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1章 旅立ち

1 パーティからの追放

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今日も冒険者ギルドは騒がしい。木製のテーブルと椅子が所狭しと並び、冒険者たちが大声で笑いあっている。

私、クレアはいつものようにギルドにやって来た。

一緒にパーティを組んでいる四人の仲間たちと合流し、新たな依頼を受ける予定だ。

馴染みの商人に安く譲ってもらったばかりの杖を握りしめる。DからS級まであるギルドの階級で、私たちはB級トップ。そろそろAランクの依頼を割り振られる可能性も出てくる頃だ。

ギルドの奥に、見覚えのあるがっしりした戦士を見つける。

短い短髪に高めの身長。いつも頼りにしている所属パーティのリーダー、エドワードだった。

しかし、エドワードは目が合った瞬間、険しい表情を浮かべた。翠色の瞳が細められている。

「クレア、ちょっと話があるんだ。こっちに来てくれ」

(なんだか、雰囲気が違う……?)

私は緊張しながらテーブルへと近づいた。

「どうしたの、エドワード?」

私の問いかけに、彼は少し眉をひそめ、ゆっくりと口を開く。

「クレア、君には悪いが……これからは君と一緒に冒険できない。君をパーティから追放する」

一緒に冒険はできない? パーティから追放?

その言葉を理解するのに、何秒かかっただろうか。

何の前触れもなく、突然の追放。理由も分からず、ただただ驚くしかできなかった。

「どうして?私、何か悪いことをしたの?」

私の声は震えていた。涙があふれそうだけど、必死にこらえる。

エドワードは言いづらそうに沈黙する。代わりに、傍の少女が喋り始めた。

「お姉ちゃんってさ、パーティのお金横領してない? お金の管理はお姉ちゃんの担当だったはずだけど…1人だけみんなよりお金いっぱい使ってる気がしてさ。ほら、その杖も」

私の妹、エリカだった。両親を失ってから二人で支え合って生きてきたと思っていたはずの、大切な妹。その声音が冷たい。
 
私とそっくりの白い髪は、肩までで切っている私と違って長く艶々としていて。青い瞳は私よりも澄んでいる。可愛らしくて優しい、自慢の妹――。

「違うの、私は横領なんかしてない。杖は、いつもお世話になっているヒューゴって商人からちゃんと買ったものよ」

まぁ、彼は常連にサービス、と言ってだいぶ安く杖を用意してくれたみたいだけど……。

最初は申し訳なかったけど、先行投資だとか色々言われると引き下がらざるを得なかった。彼は商人らしく口が上手い。

そんな、後ろ暗いところなんて何もない杖。そう言ったけれど、やっぱり二人からの視線は厳しいままだった。

「クレア、すまないが、今回ばかりは君の言い分を受け入れるわけにはいかない。君の妹でもあるエリカが訴えていることなんだ」

エリカは私を見下ろすように微笑んでいた。

澄んだ青の瞳は、昔に大空のようねって言った時のまま。それが、私を突き刺す氷のように見える。

「エドワードさんにお姉ちゃんのこと相談したらね、お金のことはずっと頼んでてわからないし返してもらわなくてもいいってさ。その代わり、パーティを抜けて欲しいの。だって、信用できない人と冒険なんてできないでしょ?」

(どうして? そんな笑み、見たことない)

もしかして、エリカが嘘をついているの?
言い返すべきなのに、そのショックが大きくて何も言うべきことが思いつかない。

「クレア、やっぱお前、可愛いエリカと血繋がってるとか考えらんねーよな。ぐちぐちうるせえし、横領とかさ。うざいんだよ。これ以上、しがみつかずに消えろ」

口を挟んだのはレオンだ。彼は槍を使って前衛で戦っていて、鑑定と癒しを中心とした支援魔術師の私は、彼の回復をよくしていた。

でも彼は、いつも口は悪くてもこんなにあからさまな敵意を向けてくることなんてなかったのに。

「レオン、それは言い過ぎだよ。それに、エリカ、エドもさ、証拠はあるのかい? 杖だって、クレアは普通に買ったって言ってるじゃないか。いつも世話になってんのに、言い分も聞かないってのはどうなのさ」

ナンシーが庇ってくれる。盗賊として、私と一緒に他の皆をサポートをするポジションだったからか、話す機会も多かった。

「えー、ナンシーさんはお姉ちゃんのこと信じるの? エリカ悲しいな~」

「悲しいとかってのは今は関係ないさ、ちゃんと状況を整理しなって話だ」

「エリカが嘘ついてるっていうのかよ? お前、クレアと仲良かったし、おこぼれもらってんじゃないの?」

勇気を出して反論しようと思っても、どんどん雰囲気は悪くなっていく。このままじゃ、私が追放されるだけじゃすまなくなるかもしれない。

「みんな、もういい。クレア、そういうことだから。今までありがとう」

エドワードが無慈悲に告げた。責任感のある彼は、仲間が揉めているのを放置するわけはない。ないけれど。

(その心配する仲間に、私はもう入ってないのね)

涙が流れそうだった。みんなに見せたくなくて、急いで背を向ける。

「ナンシー。ごめんね、ありがとう。エドワード、エリカのこと、頼むわ。私たちが孤児だった時、あなたがパーティに入れてくれたこと、感謝してるのよ」

強がりでしかない。パーティから抜けて、かつて二人っきりで支え合ってきたはずのエリカすらいない。

それどころか、エリカは多分私のことが嫌いなはず。それこそ、嘘をついて私に汚名を被せるくらいには。

ナンシーとレオンが言い争っている声が聞こえたけど、何も聞きたくなくて走り去る。エドワードとエリカは、なんて言ってたのかな。

そのまま、何も考えずにたまにパーティで利用している酒場に飛び込んだ。


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