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青年の正体

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 言葉の意味が分からない。あやかしの名前だろうか。会ったことのないあやかしなのに名前が付いているとしたら、とんでもない有名人に出会ってしまったのかもしれない。

「白澤って何ですか?」

 国守が清仁を見て、一つ息を吐く。

「白澤とは吉兆を司る瑞獣だ。人の言葉を操り、国の統治者の前に現れると言うが……お前がそんなわけはないし」

 今度はため息を吐かれた。イラっとしたが、清仁本人も統治者ではないことは重々承知している。

「じゃあ、白澤じゃないんじゃ?」
「いや、絵はともかく、お前の説明を信じるなら白澤以外思いつかない」
「あ、でも、悪いあやかしではないんですよね」
「悪くはない。が、世が何か新しい風を受け入れるために混乱が起こるとも考えられる」

 清仁は厄介なモノと出会ったことを理解した。何故清仁の前に現れたのかは知らないが、あれが本物の瑞獣ならば、国全体の問題だ。

「今から天皇の元へ行く。準備しろ」
「俺も!?」
「お前が視たのだから、お前がいなければならん」

 本当に厄介なことになった。

──桓武天皇に会うなんて、再進言失敗の日以来だよ。でも、上手く行けば再遷都の道も開けるか?

「国守さん、清麻呂さんも連れて行きます?」
「いらん」
「そですよね」

 国守に一蹴され、大人しく後ろを付いていく。今回のことに清麻呂は全く関係無い。国守の判断は正しい。それは分かっている。しかし、清麻呂がいてくれないと清仁にとっては死活問題なのだ。

 普段牛車を常備していない国守が、近くに住んでいるという部下に指示して牛車を用意してもらっていた。なんとなく仰々しい気もするが、相手を考えれば当然か。

「服は朝服だな」
「はい」

 今回は前回のような無礼はしない。

「おはぎちゃん、俺のナカにいてね」
『ぷ』

 物々しい場所に幼女や兎が飛び跳ねていたら、可愛らしいが大変なことになるかもしれない。おはぎは素直に清仁のナカに消えた。

「実に素晴らしい我が子! そう思いません?」
「清仁の式神にしてはイイコだ」
「うううん複雑だけど有難う御座います!」

 おはぎが褒められているので自分のことは我慢することにした。

 二人で牛車に乗る。運転手付きだ。まるで貴族のような扱いに緊張するが、今は周りから見れば貴族だった。

「お前は清麻呂殿の息子ということだったか?」
「いちおう親戚ってことになってます」
「まあ、どちらでも天皇は気になさらないだろう」
「気にしないのヤバイ」

 そうこうしているうちに東院が見えた。前回と違い自分が報告する立場なため、心臓がずっと五月蠅い。飛び出してしまいそうだ。何か癒しが欲しい。おはぎを出して遊ぶことも出来ずもやもやしていると、牛車を降りたところでたまに会う貴族の青年に会った。東院内で。

「神の君!!」
「なんでぇ!?」
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