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転移

一日の終わりに

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「あのぅ」
「なんでしょう勇者様!」
「勇者ではないですね」
「失礼、鉄次郎さん!」

 勇者と呼ばれていっそう落ち込む。年老いた体では世界など背負えない。

「申し訳ないのですが、私は私なので、勇者のような立派なことは出来ないかと思います」
「ああ、つい先走ってしまいました。こちらこそ申し訳ありません。今は魔王がいるわけでもないですし、鉄次郎さんの好きに生活してくださって結構ですので」
「よかったです」
「もしも困り事が起きて、鉄次郎さんに出来ることだった場合はお手伝い頂く、このくらいは可能ですか?」
「それくらいなら」

 了承したところで、もう少し考えてから答えたらよかったと後悔したが、まあ早々に困り事は起きないだろう。今思いつくのは兵力が衰えてきている程度か。しかしそれも、一人の力ではどうしようもない。もっと沢山の──。

──沢山の兵力、か。それならあそこの。

 考える。確率で言えば、不可能に近い。シルアの話が本当ならば危険も伴う。しかし、思いつくのはそれくらいで。

──おいおい考えるとして、まずは己の身だな。

「いやぁ、今日は良いこと尽くめですね。そうだ、お疲れのところを引き留めて申し訳ありませんでした。あとは部屋でゆっくりしてください」

 皇帝たちに途中まで見送られ、ようやく今日の用事が全て終了した。
 医者に診てもらうのは明日以降ならいつでもいいとのことだったので、明後日を希望した。いつが週末か分からないが、毎日が日曜日なので問題無い。
 明日は家を建てる材料が届くため、一日空けておきたかった。

「さて、忙しくなるぞ」

 長い長い一日が終了した、かに思われたが、夕食でも皇帝が乱入するという事件が勃発した。夜まで気の抜けない日となった。

 もらった紙を引き出しから出し、日記を記す。孫への手紙は毎日書いたら渡す時引かれてしまうので、普段のことは別に日記を書くことにした。これならいつか本当に認知症がやってきても、面白おかしく過去のことを思い出しつつ過ごせるだろう。

「初日から書くことが沢山ある。これは飽きない日々を送れそうだ。皆には会えないが、いつかまた、再会出来る日を願おう」

 遅くまで起きているとついつい寂しさを抱えてしまう。鉄次郎は早々と寝ることにした。時刻はまだ二十一時半である。

「おやすみなさい」
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