なにものでもないぼくたちへ

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交換

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「じゃあ、交換」

 外で朝川さんが袋を差し出す。僕も朝川さんに渡す。

 僕のが彼女に、彼女のが僕の手に。

 予定とはちょっと違ってしまったけど、朝川さんとお揃いが出来て素直に嬉しくなった。

「あっちの公園行っていい? チャーム付けたい」

 朝川さんが言うのは、例の公園だ。あそこはあまり良い思い出が無い。でも、元凶はいないからいいか。

「いいよ」

 公園へ向かっている時、サラリーマンとすれ違った。

──え!?

 まさかと思って振り返る。後ろ姿だから絶対とは言えないけれど、あの人だった。

 なんでまた。唄さんに用事でもあるのか。止めてくださいと言いたかったけど、唄さんのお店に行くかどうか分からないし、ただ歩いているだけなのに文句を言うのはさすがに失礼だ。

 万が一があっても、寺西さんも一緒だから大丈夫だろう。

 どうせなら堂本さんと鉢合わせして追い返してくれないかな。罪もない堂本さんが気の毒か。

 少しのもやもやを残しつつ、公園に着いた。前回と違って休日だから家族連れが何組かいた。滑り台やブランコは満員だったけど、運良くベンチが空いていた。

 朝川さんが袋からチャームを取り出し、黒のバッグに付ける。

「宝石みたい。ありがとう」
「バッグによく似合ってるね。僕はどこに付けようかなぁ」

 持ってきた荷物をあれこれ見て、定期券を入れているカードホルダーに付けた。

「ホルダーが紺だから、良いアクセントになってる。素敵」
「ありがとう」
「こちらこそ」

 顔を見合わせて笑う。穏やかな友情が心地良い。

「ね、唄さんのお店気に入っちゃった。またお小遣い貯まったら買いに行こう」
「そうだね。僕もバイト始めたら、また買いたいな」

 すると、朝川さんがこちらに顔を近づけて言った。

「じゃあ、今日遊びの帰りにバイト募集しているところ探そっか。家と学校の近所、どっちがいい?」
「急だね。そうだな、土日やる時行きやすいように地元がいいかも」
「オッケーオッケー、良いところ見つけよ」

 歩くたびにホルダーの宝石がキラキラ光る。太陽の光が反射して、辺りも輝く。一つ買って、一つもらっただけでこんなに嬉しくなるなんて。横を見ると、僕があげた方も同じだった。

 駅を移動して、二人でコスメを見て回った。

 お互いに似合うリップをプレゼンしたり、新商品だというアイシャドウを試し塗りしてみた。最後に、プチプラのアイブロウを買った。眉を整えたところだし、今後必要かもしれないので。

「一つ買うごとに、幸せが増えていく感じ。お金は減ってるのに変だね」
「変じゃないよ、みんな一緒。私も」
「一緒かぁ。それはいいなぁ」

 実に平和で、ささやかなものを感じ取れる世界。そこにいられるのは幸運だと思う。

 今までの日々も幸せだったと思うけど、僕に新しい色を与えてくれたのは目の前の朝川さんだ。

 朝川さんも、僕との出会いで何かを得られていたらいい。

 これからもこんな毎日が続きますように。
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