浮かんだノイズ

吉良朗(キラアキラ)

文字の大きさ
上 下
5 / 32

第5話 その女…月

しおりを挟む
「お待ち合わせですか?」 
 俺はたずねた。
 すると、女は逡巡しゅんじゅんするように少し目を泳がせた。
「あー、いいえ」

「何にしますか?」
 俺がくと、女は呆気あっけにとられたような表情を一瞬見せた。
「あ、ああ、じゃあ……」
 そう言って女は俺の背後にある酒瓶さかびんが並ぶラックに視線を走らせた。
「アップルジュース……って、ありますか?」

 俺は、腐るものをそんな所に置くわけないだろう、と思いつつ、酒場にやや強引に入ってきたわりには、注文がソフトドリンクだったので拍子抜ひょうしぬけした。
「ああ……ありますけど……あれ? 失礼ですけど、もしかして未成年ですか?」

 未成年であったとしても、酒類を出さなければ法律的には問題ないはずなのだが、以前は美樹みき意向いこう二十歳はたち未満は入店自体をことわっていた。
 正直、俺はどうでもいいと思っていたし、今更となってはなおのこと美樹の意向を守る必要もなかったのだが、それでもいてみたのは、正直単なる興味からだった。

「あー、二十歳はたちです」
 女はそう言うと、学生証を出してこちらに向けて来た。

 俺は好奇心をさとられないように何気ないふうをよそおって確認した。
 学生証はここからほど近い場所にある大学のもので、名前のらんに『神和住月・・・・』とあった。

カミワズミルナ・・・・・・・です」
 女は、俺の心中しんちゅうさとったかのように名前の仮名がなを言った。

 生年月日を見る。一応、計算してみたが確かに二十歳はたちだった。
「ありがとうございます」
 俺は、そう言って学生証を返した。

 女が学生証をバックに戻したタイミングで、木村が外から戻ってきた。
 俺はアップルジュースをそそいだグラスを女の前に差し出した。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 俺は女に軽く微笑ほほえみ返してうなずくと、外看板そとかんばんあかりをけるために、酒のラックが並ぶ壁の端にある電源スイッチを入れた。
 その時、ラックのはしの段に、木村が置いたまま忘れているデジタルフォトフレームがあるのに気がついた。

 ラックの端の段にはオーディオシステムのプリアンプがあり、俺はその上に美樹の写真が映るデジタルフォトフレームを飾っていたのだが、それを木村が真似をしてとなりに置いたものだった。
 ただ、美樹だけが映っている俺のものとは違い、木村のフォトフレームには一年ほど前まで木村の恋人だった、麻衣まいと木村のツーショット写真が複数枚、次々と変化して表示されるものだった。

「おい、これ、いいのか?」
 俺は、デジタルフォトフレームを手にとって木村の方に差し出した。
「あ、忘れてた」
「忘れてた、じゃないだろ」

 木村は俺からフォトフレーム受け取ると、フレームの横にあるスイッチで電源を落としてからスーツケースに入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...