57 / 66
青年の正体
5
しおりを挟む
人間とは怖いもの見たさで危険を冒してしまう生き物である。三十数年生きた清仁とて例外ではない。学生のノリで、またしても古墳に赴いてしまった。やはり、スマートフォンの電波はピクリともしない。しかし、あれが幻ではないことを知っている。
「せめて、一瞬でもネットが使えてたらなぁ」
そうは思うが、後悔するのはいつも終わってからのことで、あの状況で危害を加えないあやかしだと判断して行動するのは難しかっただろう。
「あるじ」
「うん、始めよう」
おはぎが両手を挙げてやる気を見せる。
たっぷりの睡眠、適度な運動が功を奏したのか、おはぎが人型でいる時間を一日六時間までと決めて制御しているからか、彼女が急に兎へ戻ることはなくなった。
国守曰く、おはぎ自身の力が強くなることでも人型でいられる時間が延びるらしいので、二人で体力作りをすることにした。
「ひもの端を右手と左手それぞれで持つんだよ」
「こう?」
「そう。上手だね~!」
今日はお手製のなわとびで運動することにした。これならどこでも出来、金もかからず全身運動が可能だ。
おはぎがなわとびを正しく持てただけで褒める清仁は立派な親バカに成長していた。三十三歳という年齢を考えたら、実際このくらいの子どもがいてもおかしくない。
「じゃあ、さっそく跳んでみようか。俺の真似をしてね」
おはぎの前でなわを回し、一度ぴょんと跳んでみせる。おはぎが拍手した。
「あるじ、すごい」
「ありがと。おはぎちゃんもやってみて」
「うん」
おはぎがぴょんと跳ぶ。次いで、なわがぽとんと落ちてきた。
「おしい! なわをもうちょっと早く回してみると、ちょうど跳んでいる時に足と地面の間を通ると思うよ」
「やる」
「その調子!」
おはぎは失敗しても失敗しても、諦めずになわとびを跳び続けた。何十回目かの挑戦で、ついになわとびが引っ掛からずにおはぎの足の下を通った。おはぎが満面の笑みで清仁に言う。
「あるじ。できた!」
「うんうん! 出来たね! さすが!」
おはぎの笑顔が見られただけで清仁は大満足だった。運動のために始めたことだが、こうやって彼女が何か新しいものに触れて、少しずつ日々の楽しさを見つけてくれたら嬉しい。
「清仁様、おはぎ様」
二人を呼ぶ声がして振り向く。北野が立っていた。畑での作業をした帰りらしい。
「北野さん、こんにちは」
「こんにちは。面白そうな遊びですね」
一生懸命ぴょんぴょんするおはぎを北野が微笑ましく見つめる。清仁にとってしたら北野は優しい近所の女性にすぎないが、健康な体、優しい性格、農業が出来るという点から考えてもかなりの好物件だと思う。両親は早く結婚してほしいようだが、この分ならすぐにでも見つかるだろう。
「きたのさん、あそぼ」
「申し訳ありません。今日は戻ったらすぐに別の仕事がありまして。では、明日お家に伺いますね」
「ぜったい。おはぎまってる」
「はい」
北野がお辞儀をして去っていく。きっと彼女が帰宅して今のことを話せば、両親はまた余計な期待をして盛り上がるに違いない。早いところ、あの家族に春がやってくることを願う。
「ああ、平和だなぁ」
清仁が空を見上げる。あやかしが一体もいない、綺麗な青空だった。
「せめて、一瞬でもネットが使えてたらなぁ」
そうは思うが、後悔するのはいつも終わってからのことで、あの状況で危害を加えないあやかしだと判断して行動するのは難しかっただろう。
「あるじ」
「うん、始めよう」
おはぎが両手を挙げてやる気を見せる。
たっぷりの睡眠、適度な運動が功を奏したのか、おはぎが人型でいる時間を一日六時間までと決めて制御しているからか、彼女が急に兎へ戻ることはなくなった。
国守曰く、おはぎ自身の力が強くなることでも人型でいられる時間が延びるらしいので、二人で体力作りをすることにした。
「ひもの端を右手と左手それぞれで持つんだよ」
「こう?」
「そう。上手だね~!」
今日はお手製のなわとびで運動することにした。これならどこでも出来、金もかからず全身運動が可能だ。
おはぎがなわとびを正しく持てただけで褒める清仁は立派な親バカに成長していた。三十三歳という年齢を考えたら、実際このくらいの子どもがいてもおかしくない。
「じゃあ、さっそく跳んでみようか。俺の真似をしてね」
おはぎの前でなわを回し、一度ぴょんと跳んでみせる。おはぎが拍手した。
「あるじ、すごい」
「ありがと。おはぎちゃんもやってみて」
「うん」
おはぎがぴょんと跳ぶ。次いで、なわがぽとんと落ちてきた。
「おしい! なわをもうちょっと早く回してみると、ちょうど跳んでいる時に足と地面の間を通ると思うよ」
「やる」
「その調子!」
おはぎは失敗しても失敗しても、諦めずになわとびを跳び続けた。何十回目かの挑戦で、ついになわとびが引っ掛からずにおはぎの足の下を通った。おはぎが満面の笑みで清仁に言う。
「あるじ。できた!」
「うんうん! 出来たね! さすが!」
おはぎの笑顔が見られただけで清仁は大満足だった。運動のために始めたことだが、こうやって彼女が何か新しいものに触れて、少しずつ日々の楽しさを見つけてくれたら嬉しい。
「清仁様、おはぎ様」
二人を呼ぶ声がして振り向く。北野が立っていた。畑での作業をした帰りらしい。
「北野さん、こんにちは」
「こんにちは。面白そうな遊びですね」
一生懸命ぴょんぴょんするおはぎを北野が微笑ましく見つめる。清仁にとってしたら北野は優しい近所の女性にすぎないが、健康な体、優しい性格、農業が出来るという点から考えてもかなりの好物件だと思う。両親は早く結婚してほしいようだが、この分ならすぐにでも見つかるだろう。
「きたのさん、あそぼ」
「申し訳ありません。今日は戻ったらすぐに別の仕事がありまして。では、明日お家に伺いますね」
「ぜったい。おはぎまってる」
「はい」
北野がお辞儀をして去っていく。きっと彼女が帰宅して今のことを話せば、両親はまた余計な期待をして盛り上がるに違いない。早いところ、あの家族に春がやってくることを願う。
「ああ、平和だなぁ」
清仁が空を見上げる。あやかしが一体もいない、綺麗な青空だった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─
只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。
相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。
全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。
クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。
「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」
自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。
「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」
「勘弁してくれ」
そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。
優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。
※BLに見える表現がありますがBLではありません。
※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ガールズバンド“ミッチェリアル”
西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。
バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・
「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」
武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる