[完結]妹にパーティ追放された私。優秀すぎな商人の護衛として海外に行くそうです

雨宮ユウリ

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1章 旅立ち

2 酒場での再会

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私は酒場の片隅にひとりで腰をかけていた。また泣きそうになって、なんとか堪えようとしても、それは難しかった。

お酒のせいにしたくて、運ばれてきたばかりのお酒に手をつける。
もう何杯目だっけ。全然酔えはしないけれど。

(これからどうしよう……)

外を見ると夜が更けていくのがわかった。パーティを追い出され、行くあてもない。小さい頃、両親が病気で死んだ時。その時も今みたいに、どうしていいかわからなかった。

(でも、その時はエリカがいた。エリカを守らなくちゃ、お姉ちゃんなんだから、って思ってたのに)

結局そのあと、村に寄ったエドワードが、私の癒しの魔法を見て、パーティに誘ってくれた。鑑定の魔法はしばらく隠していて、癒しの魔法は今に比べたらほんとにちっぽけで利用価値もないレベルだったのに。

戦えなかったエリカだって一緒に連れて行ってくれて。だから、思っていたよりは悲惨なことにはならなかった。

むしろ、エドワードは頼りになるし、ナンシーと話していると楽しいし。レオンは少し口が悪くて怖かったけど、そんなにパーティ仲は悪くなかったはずだ。仕事もうまく行ってる方だとギルドの人にも褒められてたくらい。

(本当に、どうしてこんなことになったの?)

考えても、答えは出ないし、話をする相手もいない。ついこの前までは、5人パーティだったのに、今はひとりぼっち。

またお酒に口をつけようとした時、後ろから聞き覚えのある声がした。

「クレアさん、やはりここにいらっしゃいましたか」

いつも取引をしている商人、ヒューゴだった。サラサラとした金髪に鋭い碧眼。整った顔だが話せる有能な商人であると様々な町の職人から人気を集めているらしい。

冒険者と職人の仲立ちをするヒューゴのようなタイプの商人は、気難しい職人や粗暴な冒険者と渡り合えるものでないと務まらない。だからあまり人数もいなくて、私も装備品の新調や魔物の素材の売却で頼りにしていた。

杖を安く融通してくれたのも彼……まぁ、そんな彼からのサービスでもらった杖には、身に覚えのないケチがつけられてしまったのだけど。

ヒューゴはいつもより少し疲れた顔をしているように見えたけど、その雰囲気は相変わらず品のあるものだった。お辞儀をし、私の使っていた円卓の向かい側に座った。一人で酔っ払う冒険者の女なんて遠巻きにされていたので、当然ながら席は空いている。

「ヒューゴ、どうしてここに? 珍しいね」

私はなるべく普通の声音になるように意識して言葉を返した。
この街はヒューゴや私たちのパーティがよく訪れる街の一つではあるけど、ヒューゴは普段、商売で忙しくこの酒場にはあまり顔を出さないはず。

……正直、いつも懇意にしている商人といえど、追放された直後で、お酒も入ったこの状況下でいつも通りの対応ができるかは怪しい。

けれど、ヒューゴの調達力は他の商人をはるかに上回る。冒険者だろうが女だろうが見下したり、足元を見たような対応をしないところも好ましかった。身に覚えのないで追放された身とはいえ、変な対応をして彼との関係も絶たれるのは困る。

「実は、……」

いつもは常に何かを喋っているような、まさに商人といった様子の彼が、珍しく言葉を詰まらせている。

「クレアさんがパーティから追い出されたことを聞きました。それで、その。心配で」

(もう、私が追放されたことを知ってるの?! というか、ヒューゴが心配だなんて、明日は槍でも降るのかしら)

ヒューゴの知識や能力は信用しているけれど、あんまり他人の心を慮ったりするような人には見えていなかった。発言はともかく、表情はいつも通りあんまり変わりがなくて、何を考えているのか窺いづらい。

(まぁ、なぜかエリカには嫌われていたみたいだし、エドワードたちには問答無用で追い出されちゃうんだから……。私の判断って信用ならないのかもね)

「ありがとう、ヒューゴ。でも、もう大丈夫だから心配しないで」

一応返答を取り繕っておく。けれど、思いがけず声が震えてしまった。

(あぁ、私って思ったより情けないやつだったのかも)

私の使う鑑定魔法は、私とエリカが生きていけるように、野原とか森に生えてる草花からなるべく価値のあるものや、食べられるものを探したいと強く思った時に編み出せたものだった。

両親が死んでからエドワードのパーティに入るまで、短い間とはいえその魔法を使って生きてきた。私は一人でもやっていける、エリカを助けることができる強さがある、なんて思い込んでいたけど。

(ちょっと仲がいい商人が心配してくれただけでこんなに嬉しく思うくらい、弱い……嫌になっちゃうな)

「そう、ですか。お強いですね。クレアさんは……」

ヒューゴは躊躇いながら続ける。

「私、近々商売で外国へ行かなければならなくなりまして。その際、護衛を雇わなければならないのですが……クレアさん、もしよろしければ、私の護衛をお願いできますか?」

護衛? 確かに、商人が冒険者を護衛として雇うことはよくある。魔物や盗賊の被害が街から街へ移動する商人にとって悩みの種だから。外国へ渡るというなら尚更だろう。でも……。

「ヒューゴ、私を護衛にって、本当にいいの? 追放されるような冒険者だよ」

驚きのあまり、つい大きな声で尋ねてしまう。追放された上、鑑定と癒し、あとは多少支援魔法が使えるだけの私なんて、戦力にはなりそうもないのに。

「実は、あなた方の騒動を見ていた中に知り合いがいましてね。話を聞かせてもらっていたんです。クレアさんが何かパーティの方に不義理を成したというわけではないんでしょう? パーティのお金の横領……一番あなたと取引していた商人として言いますが、しているようには思えません」

(そう。私は本当に何もしてない。ナンシーは信じてくれていたけれど、エリカとエドワード、レオンは私を責めていた。そのことに頭がいっぱいになって、悲しくて、怖くて……)

「信じて、くれるの?」

「もちろんです。それに、私が貴方にお売りしたその杖……それが横領の証拠として利用されたとも聞きました。付け入る隙を与えてしまったようなものです。信じるどころか謝罪したいくらいですよ」

少し疲れているように見えたのは杖を売ったことに責任感を感じていたからかもしれない。ヒューゴは商売における信頼関係を重視するタイプだったから。

(横領なんてしてないし、最初からこじつけだもの。ヒューゴが責任を感じることなんてないのに)

追放された支援系の冒険者を護衛に、か。
やっぱり、ヒューゴは杖のことなんかを気にして私に依頼をくれようとしてるのかもしれない。

「別に、そんなこと気にしなくていいよ。外国への護衛なんて大層な仕事、お情けで依頼するものじゃない。私以外のちゃんとした人選んだ方がいい」

そう言って断ろうとしたけど、珍しくヒューゴが食い下がった。
 
「いいえ、クレアさん。あなたの鑑定の力は唯一無二だ。似たような力を使える商人は多いですが、あなたほどの精度を持つ人はいない。癒しの力もです。倒すだけなら、私も魔法を齧ってはいるのですが、これから行く国は毒が怖いところでしてね……どうか、お願いできませんか?」
 
普段では見ない振る舞いだ。でも、それくらい心配をかけているのかもしれない。冒険者をやめるにしても続けるにしても、支援系の冒険者が急にパーティから追い出されたとなれば、面倒なことにはなりやすいし。

本当は、ちょっと不安もある。どちらかと言えば鑑定と癒しの力が必要みたいだけど、一応護衛なわけだし。だけど私は直接攻撃する魔法の威力は低めで、たった一人しかいない。

(でも、このまま一人で、何もせずに彷徨うのは嫌だし……)

「ヒューゴ。その依頼、受けたいわ」

私は意を決してそう告げた。
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