なにものでもないぼくたちへ

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花束の人

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「もう~、わざわざアポ取ってくれるなんて嬉しすぎ! 尚なんか尚ママから頼まれた用事がなければ絶対来ないのに」

「どうも、お忙しいのに連続ですみません」
「いいのいいの! 可愛い子はいつでも大歓迎!」

 予定の時間に唄さんを訪ねると、予想外に大歓迎された。ジュースまで出されてしまった。こちらの都合なのに申し訳ない。

「何か話があるんでしょう? お客さん来ないうちに話しちゃって。そのあと店内見てくれたらいいから」
「はい」

 ジュースを一口飲む。勢いで来たけど、いざ悩み相談となると、若干の後悔も生まれる。もし、そんなの真琴君が悪いに決まっていると言われたら立ち直るのにしばらくかかる。

「実は──」

 僕は先日言われたことを、できる限り詳細に説明した。

「なるほどねぇ……」


 唄さんが神妙に頷く。考えごとをする仕草も様になっている。格好良い。

「知らない女子と話した直後に言われたのね」
「はい」

「その女子は朝川ちゃんに何か怒っていたと」
「はい」

 もう一度唄さんの「なるほどねぇ」を頂く。唄さんには答えが見えているらしい。あの場にいたはずの僕が全然理解していなくて、だいぶ情けない。体がどんどん縮こまっていく。

「多分、多分よ。私はそこにいなかったから」
「仮説で十分です。駄目な僕にはお手上げなので」

 両手を上に挙げる。唄さんが眉を下げて笑った。

「その女子が関係してるんじゃないかと思うわ。例えば、真琴君に近づかないでって言われたとか」
「なんで、そんな……?」

 知らない女子なのに?

 僕のキャパシティを超えた答えに頭が全く追いつかない。唄さんがずい、と顔を近づけて言った。

「きっと、その女子は真琴君とお話がしたいんじゃないかしら」
「名前も知らないのに?」

「あら、それは真琴君がでしょう。向こうはよく知っているかもしれないわ」
「でも、それなら僕に話しかけてくれれば済むのに」

 それがもし本当なら僕と女子二人の問題なのに、そこに朝川さんを巻き込むなんて。僕は少し捻くれた気分になってしまった。

「普段、女の子と話したりする?」
「します。僕から話しかけることは少ないけど」

「それが羨ましかったんじゃないかしら。真琴君から話しかける数少ない女子が朝川ちゃんだから」
「うう~ん。分かったような分からないような」

 腕組みをして首を傾げると、唄さんはケラケラと楽しそうに笑った。僕が真剣に考えているのに。

「唄さん!? そいつ、いや、その男の子は……?」

 そんな時、ドアの方から男性の焦った声が届いた。

 振り向くと、例のサラリーマンが立っていた。僕は目を大きく見開いて立ち上がった。

「なんで貴方がここに」

 自分でも低い声が出てしまった。嵐が唄さんを襲おうとしているのではないかと思ってしまったから。サラリーマンが眉間に皺を寄せる。

「君と会ったことがあったかな」
「あ、いえ、勘違いだったみたいです。すみません」

 そういえば、僕の方は何度も見かけた上横柄な態度で印象に強く残っているけれど、相手からすればたまたま話しかけた人間の一人だ。覚えていないのも無理はない。

「堂本さん、いらっしゃい。今日は何か御用で?」
「堂本さん?」
「そう、この前お花頂いた方よ」

──堂本さんがこの人だったの!?
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