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青年の正体
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青年が二人に走り寄る。何故青年がここに。緊張と相まってパニックを起こしてしまいそうだ。横の国守は薄ら笑いで肩を震わせている。手が出てしまいそうだ。
「んぐ、神、ふふ、どうした、面白いことになっているな」
「笑いそうなら喋らないでほしいです」
いちおう笑いを堪えているのか、肩の震えが尋常ではない。これ以上辱めを受けたくないので、仕方なく青年の方に視線を戻した。
「何かご用事ですか? 案内します!」
──東院で働いているのか? それとも仲が悪いらしい父親に付いてきたとか。
彼の保護者がいるなら、一刻も早く迎えに来てほしい。ただでさえ重要なことでここにやってきたというのに、心臓にこれ以上負担をかけたくない。
「ありがとう。でも、国守さんがいるから大丈夫だよ。ちょっと桓武天皇のところに行くんだ」
「え、あ、そうですか。ではまた、私は失礼します」
せっかく申し出てくれたのに可哀想なことをしてしまった。罪悪感が湧くが、致し方ない。清仁は国守とともに桓武天皇に謁見するため歩みを進めた。
話はすでに通っているらしく、特に待たされることなく部屋に通された。そわそわして、畳の目の数なんぞ数え始めてしまった。全然落ち着かなかった。
「いらっしゃるぞ」
国守の言葉に背筋を伸ばす。程なくして、桓武天皇が姿を現した。
「急にどうした陰陽師。何か報告があると聞いたが」
「はッ突然押しかけて申し訳ありません。この者が目撃したあやかしを報告させて頂きたく参りました」
「はて、そちは確か清麻呂の息子だったか」
何故か皆息子だと言い出すが、もうこの際何でもいい。説明するのが面倒だ。子どもは何人もいるらしいので、そのどれかだと思ってもらおう。
「なるほど。わざわざ来たということは重要なのだな。よし、私の息子も同席させよう」
「承知しました」
「これ、あやつをここに」
清仁は大事になったと内心焦る。国守が小声で囁いた。
「気にするな。安殿親王だ」
気にするなと言われても、天皇一族が増えるのは緊張してしまう。すると板戸が開かれ、天皇の息子が入ってきた。つい先ほど会った例の青年だった。
「神の君!」
「だからなんでぇ!?」
ドッキリか。ドッキリなのか? この時代に? 清仁が思わずきょろきょろするが、ドッキリのパネルなどどこからも出てくるわけもなく、青年がにこにこした顔で桓武天皇の少し後ろに腰を下ろした。
身分の高い貴族らしいというとこまでは把握していたが、まさか天皇の息子だったとは。次期天皇だったりするのだろうか。清仁は白目を剥いて気絶しそうだった。
今までどれだけ失礼だったか、考えただけで吐き気がする。毎回笑っていたから大丈夫だと信じたいが、これからはもっと丁寧に対応しよう。
「なんだ、知り合いか」
「はい。私が大変だった時助けてくださったのです」
「そうかそうか、それは世話になった。あとで礼をさせてもらおう」
「大したことはしていないので、お気になさらないでください」
謙遜ではなく本当に大したことはしていないので、自分とのことは綺麗に忘れ去ってほしい。
「いやはや、少々脱線してしまったな。話を戻そう。いつ、どんなあやかしを視たのだ?」
桓武天皇が前のめりになって問う。清仁は深呼吸して答えた。
「一刻程前、長岡京の外を散歩していたら、白色で複数の目と角を持つあやかしと出会ったのです」
「ふむ! 複数の目と角とな!」
興味深いといった顔でさらに近づいてくる。あやかしを視たことがないのなら、どんな小さな情報でも物珍しいだろう。
「そして、そのあやかしに「時は動く」と言われました」
「なんだと!」
「んぐ、神、ふふ、どうした、面白いことになっているな」
「笑いそうなら喋らないでほしいです」
いちおう笑いを堪えているのか、肩の震えが尋常ではない。これ以上辱めを受けたくないので、仕方なく青年の方に視線を戻した。
「何かご用事ですか? 案内します!」
──東院で働いているのか? それとも仲が悪いらしい父親に付いてきたとか。
彼の保護者がいるなら、一刻も早く迎えに来てほしい。ただでさえ重要なことでここにやってきたというのに、心臓にこれ以上負担をかけたくない。
「ありがとう。でも、国守さんがいるから大丈夫だよ。ちょっと桓武天皇のところに行くんだ」
「え、あ、そうですか。ではまた、私は失礼します」
せっかく申し出てくれたのに可哀想なことをしてしまった。罪悪感が湧くが、致し方ない。清仁は国守とともに桓武天皇に謁見するため歩みを進めた。
話はすでに通っているらしく、特に待たされることなく部屋に通された。そわそわして、畳の目の数なんぞ数え始めてしまった。全然落ち着かなかった。
「いらっしゃるぞ」
国守の言葉に背筋を伸ばす。程なくして、桓武天皇が姿を現した。
「急にどうした陰陽師。何か報告があると聞いたが」
「はッ突然押しかけて申し訳ありません。この者が目撃したあやかしを報告させて頂きたく参りました」
「はて、そちは確か清麻呂の息子だったか」
何故か皆息子だと言い出すが、もうこの際何でもいい。説明するのが面倒だ。子どもは何人もいるらしいので、そのどれかだと思ってもらおう。
「なるほど。わざわざ来たということは重要なのだな。よし、私の息子も同席させよう」
「承知しました」
「これ、あやつをここに」
清仁は大事になったと内心焦る。国守が小声で囁いた。
「気にするな。安殿親王だ」
気にするなと言われても、天皇一族が増えるのは緊張してしまう。すると板戸が開かれ、天皇の息子が入ってきた。つい先ほど会った例の青年だった。
「神の君!」
「だからなんでぇ!?」
ドッキリか。ドッキリなのか? この時代に? 清仁が思わずきょろきょろするが、ドッキリのパネルなどどこからも出てくるわけもなく、青年がにこにこした顔で桓武天皇の少し後ろに腰を下ろした。
身分の高い貴族らしいというとこまでは把握していたが、まさか天皇の息子だったとは。次期天皇だったりするのだろうか。清仁は白目を剥いて気絶しそうだった。
今までどれだけ失礼だったか、考えただけで吐き気がする。毎回笑っていたから大丈夫だと信じたいが、これからはもっと丁寧に対応しよう。
「なんだ、知り合いか」
「はい。私が大変だった時助けてくださったのです」
「そうかそうか、それは世話になった。あとで礼をさせてもらおう」
「大したことはしていないので、お気になさらないでください」
謙遜ではなく本当に大したことはしていないので、自分とのことは綺麗に忘れ去ってほしい。
「いやはや、少々脱線してしまったな。話を戻そう。いつ、どんなあやかしを視たのだ?」
桓武天皇が前のめりになって問う。清仁は深呼吸して答えた。
「一刻程前、長岡京の外を散歩していたら、白色で複数の目と角を持つあやかしと出会ったのです」
「ふむ! 複数の目と角とな!」
興味深いといった顔でさらに近づいてくる。あやかしを視たことがないのなら、どんな小さな情報でも物珍しいだろう。
「そして、そのあやかしに「時は動く」と言われました」
「なんだと!」
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