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ごめんなさい
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教室の少し手前で別れる。
朝川さんと遊ぶ約束をしてしまった。しかも、朝川さんの家らしい。まあ、彼女の服とか見せてもらうから行くしかないんだけど。いいのかな。
「おかえり」
「ただいま」
教室に戻ると壮介に話しかけられた。悪いことはしていないのにどこかよそよそしい声で返してしまった。ごめん、壮介。
「五時間目の宿題やった?」
「おう、今日はばっちり」
「よかった」
壮介もやれば出来るんだから毎回ちゃんとやればいいのに。きっと部活が忙しくて夜早く寝ちゃうんだろうな。
朝川さんと話せたことでなんだか気が抜けて、五時間目六時間目はぼーっと過ごした。英語の読みが当たらない日でよかった。
放課後になり、僕はグラウンドに向かった。今日は部活がある。というか、昨日がイレギュラーだっただけだ。だからあんな気分になったんだけど。
「お疲れ~」
テニスコート脇にテニス部員が集まっていた。僕もその輪に加わる。テニス部は男子が二十六人、女子はもう少しいる。男女で別れているので正確な人数は分からない。
中学からの流れでテニス部に入ったけど、それなりに楽しい。顧問の先生が厳しいわけじゃないし、県大会まで行くくらいの強豪じゃないからのんびり出来る。水曜日が休みなことが多く、土日もどちらかの午前中しかない。
部活に全力したい人にはいまいちかもしれないけど、これくらいが僕にはベストだ。
練習試合以外は学校のジャージだから特別な着替えも無くて楽。運動部だから疲れるし筋肉痛になることもあるけど、そこは部活の醍醐味ってことで。
大学は運動サークルに入るつもりはないから、こうして青春するのも高校までか。部活以外の青春も見つけたいなぁ。
一時間半汗を掻き、部活が終わった。もう夏になるから暑い。特に今日は風が吹いていないから余計に。
毎日十八時に部活が終わる。基本的にはそのまま帰宅するから、十八時台には家に着ける。今日もそのコースだ。
「ただいま」
鍵を開けて家に入ると、玄関まで良い匂いが漂ってきた。お、焼肉かステーキかな。育ち盛りだからやっぱり肉料理だとテンション上がる。
「おかえり。手洗ってね」
「もう洗ったよ」
リビングではキッチンでお母さんがせわしく動いていた。もうすぐお父さんも帰ってくる。せめてもと食器をテーブルに運ぶ。これだけじゃ家事を手伝ったことにはならないだろうけど、文句を言われたことはないから甘えている。
三十分もしないうちにお父さんが帰ってきて夕食となった。
「今日はステーキが安かったの」
予想通りステーキだった。塩コショウのシンプルな味付け。それが好き。三百グラムはいける。
「今日も良い食べっぷりね」
「部活で動いたから」
「そりゃいい」
お父さんが歯を見せて笑った。
笑うと結構皺がある。いつからだろう。お父さんも年を取ったんだな。あと少しで五十歳だもんね。
正社員で毎日働くお父さん。パートと家の家事で毎日大変なお母さん。二人のおかげで僕は安心して毎日を送っていられる。二人を悲しませることはしたくない。したくないのに、僕がしたいことはきっと二人を悲しませる。
別に女の子になりたいわけじゃない。なのに、可愛いものが好きで、可愛いものを着たいと思う。男なら男の恰好をしていれば何も言われないのに。自分でも全然分からない。この変な思考を切り捨ててゴミ袋に投げ捨てられたらどんなにいいか。
「ごちそうさま」
食べ終えてさっさと二階に上がる。部屋に入れば少しだけざわざわした気持ちが落ち着いた。
週末、僕は秘密を初めて形にする。お父さん、お母さん、ごめんなさい。
朝川さんと遊ぶ約束をしてしまった。しかも、朝川さんの家らしい。まあ、彼女の服とか見せてもらうから行くしかないんだけど。いいのかな。
「おかえり」
「ただいま」
教室に戻ると壮介に話しかけられた。悪いことはしていないのにどこかよそよそしい声で返してしまった。ごめん、壮介。
「五時間目の宿題やった?」
「おう、今日はばっちり」
「よかった」
壮介もやれば出来るんだから毎回ちゃんとやればいいのに。きっと部活が忙しくて夜早く寝ちゃうんだろうな。
朝川さんと話せたことでなんだか気が抜けて、五時間目六時間目はぼーっと過ごした。英語の読みが当たらない日でよかった。
放課後になり、僕はグラウンドに向かった。今日は部活がある。というか、昨日がイレギュラーだっただけだ。だからあんな気分になったんだけど。
「お疲れ~」
テニスコート脇にテニス部員が集まっていた。僕もその輪に加わる。テニス部は男子が二十六人、女子はもう少しいる。男女で別れているので正確な人数は分からない。
中学からの流れでテニス部に入ったけど、それなりに楽しい。顧問の先生が厳しいわけじゃないし、県大会まで行くくらいの強豪じゃないからのんびり出来る。水曜日が休みなことが多く、土日もどちらかの午前中しかない。
部活に全力したい人にはいまいちかもしれないけど、これくらいが僕にはベストだ。
練習試合以外は学校のジャージだから特別な着替えも無くて楽。運動部だから疲れるし筋肉痛になることもあるけど、そこは部活の醍醐味ってことで。
大学は運動サークルに入るつもりはないから、こうして青春するのも高校までか。部活以外の青春も見つけたいなぁ。
一時間半汗を掻き、部活が終わった。もう夏になるから暑い。特に今日は風が吹いていないから余計に。
毎日十八時に部活が終わる。基本的にはそのまま帰宅するから、十八時台には家に着ける。今日もそのコースだ。
「ただいま」
鍵を開けて家に入ると、玄関まで良い匂いが漂ってきた。お、焼肉かステーキかな。育ち盛りだからやっぱり肉料理だとテンション上がる。
「おかえり。手洗ってね」
「もう洗ったよ」
リビングではキッチンでお母さんがせわしく動いていた。もうすぐお父さんも帰ってくる。せめてもと食器をテーブルに運ぶ。これだけじゃ家事を手伝ったことにはならないだろうけど、文句を言われたことはないから甘えている。
三十分もしないうちにお父さんが帰ってきて夕食となった。
「今日はステーキが安かったの」
予想通りステーキだった。塩コショウのシンプルな味付け。それが好き。三百グラムはいける。
「今日も良い食べっぷりね」
「部活で動いたから」
「そりゃいい」
お父さんが歯を見せて笑った。
笑うと結構皺がある。いつからだろう。お父さんも年を取ったんだな。あと少しで五十歳だもんね。
正社員で毎日働くお父さん。パートと家の家事で毎日大変なお母さん。二人のおかげで僕は安心して毎日を送っていられる。二人を悲しませることはしたくない。したくないのに、僕がしたいことはきっと二人を悲しませる。
別に女の子になりたいわけじゃない。なのに、可愛いものが好きで、可愛いものを着たいと思う。男なら男の恰好をしていれば何も言われないのに。自分でも全然分からない。この変な思考を切り捨ててゴミ袋に投げ捨てられたらどんなにいいか。
「ごちそうさま」
食べ終えてさっさと二階に上がる。部屋に入れば少しだけざわざわした気持ちが落ち着いた。
週末、僕は秘密を初めて形にする。お父さん、お母さん、ごめんなさい。
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