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秘密のあやかしを探そう

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『我がいなくなったと嘘を吐いたのは何故だ?』
「だって清麻呂さん怖がってるから。必要以上に怖がらせることはない」
『彼奴もお前の家族ということか』

──拗らせてるなぁ。

 清仁にとって清麻呂は家族ではない。しかし、大切な存在にはなりつつある。繊細な早良親王にはそれが不愉快なのだろう。

「ちょっと散歩付き合ってよ。暇でしょ」
『そんなことのために我を呼び出したのか!』

 そもそも、早良親王を呼び出していない。ただ、写真に勝手に写り込んでいたから名前を呟いただけだ。現れたなら少しくらい手伝ってもらおう。こちらは猫の手も借りたい状況だ。

『何故、お前は我を恐れない』
「いやぁ、呪われないって分かったし」

 呪われないと理解したら怖がる必要は全く無い。今までは知らなかったから怖かっただけで、知ってしまえばただの五月蠅い知り合いになる。五月蠅いので出来れば出てきてほしくないし、スマホケースの札はそのままにしておくが。

『ぷ』

 おはぎがぴょんと跳ねると、早良親王が腹を抱えて笑い出した。

『わははは! まさかその小さきあやかし一体で我の呪いを弾けるとでも思ったのか! これは片腹痛し!』
「いやぁ、そこまで自己肯定感強いのに、どうして生前は上手く立ち回れなかったんだろうな」

『何か言ったか? ぼそぼそと小声で言っても届かないぞ』
「何も言ってないです」

 誰も認めていないのに、自身の呪いの力が本物だと確信しているところがすごい。生前もこのような性格だったのだろうか。もしかしたら頑固過ぎて、疑いがかかった際無罪を主張するばかりで喧嘩に発展してああいう結末になったのかもしれない。疑いが晴れるよう、味方を見つけ、証拠を見つければきっとここでこうしていなかっただろうに。

 しかし、証拠が無くとも処刑される時代であるから、それも難しいところか。せめて、早良親王の想いくらいは桓武天皇にも伝わるといい。

「早良親王さ、最近ヤバイあやかし見たりしてない?」
『ヤバイとはなんだ?』
「危なさそうとか、高貴そうとか、通常のあやかしではないあやかし」

 上手く説明が出来ない。当然だ。そのあやかしを清仁は知らないのだから。早良親王が不思議そうに首を傾げた。

『知らん』
「ですよね」

 知っているとは思っていない。藁にも縋る思いで念のため聞いただけだ。万が一の可能性を一つ一つ潰していくしかない。

『何やら妙な物言いだ。ここにおかしなあやかしが住み着いているのか?』

 予想通り食いついてきたが、すでに死者である早良親王なら巻き込んでも平気だろう。清仁が古墳で起きた出来事を話す。

『なるほど。国守が言っていたのなら確かだ。我より高貴な存在があってはならぬ。我も探してやろう』
「もう何でもいいや、ありがとう」

 藁でも悪霊でも使えるものは使わせてもらおう。かくして、二人と一羽であやかし探しに出ようとしたその時、林の隙間から異形の形をした影がぬう、と頭だけを出してこちらを見つめていた。

「うおわあああッ」
『ぬおおおおお!』
『ぷぅッ』
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