なにものでもないぼくたちへ

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自由とは

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「堂本さんは唄さんのこと詐欺師って言ったんです。難しいと思います」

 僕はそのまま店を出た。一度も振り返らなかったので、堂本さんがどんな顔をしているのかは分からない。でも、きっとこれでよかった。唄さんにも堂本さんにも。

 帰宅後、気を取り直して朝川さんにメッセージを送った。

 もしも距離を置くことが二人以外の誰かに言われたことが関係しているのなら、それは気にしないでほしいこと。それで朝川さんが悪く言われるのなら、僕が直接言いに行くから教えてほしいことを伝えた。

 既読は十分で付いて、返信は三十分後だった。

『理由を言わずにごめん。頼田君が予想していることでだいたい合ってるよ。私は最初から嫌われてるから平気だけど、頼田君を巻き込みたくなかったの』

 それを読んで僕は勝手にショックを受けた。

 嫌われるのが平気なんてことがあってたまるか。でも、僕だって朝川さんがどんなあだ名を付けられているか知っていた。そこに目を向けず、僕だけが朝川さんと仲良くなれて嬉しいとか、とんだ子どもだった。

 朝川さんがみんなと仲良くしたいわけではないのなら、それでいい。ただ、嫌われていることが日常なのはとても怖い。

 どうして、朝川さんを嫌うのだろう。

 みんなと話さないから?

 常にマスクをして顔を隠しているから?

 でも、彼女からみんなに何か攻撃的なことを言うわけでもしているわけでもない。

 本当の朝川さんを知ったら、みんなも態度が変わるだろうか。ただ、それを朝川さんに言う権利は僕に無い。朝川さんはああしたくてしているだけ。こうしたらいいと強要するのはまた違う。友人の範囲を超えないアドバイスくらいだったら許されるかもしれないけど。

 朝川さんが変わりたくなったら変わればいい。変わりたくなければそのままでいい。僕はどちらでも朝川さんとして友だちでいる。

 そう考えると、みんなが嫌うのも自由と言えば自由なのか。それを態度に出さなければいいんだ。人の好みは存在する。僕だって嫌な人はいる。堂本さんとか。まあ、嫌いというよりなんか変な人ってくらいだけど。人間関係って難しいなぁ。

 とりあえず、言ってくれたお礼と、学校では挨拶だけに留めてそれ以外では遊ぶことになった。それで言ってくる人のことは報告してくれるらしい。だいぶ譲歩してくれて感謝だ。

 唄さんはすごい。話を聞いただけで僕よりずっと理解していた。僕も歌さんみたいに、自由で、強い人になりたい。

 せめて、家族には秘密の無い人間に。

「……そう思うのは簡単だけどね」

 僕自身、素直になれないのに、人をどうこう言うのはきっと間違っている。
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