嫌いになるんじゃない?」
私は夢の中で打ちひしがれる。そんなことないって思いたいけど、私は確かに二人の言う通り、役立たずなのかもしれない。
だから、追放されたのも当然で、ヒューゴの護衛なんてする資格なくて。
(契約は破棄してもらって、新しい護衛を探してもらった方がいいのかもしれない)
エドワードたちの声が反響する中、私の視界は唐突に光で包まれた。
目が覚めると、目の前には見慣れた碧の瞳。ヒューゴが私の顔をのぞき込んでいた。
「すみません、声が聞こえたものですから。魘されていたようですが……」
そっか、夢だったんだ。
窓を見ると、ほの暗い空に光が差し始めていた。朝というには早すぎる。
「ごめんなさい、また迷惑をかけてしまって……」
夢での動揺が続いていたのか、つい涙を流してしまう。ああ、また気を使わせてしまうだけになっちゃう。
「ごめん、本当にごめんなさい。役立たずで……」
新しい護衛を立ててほしい、と言おうとしたけれど、嗚咽で言いづらく、言葉が続かなかった。
この体たらくでは、さすがのヒューゴにも怒られて仕方がない。怖くてあまり顔を見れなかったけど、聞こえた声は予想外に柔らかいものだった。
「クレア。確かに私は貴方を護衛として雇いました。けれど、そんなに過度にプレッシャーを感じてほしいわけではないんです」
私は口を挟まず、ヒューゴを見つめる。
「貴方は追放されたときも今回も、自分を追い詰めがちなようです。でも、こういうのは仕方ないことですから……謝らないで、笑ってほしいんです」
「笑う?」
「ええ。ルドルフもそうですが、商人は笑顔の裏で何も考えているのかわからない者が多い。人のことは言えませんがね。でも、貴方は違う。裏表がなく、接しやすくて……貴方だから、私は護衛として雇ったんです。側にいる人間を疑って旅をしたくはありませんから」
裏表がない、か。
そういえば、昔エリカにも同じようなことを言われたかもしれない。
ヒューゴと違って、裏表がなさすぎて気持ち悪いとか、使えないとか……ショックな内容だったから忘れていたけど。
「それに、私は十分クレアに助けられていますよ。防寒とか常駐の補助魔法も鑑定も。あなたは大したことがないっておっしゃいますけれど、僕には絶対にできないことですから」
(私、エリカのこと引きずりすぎていたのかも……あのときみたいに捨てられたくないからって、ダメなところがないか、もっとやれることがないかってずっと探して)
「ごめん……ありがとう。ヒューゴ」
「いえいえ。お互い様ですし」
(どこかで、ヒューゴに捨てられないように、エドワードたちのようなことにならないようにって、気を張りすぎていたのかもしれない)
ヒューゴは私に水を差し出し、ゆっくりと休むように言ってくれた。
(ありがとう、ヒューゴ)
ようやく、エドワードたちのことを忘れられそうだった。
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