そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

文字の大きさ
上 下
7 / 43
転移

皇帝のお礼が重すぎる

しおりを挟む
「どうした? 腹でも痛いのか?」
「いいえ……ナンデモアリマセ……ありますぅ!!!」

 鉄次郎の服を両手で掴み、シルアが訴えた。

「ここは君の家だろう? そんな顔をして、何かまずいことでも?」
「うう……お父様が、お父様が……」
「父上が……?」

 もしかして親子関係が悪いのだろうか。兄妹が沢山いると言っていたから、普段から蔑ろにされているとか。そうならば、微力ながら手助けしなければ。そう決意した鉄次郎の前でシルアが告白した。

「すッッッッッごい怖いんです!」
「怖い、もしやぎゃくた」
「私が皇女教育サボるからすぐ怒るんですぅぅ!!!」
「当たり前のことだった」

 全然虐待じゃなかった。蔑ろにされていなかった。ちゃんと教育を受けさせてもらえているし、シルアが勉強しなければ叱る。しっかりした親ではないか。話というものは最後まで聞かないと分からないことが多い。鉄次郎は頷いた。

「うむ。若い時に教育を受けたり教養を身に着けておかなければ困る時が来る。怖いかもしれないが、反省して勉強しよう」
「うええ、鉄次郎さんに言われたらやるしかないぃ」

 項垂れるシルアを宥めていたら、キリが戻ってきた。後ろにがっしりした体格の中年男性と細身の男性がいる。服装からして中年男性が皇帝らしい。

「待たせて失礼しました。ソードフル皇帝のフォルド=ソードフルです」

 皇帝にしては気さくで、愛想の良い笑顔を浮かべて握手を求めてきた。もちろん断る理由は無い。

「岡村鉄次郎です。こちらこそ、たいしたことはしておりませんが」
「いえいえ、命の恩人と伺っています」

 五十を過ぎた頃だろうか。それでも鉄次郎より一回り以上若い。のどかな国の雰囲気を見る限り、良い皇帝なのだろう。

「お父様。鉄次郎さんは異人なんです」
「なにぃ!?」

 異人の言葉にフォルドが前のめりになった。そういえば、異人と言われていたと思い出す。異世界から来た人ということは、やはりこの世界に日本は存在しないのか。元に戻る術はあるのだろうか。子どもや孫に会えないのは非常に辛い。非常に。
 公の場で目頭が熱くなる。鉄次郎は口を引き締め、必死に涙を耐えた。

「鉄次郎さん。それは真ですか!」
「いえ……気付いたら草原にいただけなので、私にはさっぱり」
「気が付いたら、草原……」

 フォルドが腕を組み考える。すぐに顔を上げ、手を叩いた。

「それでは、鉄次郎さんの家を用意しますので、原因が分かるまでそちらに住まわれてはどうでしょう。シルアのお礼もしたいですし」
「そ、それはあまりにももったいないお言葉で」

 家を用意だなんて、シルアの提案よりもすごいことになってしまった。鉄次郎は恐縮するが、フォルドがぐいぐい来るため、無下にも出来ずついには頷いてしまった。

「よかったです。ではすぐ準備に取り掛かりますね」
「有難う御座います」

 にこにこ満足そうにフォルドが帰っていく。その足が一瞬止まった。

「それはそうと、シルア、今日の分サボっただろう。明日三倍やるように」
「うほぉぉ……しょ、承知しました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝
ファンタジー
 ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。  今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。  何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする! ※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける) ※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^ ※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...