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第26話 儀式
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俺は手元に視線を落としたまま、ありありと浮かぶあの光景、あの記憶を打ち消すように女に向けて声を荒げた。
「そんなの聞けばいいだろ!! 本人に……」
皮肉を込めたように言ったものの本心では怖かった。
この期におよんでも、この女の能力とでもいうのか、その言動が単なるオカルトチックなまやかしだと思いたかった。
女が駆け寄って来る気配がした。
「聞けないんです。もう、そんな状態じゃない。話しができる状態じゃないんです。顔だってよく分からない」
「顔が分からない? って何だよ。さっき……写真……見て言っただろ?」
名前を口にするのが憚られ、“美樹の写真”とは言えなかった。
「そういう、なんというか、自分の存在を訴えかける思念みたいなものが伝わってきただけです」
そう言って女がステージを振り返る気配がした。
「姿ももう……人の形はしてるんですけど……」
そう言い淀んだ後、何かを理解したように女が言った。
「そうか……自殺……自殺したんですね?」
そして、ステージの方へ女の声が遠ざかっていった。
「まずいな……ちょっと、やってみます」
やってみます? 何をやるというんだ――?
俺がおそるおそる顔をあげると、女はこちらに背を向けたままテーブルをひきずって移動し始めていた。
「人が入ってこないようにしてください! 看板を消して、鍵もかけて!」
言われたとおりスイッチを切ろうとラックの傍に行くと、アンプの上のフォトフレームが視界に入った。その写真の中の人物はまっすぐ俺を睨みつけているように見えて、俺は息をのんだ。
ドアの外にかけた『OPEN』の札を『CLOSE』にしようと、ドアに駆け寄りノブを回した。
「開けないで!」
女が声を上げたので俺は慌てて閉めた。
まずかった? 大丈夫か――?
俺は確認するように女を振り返ったが、女は頷いただけだった。このまま逃げ出したかったが、震える手でドアに鍵をかけた。
「早く戻って!」
女はこれまでとはうって変わり、鬼気迫るような雰囲気を放っていた。
俺はいつの間にか女が命令口調になっているのに気づき、それを少し不愉快に思いながらカウンターに戻った。
この期におよんでも俺は女を疑いたかったが、麻衣の件といい、この女の言動や振る舞いが、ある程度事実を把握しているものであったため従っておくことにした。
女は、ちょうど俺とステージの中間あたりにテーブルを並べて配置すると、その上にバッグから出した数珠やら蝋燭やら札のようなものをいろいろと並べはじめた。
「まずいなぁ……」
女が呟いた。
「なんだよ。どうしたんだよ」
「いえ、怒りの念が…… あなた、いったい何をしたんですか?」
「な、何もしてないぞ、俺は……」
そうだ、俺はただ結婚を暗に拒んだだけだ。
それの何が悪い?
死んだのだって美樹が自分で選んだことだろ?
俺は恨まれるような事をしたか?
いやしていないぞ。
俺はただ、結婚するつもりはない、という意思表示をしただけだ。
女は、数珠を絡めた右手を額の上あたりに掲げて言った。
「そこから絶対動かないでください! 私が、いい、って言うまで!」
俺は無言で頷き固唾を飲んだ。
「そんなの聞けばいいだろ!! 本人に……」
皮肉を込めたように言ったものの本心では怖かった。
この期におよんでも、この女の能力とでもいうのか、その言動が単なるオカルトチックなまやかしだと思いたかった。
女が駆け寄って来る気配がした。
「聞けないんです。もう、そんな状態じゃない。話しができる状態じゃないんです。顔だってよく分からない」
「顔が分からない? って何だよ。さっき……写真……見て言っただろ?」
名前を口にするのが憚られ、“美樹の写真”とは言えなかった。
「そういう、なんというか、自分の存在を訴えかける思念みたいなものが伝わってきただけです」
そう言って女がステージを振り返る気配がした。
「姿ももう……人の形はしてるんですけど……」
そう言い淀んだ後、何かを理解したように女が言った。
「そうか……自殺……自殺したんですね?」
そして、ステージの方へ女の声が遠ざかっていった。
「まずいな……ちょっと、やってみます」
やってみます? 何をやるというんだ――?
俺がおそるおそる顔をあげると、女はこちらに背を向けたままテーブルをひきずって移動し始めていた。
「人が入ってこないようにしてください! 看板を消して、鍵もかけて!」
言われたとおりスイッチを切ろうとラックの傍に行くと、アンプの上のフォトフレームが視界に入った。その写真の中の人物はまっすぐ俺を睨みつけているように見えて、俺は息をのんだ。
ドアの外にかけた『OPEN』の札を『CLOSE』にしようと、ドアに駆け寄りノブを回した。
「開けないで!」
女が声を上げたので俺は慌てて閉めた。
まずかった? 大丈夫か――?
俺は確認するように女を振り返ったが、女は頷いただけだった。このまま逃げ出したかったが、震える手でドアに鍵をかけた。
「早く戻って!」
女はこれまでとはうって変わり、鬼気迫るような雰囲気を放っていた。
俺はいつの間にか女が命令口調になっているのに気づき、それを少し不愉快に思いながらカウンターに戻った。
この期におよんでも俺は女を疑いたかったが、麻衣の件といい、この女の言動や振る舞いが、ある程度事実を把握しているものであったため従っておくことにした。
女は、ちょうど俺とステージの中間あたりにテーブルを並べて配置すると、その上にバッグから出した数珠やら蝋燭やら札のようなものをいろいろと並べはじめた。
「まずいなぁ……」
女が呟いた。
「なんだよ。どうしたんだよ」
「いえ、怒りの念が…… あなた、いったい何をしたんですか?」
「な、何もしてないぞ、俺は……」
そうだ、俺はただ結婚を暗に拒んだだけだ。
それの何が悪い?
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俺は恨まれるような事をしたか?
いやしていないぞ。
俺はただ、結婚するつもりはない、という意思表示をしただけだ。
女は、数珠を絡めた右手を額の上あたりに掲げて言った。
「そこから絶対動かないでください! 私が、いい、って言うまで!」
俺は無言で頷き固唾を飲んだ。
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