55 / 66
青年の正体
3
しおりを挟む
ついには桓武天皇が立ち上がった。後ろで安殿親王がわたわたしている。父に合わせて立ち上がった方がいいのか迷っているらしい。結局タイミングを逃して中腰で見守っていた。
「それは……どういう意味だろうか、陰陽師」
──天皇もノリで立っちゃっただけかい。
シリアスな場面のはずだが、いまいち真剣みが足らず、清仁の緊張もすっかり解けていた。
「意味ですか」
ずっと笑うのを堪えていた国守が咳払いをして真面目そうな声を出す。清仁は知っている。安殿親王が現れた瞬間吹き出しそうになっていたことを。見た目に反して、案外笑い上戸なのかもしれない。
「私見ですが、特徴からして白澤というあやかしだと推測しております。白澤は吉兆の瑞獣。つまり、時が動くとは、国自体に影響を与える何か変化が起きるということではないかと」
「うむ、なるほど。白澤か。どういうことが起こるか分かるか?」
「そこまでは難しいです。が、非常事態に備えて、とりあえずは食べ物の備蓄や軍備の確認などされるのが得策だと思います」
国守がそれらしいアドバイスをする。こういう立場の人間はいつの時代も必要なのだと感じた。さらに、複数いた方がいいとも。
陰陽師として国守が言ったことは正しいと思う。しかし、事あるごとに進言し、それを真に受ける上司では上手く成り立たない。だから、助言者は複数置き、それらを聴き比べてより良い結果に結びつけるべきだ。
──というか、国守さんの話は素直に聞くのに、清麻呂さんの進言は笑ってスルーかよ。そうなったの俺が原因だけど!
「分かった。備蓄や軍備だな。よし、さっそく確認しよう。二人とも、助かった」
天皇に礼を言われ、どうにかこうにかあやかしの報告が終わった。これでお役目御免だ。もうこんなことはしたくない。自分はあくまで一般庶民なのだ。
東院を出るまで安殿親王が付いてきて、牛車を乗る際には本当に天皇からのお礼の品を両手で持てない程もらってしまった。遠慮したいが、相手はお散歩おじさんではない雲の上の人物なのでそうもいかず、何度も頭を下げて有難く頂くことになった。
「神の君! またいつでもいらっしゃってください」
「はぁい……お見送りありがとう……」
安殿親王が遠くなる牛車に向かってずっと手を振っている。よかった、好かれていて。物理的に首が飛ぶ心配はなさそうだ。また横で国守が肩を震わせ出した。しかも今は我慢しなくていい状況なので、声を上げて笑われた。
「ははは! 安殿親王と知らず相手していたとはな!」
「うるさいです。顔なんて知らなかったし名乗られなかったし」
「そうだな、神の君……ぶふッ」
「うるさい」
どこまでもからかいたい家主に土産物の一つを押し付ける。
「なんだ」
「中身何か分かりませんけど、いつも居候させてもらってるお礼にもらってください。もらいものをそのまま上げるの失礼とかは言わないでくださいね。俺にはこういう方法しかないので」
早口でまくし立てると、今度はにやにや笑われた。
「お前は不思議な奴だ」
「そうですか」
「それは……どういう意味だろうか、陰陽師」
──天皇もノリで立っちゃっただけかい。
シリアスな場面のはずだが、いまいち真剣みが足らず、清仁の緊張もすっかり解けていた。
「意味ですか」
ずっと笑うのを堪えていた国守が咳払いをして真面目そうな声を出す。清仁は知っている。安殿親王が現れた瞬間吹き出しそうになっていたことを。見た目に反して、案外笑い上戸なのかもしれない。
「私見ですが、特徴からして白澤というあやかしだと推測しております。白澤は吉兆の瑞獣。つまり、時が動くとは、国自体に影響を与える何か変化が起きるということではないかと」
「うむ、なるほど。白澤か。どういうことが起こるか分かるか?」
「そこまでは難しいです。が、非常事態に備えて、とりあえずは食べ物の備蓄や軍備の確認などされるのが得策だと思います」
国守がそれらしいアドバイスをする。こういう立場の人間はいつの時代も必要なのだと感じた。さらに、複数いた方がいいとも。
陰陽師として国守が言ったことは正しいと思う。しかし、事あるごとに進言し、それを真に受ける上司では上手く成り立たない。だから、助言者は複数置き、それらを聴き比べてより良い結果に結びつけるべきだ。
──というか、国守さんの話は素直に聞くのに、清麻呂さんの進言は笑ってスルーかよ。そうなったの俺が原因だけど!
「分かった。備蓄や軍備だな。よし、さっそく確認しよう。二人とも、助かった」
天皇に礼を言われ、どうにかこうにかあやかしの報告が終わった。これでお役目御免だ。もうこんなことはしたくない。自分はあくまで一般庶民なのだ。
東院を出るまで安殿親王が付いてきて、牛車を乗る際には本当に天皇からのお礼の品を両手で持てない程もらってしまった。遠慮したいが、相手はお散歩おじさんではない雲の上の人物なのでそうもいかず、何度も頭を下げて有難く頂くことになった。
「神の君! またいつでもいらっしゃってください」
「はぁい……お見送りありがとう……」
安殿親王が遠くなる牛車に向かってずっと手を振っている。よかった、好かれていて。物理的に首が飛ぶ心配はなさそうだ。また横で国守が肩を震わせ出した。しかも今は我慢しなくていい状況なので、声を上げて笑われた。
「ははは! 安殿親王と知らず相手していたとはな!」
「うるさいです。顔なんて知らなかったし名乗られなかったし」
「そうだな、神の君……ぶふッ」
「うるさい」
どこまでもからかいたい家主に土産物の一つを押し付ける。
「なんだ」
「中身何か分かりませんけど、いつも居候させてもらってるお礼にもらってください。もらいものをそのまま上げるの失礼とかは言わないでくださいね。俺にはこういう方法しかないので」
早口でまくし立てると、今度はにやにや笑われた。
「お前は不思議な奴だ」
「そうですか」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる