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転移

魔法と異能力

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「まずは食事をしよう。静かに。いいね」
「はい」

 皇帝が窘め、ようやく静寂が生まれた。さすがは皇帝、皇后すらも黙らせた。しかしシルアは知っている。謁見の際にある程度の情報を得ているから落ち着いていられるのだと。
 黙るとさすがは高貴な生まれ。ルルまでしっかりとした手つきで食事をしている。鉄次郎は不安になりながらも、周りと合わせつつ慣れない食事を終えた。

「ごちそうさまでした」

 おとなしく待てをしていた皇帝以外は、この合図を持って解き放たれた。
 たいていはシルアたちにされた質問と似ていたが、異能力については鉄次郎自身答えることが出来なかった。

 まず、異能力というものが分からない。魔法とは違うらしい。魔法は持って生まれた素質があり、それをさらに高めて自由自在に操れるようになるのが魔法士であるが、異能力は呪文も何も無くても発揮出来る特異な能力で、異人であればほとんどの人間が持ち合わせているのだという。

「異能力か……まだ着たばかりだから、なんとも」
「鉄さん、多分持ってるよ! ゴブリンキングをやっつける時、刀が光って、鉄さんが若返ったの!」
「若返った……?」

 自分の身に起きたことながら、俄かには信じ難い。しかし、シルアが嘘を吐く意味もないので、本当なのだろう。

「おおお! ついに我が国を救う救世主が!」
「いえ、私はただの一般人ですから」

 鉄次郎が異能力を持っているかもしれないということで、皇帝たちが盛り上がり出してしまった。当の本人が一番出遅れている。

「家の建設は明日からでしょうから、午後は鑑定士の所へ行きましょう」
「鑑定士とは?」
「魔法の素質を測る者たちのことです。異能力についても調べられますよ」

 いつの間にか流れで大それたことになってしまった。

 はっきり言って、生まれてこの方七十年間、超能力の類を持っていると思ったことは一度も無い。それとも、異世界に迷い込んだ時に異能力を自動的に付与されるのだろうか。いったい誰に?
 何にせよ、「この者は魔法の素質も異能力も一切持ち合わせていません」と言われて、しょんぼり帰ることだけは避けたいと思った。周りをがっかりさせてしまう。しかも、相手はこの国で一番偉い人物だ。

──小石を動かす能力とかでいいので、一つでも何かありますように……!

 鉄次郎は心の中で強く願った。
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