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青年の正体

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「おはぎ様、お早う御座います」
「きたのさん! いらっしゃい」
「わざわざ有難う御座います」

 約束を守ってくれた北野が朝からやってきた。早朝から遊ぶ気満々だったおはぎは、清麻呂からもらった服の中から自分で選び、仙に着せてもらって待機していた。さすがの仙もおはぎには冷たく当たらず、良い保護者の一人でいてくれている。

「すみません、お忙しいのに」
「いえ、私も毎日同じ仕事ばかりで飽きるので、良い気分転換になります」

 子どもですら遊びの種類は限られているため、仕事をする大人にとって持てる趣味はほとんど無いに等しい。貴族も歌会を開くばかりだ。そう思えば、おはぎと遊ぶのも世辞ではなく楽しみにしてくれているのかもしれない。

「何をしましょうか」
「なわとびする。みてて」
「分かりました」

 昨日始めたばかりのなわとびを披露する。まだ二回しか連続で跳べないが、自信たっぷりに跳ぶ姿に北野が拍手を送った。

「昨日も拝見しましたが、素晴らしいです。私には到底出来ません」
「きたのさんもできる。れんしゅう」
「では、次は動きやすい服で参りますね」

 微笑ましい光景に癒されながら、清仁がお菓子を盆に載せて戻ってきた。

「休憩にしよう」
「おかし!」

 もちろん、このお菓子はお散歩おじさんが持ってきてくれたものだ。孫が出来たと喜んでいる彼は、最近おはぎにお菓子を持ってくるようになった。元々の性格からして甘やかして我儘になるとは考えていないが、舌が肥えてしまうのでそろそろ頻度を少なくしてもらおうと思っている。

「こんな高級なお菓子を恐縮です……!」
「もらいものなので、遠慮なく召し上がってください」
「恐れ入ります」

 五体投地する勢いで礼を言いながら、北野が震える両手でお菓子を手に取った。たまの楽しみになるかと思ったが、もしかしたら彼女にとっては高級だとストレスになってしまうかもしれない。今度はもう少し親しみのある食べ物にしてみよう。

「いただきます」

 はむはむ食べ出したおはぎに続いて北野も口にする。食べてくれてよかった。

「おいしい」
「美味しいですね」

 最後まで食べ切り、きちんとごちそうさまが出来たおはぎが立ち上がる。北野が声をかける。

「また遊びますか?」
「うん。うさぎになる」
「兎ですか?」
「あわわわわわ」

 近くで会話を聞いていた清仁が走り寄り、高速でおはぎを抱っこする。

「あはは~兎ごっこか~兎好きだもんね」
「あるじ」

──おはぎちゃん! いきなり兎に変身したら、北野さんびっくりして倒れちゃうかもしれない。今は我慢しよう!

 目の前で説明が出来ないので、心の中で一生懸命おはぎに向けて念じる。こんなことしたことがない。伝わるか分からない。しかし、そうするしかなかった。

「はっそうか……うさぎごっこ、する」

──通じた!?

 まさか通じるとは。しかし、危機を脱することが出来てよかった。

「ぴょん。ぴょんッ」

 苦し紛れに言った兎ごっこをどうやってしようか思案していたら、空気を呼んだおはぎが兎の真似をして清仁の周りを跳び出した。可愛さが限界を突破し、清仁は目元に涙が滲んだ。横を見たら、北野も瞳を潤ませていた。親バカ二号爆誕である。
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